戦闘
マッドマンたちはピンクを居間の入り口に残し、ブルーが“蜘蛛男”シュピニオンの左に、イエローとグリーンが右に回る。
シュピニオンの左手から放たれた細い数本の糸が、イエローとグリーンへと迫る。
イエローがマッドダガーを振るい糸を纏めて薙ぎ払うが、糸はマッドダガーに絡み付いた。
「ふふんっ」
彼女は不敵に笑って腕を引いて力比べに持ち込もうとした。
しかし、シュピニオンは糸をあっさり根元から切り離し、抵抗を失った彼女はバランスを崩す。
シュピニオンは彼女に突進しようとして、踏み止まって一歩下がった。
その足元を、ピンクの撃ったマッドショットの弾丸が、高速で通り過ぎる。
ピンクの足元に薬莢が転がる。
――マッドショットは標準的な銃弾の一つ、9mmパラベラムを使用する。
これは番組のプロデューサーの意向で、多数の薬莢が転がるシーンを使い回し無しでするため。
まだCG合成も気軽にできない時代だったので、オリジナルの薬莢を作って使い潰すより安上がりだった。
そのお陰で、【リアライズ】したマッドショットは警察で銃弾を補充できるのだから、世の中何が良い方向に転ぶか分からない。
イエローがシュピニオンの気を引いている内に、グリーンがその背後に回り込んだ。
現在の位置取りは、入り口に転がっている美那子と真理の前にピンク、右の壁の莎阿の前にイエロー、左の壁の葛奈の前にブルー、奥の壁の微巳の前にグリーン。
(よし! これで人質を庇いながら戦える!)
マッドマンたちの第一目標は、あくまで人質の救助。
シュピニオンを逮捕できても、犠牲者を出してしまえば世間や上司が……何より彼ら自身が自分を許せないだろう。
――――――――――――――
微巳
緑
葛 青 蜘蛛 莎
奈 黄 阿
桃
美那子 真理
―――――― ――――――
入口
囲まれたシュピニオンは一瞬躊躇った後、ブルーに突進した。
パンッパンッパンッ
ブルーは彼の腹部を狙って、マッドショットを撃った。
彼らの目的は犯人の殺害では無く逮捕だが、相手が【リアライザー】では見た目通りの耐久力とは限らない。
そのため、急所に当たらなければ一般人でも致命傷にならない程度に、マッドショットの出力を抑えていた。
シュピニオンは余裕を以て銃弾に手を翳すと、不定形の糸の塊を出して銃弾を受け止めた。
それから腕を少し上げ、ブルーの頭部に狙いを定めて銃弾を発射。
専門の道具を使っていない分、マッドショットから放たれた時に比べると遅い。
「!?」
キンッ
ブルーは咄嗟に避けようとしたが、反応が遅れて一発がヘルメットを掠めた。
十分に速度の乗っていない銃弾では、下手な防弾チョッキより対弾性能に優れる彼らのスーツは貫けない。
しかし、壁に磔になっている人質はそうはいかない。
何より、シュピニオンに有効となるラインが判明しなかった。
シュピニオンは敢えて避けずに手の内を晒すことで、彼らの銃撃を牽制したのだ。
「…巧いな」
ブルーは敵の戦い方を褒めながら、次は防がれないようにマッドショットの出力を一段階上げた。
彼らは実戦経験が無い。
世間体の問題だ。
【リアライザー】を危険に晒せば、批難の声が上がる。
【リアライザー】が危険な行為を行えば、【リアライザー】が危険視される。
だから国は危険な【リアライザー】に対応すべく、彼らのような存在を集めた。
彼らは今まで、対【リアライザー】の訓練や学習に励んできたが、事件は訓練場で起きている訳では無い。
当然、現場に近い者たちが出動する。
そもそも、【リアライザー】が加害者側として関わる事件自体が少なく、無関係な事件に出動させれば警察が批難される。
結果、これが彼らの初陣となった。
「ブルー!」
ブルーがシュピニオンと睨み合いながら横目で見ると、居間の入り口でピンクが親指を立てている。
ピンクが身動きの取れない美那子と真理を一人ずつ、廊下の曲がり角の先まで運び終わり、戻って来たところだった。
「よくやった!」
「ううん、違う。…見逃してくれた?」
グリーンに褒められたピンクは首を振ると、シュピニオンを見て疑問を口にした。
「違うな。美那子たちは復讐対象ではない。それだけだ」
