顛末
翌朝。
朝食後、楽人たちは母親を残して、住み慣れた家に帰って行った。
美那子は直ぐに興信所を雇って調査を頼み、彼女と母親と祖父母は、それとは別に交友関係から情報や証言を集め始めた。
楽人はそれらを整理して法律と睨めっこする傍ら、渡良瀬警部に相談したけれど、捜査一課なので専門外だと丁重に断られた。
代わりに、【心眼】に電話を繋いでもらったが、その時の彼からの言葉は一言だけ。
『問題無い』
渡良瀬は呆れたが、楽人にとって【心眼】のお墨付きは、万の軍勢より心強かった。
その間、家の家事はサーニャが張り切って……それなりに熟した。
一週間後。
集めた資料を基に、美那子が裁判所へ訴状を提出。
微巳を不法行為で訴えた。
――しかし、全ては遅かった。
『…楽人君……微巳が…逮捕されたって……』
「は?!」
美那子から電話でそう告げられた楽人は、訳が分からず混乱した。
彼女たちは裁判所に訴えたのであって、警察に通報した訳では無い。
それもつい先日。
「後で掛け直します」
楽人はそう言って電話を切ると、渡良瀬警部に電話で事情を伺った。
内部事情は守秘義務があっても、経緯くらいは確認できると思って。
『ああ、それはな…』
渡良瀬の話によると、逮捕の原因は微巳の自業自得だった。
微巳は母親の生前、家で母親を怒鳴ることが多かった。
外でも悲劇のヒロイン気取りで、母親を貶めることを吹聴して自尊心を満たしていた。
そのため、警察が事件の事後調査をしていると、次々に彼女たちの虚言と不法行為を裏付ける証言と証拠が出てきたのだ。
シュピニオン方面からの調査でも、微巳が不当に【リアライザー】の所有権を主張したことなどが発覚。
警察は【超生物保護法】違反で彼女を逮捕した。
――そう、裁判を待たずして、微巳の有罪が確定してしまったのだ。
犯罪を犯せば動機や背景を調査される。
法治国家に於いては当たり前のことだ。
シュピニオンが犯罪を犯した時点で、美那子が訴えるまでもなく、微巳は詰んでいたのである。
(シュピニオンは最初からそのつもりだったんだ…)
楽人はシュピニオンに同情した。
相談できる相手が居なければ、取れる手段は限られてしまう。
現実にはゲームほどのシナジーは無いけれど、それでも数は力だ。
彼はそれを痛いほどよく理解している。
楽人の頭に浮かぶのは、音無静香やアル・ラクスの顔。
彼女たちの前に楽人が現れたように、シュピニオンの前に味方が現れていれば、結果はまた違ったものになっていただろう。
しかし、それを望むには、シュピニオンには他人との繋がりがあまりにも無さ過ぎた。
『…【心眼】が言うにはな、シュピニオンの件が無くても、訴えられた時点で花畑微巳の有罪は確定だったんだとよ』
渡良瀬警部がぼやいた。
彼女たちのことを調べた楽人は、「そんなもんだろう」と既に他人事だった。
一カ月後、法廷にて被告である微巳と、情状証人として出席した息子夫婦が、口汚く罵り合い責任を擦り付け合うことになるが、それはまた別の話である…。
自業自得じゃ仕方ないね