シュピニオンは抑揚の無い平坦な声で答えたが、ピンクにはそれが余計に悲しかった。
「なんでその優しさで許せないの!」
口を塞がれて黙っていた微巳たちが、「モガモガ」と唸って同意する。
「許せば咲は帰って来るのか? 咲の苦しみは無かったことになるのか?」
それはグリーンが彼に問い掛けたことのもう一つの答え。
「違うわ! 私が言っているのはあなた自身のことよ!」
ピンクが悲痛な声を上げる。
「………」
シュピニオンだけではなく、グリーン、ブルー、イエローもその意味を理解して動きを止める。
理解できなくて怪訝な顔になった微巳たちとは対照的だった。
「…君も失ってみれば分かる」
シュピニオンが喉の奥から絞り出すように呟いた。
「そんなのわかりたくないわよっ!」
ピンクが叫ぶ。
「ははっ。正論だ」
シュピニオンは自嘲した。
愛する人のために復讐鬼になることを選んだ男と、それすら救いたいと思った女。
犯罪を犯した者と、それを取り締まる者。
悪と、善。
もっと前から知り合っていれば、説得が出来たかもしれないし、踏み止まれたかもしれない。
しかし現実は非情である。
彼らに都合の良いドラマは無い。
だから…、
「…話すだけ無駄だったな」
シュピニオンは身構えた。
マッドマンたちも武器を構え直した。
どちらも引けないなら、戦って決着を付けるしか道は残されていない。
それは作り話も現実も変わらない。
そして、ここからがお互いに本番だった…。
* * *
シュピニオンは四方をマッドマンたちに囲まれながらも落ち着いていた。
摺り足でじりじりと常に向きを変え、時折、壁に磔になっている人質たちに手を向ける。
マッドマンたちはそれが誘いだと分かっていても、シュピニオンと人質たちの軸線上から離れられず、攻撃の機会を得られない。
「…やはり巧いな」
ブルーが独り言ちた。
「敵を褒めてる場合じゃないでしょ!」
対面のイエローが文句を言うと、シュピニオンの意識がそちらに向いて僅かに動いた。
ブルーとピンクは、その隙を逃さずマッドショットを撃つ。
パンッパンッ
パンパンパンッ
シュピニオンは双方に両手を向けて、糸を噴射して銃弾を受け止めた。
ブルーは再び防がれたので、マッドショットの出力を更に上げた。
「てやーっ!」
シュピニオンの両手が塞がった隙に、イエローが背後からマッドダガーで斬りかかった。
シュピニオンは身体を無理矢理捻って避けようとしたが、避け切れず背中に当たり、黒と赤のマスクに覆われた顔を歪ませて横に転がった。
そこへグリーンが斬りかかる。
しかし、シュピニオンは横転から跳ね上がってそれを躱し、壁を蹴って、手の平と足の裏で蜘蛛さながらに天井に張り付いた。
「思ったより硬いわね」
イエローが天井を見上ると、シュピニオンの背中には傷が無かった。
どんな鋭利な刃物も、力任せでは本来の切れ味は発揮されない。
逆に、ただの薄い紙でも適切な――と言うよりも不幸な――角度と速度で引けば、深い切り傷を作ってしまうのと同じこと。
マッドダガーは加熱すれば鉄板をも容易く溶解切断できるが、犯人の無力化と逮捕には、明らかに殺傷能力が過剰なので加熱していなかった。
その後もマッドマンたちとシュピニオンの戦闘は続いた。
パンパンパンパンッ
「なんで当たんないのよ!」
ピンクの射撃が下手なのでは無い。
射撃訓練での成績はブルーに続いてピンクが二番手だった。
しかし、狭い室内戦にも関わらず、一発もシュピニオンに命中させることが出来ない。
――本来、室内戦では人数の多い方が有利である。
どんなに身のこなしに優れていても、スペースが限られていては実力を発揮しきれないからだ。
但し、それは一般人に限った話である。
蜘蛛の武器と言えば糸と毒。
シュピニオンは、重力を無視するように天井や壁に張り付き、這い回り、縦横無尽に動き回ってマッドマンたちを翻弄した。
空中にいる彼をマッドマンたちが狙い撃っても、彼は糸を手繰り寄せて、空中でも自在に銃弾を避けた。
彼らは知らなかった。
シュピニオンが電話に気付いていながら、敢えて花畑家から逃げなかった意味を。
彼らは彼を追い詰めたのではない。
誘い込まれたのだ。
彼らは正に、蜘蛛の巣に掛かった得物だったのだ。
ぶんっ
シュピニオンも避けるだけでは無い。
糸をその辺の物に絡めて、彼らに放り投げて牽制する。
テレビのリモコン、ジュースの入ったグラス、個包装に包まれた煎餅が乗った皿、造花の入った花瓶…
ガチャンッ
「臭っ!」
イエローは飛んで来た花瓶をうっかり割ってしまい、何時から入っていたのかも分からない水を被り、ヘルメットの下で嫌そうな顔をした。
ヘルメットに覆われていても、変身モノのお約束で臭いが分かるのだ。
「うえ~…。これと言うのも前情報が無かったせいよ!」
「よし。帰ったら上司に報告しよう」
「今のなしで!」
イエローとグリーンが漫才をしながらシュピニオンに接近戦を挑んでいる間に、ピンクがブルーの背後に回って葛奈の救助を始めた。
三人の要救助者は未だ蜘蛛の糸で壁に磔にされたまま。
ピンクは葛奈の四肢に巻き付いている糸を解こうとしたが、結び目も無く、手で引っ張るくらいでは緩みもしない。
マッドダガーで切ろうと試みても刃が全く通らない。
「切れない? それならヒートブレードで!」
ピンクがマッドダガーを持つ手に左手を添えると、その刀身が加熱していき、僅か数秒で真っ赤に染まる。
ピンッ
鉄板すら焼き切る高熱の刃が、今度こそ強靭な蜘蛛の糸を断ち切った。
ピンクは人質を安全に下ろすために、まず先に左足と右腕の糸を切断。
続けて右足を抱えながら糸を切断すると、残る糸に引かれてバランスを崩す葛奈をゆっくり床に立たせてから、左腕の糸も切断した。
全ての糸から解放された葛奈がその場にへたり込む。
「余裕ができたら逃げてね」
「ふがっは」
ピンクが声を掛けると、葛奈は返事をし、口を塞いでいる糸の塊を剥がし始めた。
急に動かれると危ないのでヒートブレードは使わなかった。
「ピンクっ! 避けろっ!」
ブルーが叫ぶ。
声に反応してピンクが振り返った時には、目の前にシュピニオンが迫っていた。
クロールのように上から斜め下に突き下ろす、指を揃えた貫手。
ピンクは避ければ葛奈に当たると判断し、その腕を両手で左右から挟んで受け止めた。
「きゃっ!?」
しかし、身体能力で勝る相手の体重を乗せた突き。
両腕の握力で支えられるはずもなく、シュピニオンの貫手は彼女の大きくない胸に刺さった。
彼の非力か、それとも彼女のスーツの強度か。
その爪はスーツの胸元に刺さったが、薄い胸の表面を傷付けただけで止まった。
「ピンクから離れろっ!」
ブルーはピンクへの誤射を恐れ、マッドショットをマッドダガーに変形させて、シュピニオンの背中に斬りかかった。
シュピニオンは離れようとしたが、ピンクが彼の右腕を掴んで離さない。
彼は左手の指を揃えた貫手で、彼女の腹を貫いた。
あまり逞しくないピンクの腹筋に、指が数ミリ埋まった。
「――っ!」
ピンクが激痛で声にならない悲鳴を上げ、シュピニオンの腕を掴む力が緩む。
シュピニオンはその隙にピンクの足を踏んで、思い切り両腕を引いて後ろに飛び退く。
その勢いで彼女の胸元が大きく裂け、慎ましい胸が半分ほど露わになる。
ブルーのマッドダガーが一瞬遅れて、シュピニオンの居た空を切った。
「…ぅっ!」
ピンクは片手で胸元を隠そうとしたところで、苦しんで蹲った。
「大丈夫か?!」
「スー、ハ―、スー、ハー……うん、大丈夫。これは……多分毒ね」
心配するブルーに、ピンクは深呼吸をして答えた。
「…蜘蛛らしいな。本当に大丈夫か?」
「少し身体がだるいけどね」
「無理はするな。…皆! 奴の爪には毒がある! 気を付けろっ!」
ブルーはシュピニオンを引き受けてくれている仲間たちに忠告を飛ばし、援護射撃をした。
既にマッドショットの出力は最大まで上げていたが、それでも、シュピニオンは手の平から噴出させた糸で銃弾を受け止める。
「サンキュー!」
「了解!」
シュピニオンはグリーンとイエローを相手取りながら、壁に貼り付けた糸を使った空中機動で、相変わらず全ての銃弾を避けてみせた。
しかし、マッドマンたちもそれは想定済み。
ピンクはその隙に微巳が磔にされている壁まで走り、その足元に滑り込んで救助を始めた。
(身体が思うように動かないっ!? さっきの毒ね……でもっ!)
ピンクは高熱に魘されるような感覚を味わっていた。
頭が痛み、視界は揺れ、身体の反応も鈍く感じられる。
先程滑り込んだのも、狙ったのではなくバランスを崩したから。
――猛毒である。
シュピニオンの正体は、猛毒で有名なシドニージョウゴグモの蜘蛛人間だった。
シドニージョウゴグモは黒く、腹部の口元付近だけが赤い。
目は良くないが、振動に敏感で、巣を張って待ち伏せて、強靭な顎で鋭い牙を突き立てて毒を何度も注入して獲物を仕留める。
その毒は「ロブストキシン」と呼ばれる神経毒で、イオンチャンネルを阻害する性質上、霊長類の天敵。
神経や筋肉の機能を過剰反応させ、最終的には神経細胞を破壊して死に至らしめるが、現代では血清がある。
その毒をピンクは胸部と腹部、二カ所から注入された。
しかし、彼女は体調の悪さを自覚しながらも、仲間に心配をかけさせないために黙って救助活動を行った。
視界が定まらない。
手先が震える。
間違って要救助者を傷付けないように慎重に糸を斬った。
そのせいで、葛奈の時より目に見えて手際が悪い。
ベリッ
磔から解放された微巳は、葛奈の様子を見て大丈夫と当たりを付け、口を塞いでいる糸の塊を無理矢理引き剥がした。
「いたっ!」
無論、大丈夫では無い。
蜘蛛の糸は主成分がタンパク質とは言え、粘着力が強い。
微巳はガムテープを剥がしたような痛みに腹を立て、最も近くのピンクに八つ当たりをした。
「なんでもっと早く助けなかったのよ! この鈍間! 一家の主を優先するのが義務でしょうが!」
「―――っ!」
ドンッ
ピンクは嫌な気配を感じ、咄嗟に微巳を突き飛ばした。
突き飛ばされた微巳は、ゴロゴロと横転して壁にぶつかって止まった。
「――ぁにすんの…よ?」
微巳は上半身を起こして、転がって来た方向に怒鳴りかけて固まった。
彼女を突き飛ばしたピンクは、右手首を持っていたマッドダガーごと、大量の糸の塊で壁に縫い付けられていた。
「ピンクっ!」
「私は大……丈夫だから! 人質の救助を優先してっ!」
ピンクが気丈に叫び、ブルーは莎阿の救助に向かった。
凡人の微巳や葛奈が剥がせた糸の塊を、マッドマンであるピンクが引き剥がせない道理は無い。
彼らは誰もがそう考えた。
グリーンとイエローは、引き続きシュピニオンを接近戦で引き付けた。
戦闘開始から続けていたことだから問題ない。
彼らは誰もがそう考えた。
――しかし、それは致命的な判断ミスだった。
(まさか!?)
糸の塊を剥そうとしていたピンクは、まだ壁に磔になっている莎阿が視界に入り、自分の見通しの甘さに気付いた。
四本の糸で磔にされているということは、人一人の体重に二本で十分ということ。
微巳たちの口を塞いでいた糸は、用途が違うので量も粘度も別物だったのだ。
ピンチはピンクだけでは無かった。
今までグリーンとイエローがシュピニオンの相手を出来たのは、ブルーの援護射撃があってこそ。
純粋な二対一では分が悪く、彼らはシュピニオンの糸を使ったトリッキーな動きに翻弄された。
グリーンの右腕に糸が絡み付き、その先が天井に貼り付けられた。
一人でシュピニオンを相手にすることになったイエローに、グリーンを助ける余裕は無い。
逆に余裕の出来たシュピニオンはグリーンの左腕も封じると、続けてピンクにも追加の糸の塊を飛ばした。
右腕を壁に縫い付けられている彼女に避けられるはずも無く、その左足、右足、左腕が順々に壁に縫い付けられてしまう。
最早、標本に釘付けにされた蝶に等しく、ピンクは必死に藻掻いたけれど、それはスーツの裂け目から覗く小さな胸を揺らすことしか出来なかった。
「下がっててくれ」
ブルーはヒートブレードで最後の人質を糸の拘束から解放し、彼に居間の入り口への退避を促す。
ブルーは返事を待たず振り返って、その光景に絶句した。
グリーンは天井から伸びる二本の糸で吊り下げられている。
ピンクは糸の塊で四肢を壁に貼り付けられている。
そして今、孤軍奮闘中のイエローは、シュピニオンに両手首を掴んで押し倒され、彼の手の平から出た糸の塊で床に縫い付けられた。
イエローに馬乗りになったシュピニオンは右手の指を揃えると、彼女の人並に膨らみを主張する胸に爪を突き立てた。
「キャーッ!」
イエローが痛みに悲鳴を上げる。
シュピニオンは左手を振りかぶって指を揃えると、今度は彼女の腹部に突き立てた。
「――っ!」
イエローが声にならない悲鳴を上げる。
神経毒が回り、先程よりも苦悶の表情が濃い。
グリーンは手首を捻ってマッドダガーで糸を切ろうとするが、加熱していない刃では切れそうに無い。
加熱するには両手で構えなければならない、ヒーローらしい設定が裏目に出た。
ピンクは必死に糸から逃れようと藻掻くが、神経毒のせいで最早人並の力しか入らない。
シュピニオンがイエローの胸から右手を引き抜いて、再び振り上げた。
――ピンクは最初に刺された時、何とも無かった。
しかし、二回目は刺されただけで苦痛を感じ、その後徐々に身体の自由を奪われていった。
それでは三回刺されたらどうなるのか?
…最悪の想像が全員の脳裏を過ぎる。
「止めろーーーーーーーーーーっ!」
ブルーが叫びながら走り、イエローに跨るシュピニオンに背後からマッドダガーで斬りかかった。
振り下ろす瞬間、赤熱した刃が彼の視界に入る。
「――っ!」
気付いた時にはもう遅かった。
全力で走り、全力で振りかぶった腕が、直前で止められる道理は無い。
ザシュッ
赤い血飛沫が上がった。
鉄板をも容易く切り裂く赤熱した刃は、シュピニオンの背中を右肩から左脇の下まで大きく焼き割いた。
刃が数センチ長ければ両断されていただろう。
「ごばっ!」
シュピニオンが吐血した。
血は下になっているイエローに降り注ぎ、黄色いヘルメットに赤いマダラ模様が出来る。
ドタッ
背骨を失ったシュピニオンは、重力に引かれるように横に倒れた。
「何故…」
ブルーは呆然と呟く。
シュピニオンの身体能力なら、彼の声に気付いてから避けることも出来たはずだった。
「…悪…は……裁かれ……なけれ……ばなら…ない…………ぐはっ!」
シュピニオンは最後に部屋の隅――微巳――へと視線を向けると、血を吐いて事切れた。
それは四人のヒーローたちを翻弄した男とは思えない、あまりにも呆気無い最期だった。
「はんっ! いいざまよ! この恩知らずのグズ男がっ! そもそも…」
微巳は部屋の隅で立ち上がってシュピニオンの批難を始めた。
ブルーは彼女を無視して、淡々と仲間を蜘蛛の巣から解放すると、スマホに向かって報告した。
「…レッド、状況終了だ。要救助者に死傷者なし。犯人は死亡。ご家族を連れて来ても大丈夫だ」
悪ー1




