三度目も正直
ピクリッ
花畑家の居間。
入り口に立つ【蜘蛛男】は床に伝わる振動を感じたが、無視をしてもう一度尋ねた。
「反省はできたか?」
彼はそう言って、目の前の三人の口を縛っている糸を緩めた。
すると、彼女たちは次々に反省を口にした。
「反省しました! もうしませんから許してください【蜘蛛男】様!」
正面の壁に磔にされた四十路の女、花畑微巳が憐れみを誘うように謝罪した。
「反省したからもう苦しいのやだぁ…」
左の壁に磔にされたその息子、莎阿が泣きごとを言った。
「ごめんなさい。謝るから許して」
右の壁に磔にされたその嫁、葛奈が謝った。
彼女たちは謝った後、【蜘蛛男】の反応を待った。
当初のように喚き続けない点は、ある意味で反省したと言えるだろう。
但し、それは人間として当たり前のことであって、彼が確認した反省とは全く無関係なものだった。
「…何に謝っているんだ?」
「「「え?」」」
【蜘蛛男】が問うと、彼女たちは言葉の意味を理解できなくて呆然とした。
「あんたに?」
「ばあちゃんに?」
「咲さんにしたこと?」
彼女たちの返答は何故か疑問形だった。
当たり前である。
その場凌ぎの謝罪には、最初から意味なんて無かったのだから。
「…また嘘か」
【蜘蛛男】は溜め息を吐いた。
彼に嘘は通じない。
蜘蛛の化身である彼は微細な振動に敏感で、設定の反映によって、糸から伝わる振動によって心境の揺れを感じ取ることが出来る。
言うなれば、生体嘘発見器。
口先だけの反省した素振りなど、通用するはずも無かった。
――屡々、『女性は謝らない』と勘違いしている男性がいるけれど、それは正しくない。
謝れない最大の要因は性別では無く、子供にありがちな現実を認める能力の不足に他ならない。
そう、彼女たちのように。
「あーもーうっざいなー! さっきから何度も謝ってるでしょ! はいこれでおしまいっ! 早くこれ解きなさいよ!」
「なんで僕が謝んなきゃなんないんだよ! 僕は何もしてないのに!」
「そうよそうよ! 私たちに謝らせて何が面白いのよ? 悪者をつくりたいの?」
「もう死んでる奴より生きてるあたしの方が大事だろ!」
彼女たちは謝罪した振りが通用しないと気付くと、聞くに堪えない罵声を喚き始めた。
思い通りにならない原因を外に求める様は、正に大きい子供たちそのもの。
そして、これでも一度目よりはマシなのである。
――――――――――――――――――――
『もしかして怒ってんの? 怒ってるのこっちなんだけど?』
『姉さんも姉さんよ! なんで捕まってんのよ! 姉ならあたしを助けなさいよ! っの無能が!』
『姉が無能ならその友達も無能じゃん!』
――――――――――――――――――――
その時は、見兼ねた【蜘蛛男】が、彼女たちの首を再びキュッと絞めて失神させた。
彼女たちは二度目の失神から目覚めて、漸く少しはマシになったのだ。
(ですよねえ…)
須磨真理は合計三度目の逆切れを見て溜め息を吐いた。
彼女は今、【蜘蛛男】の糸で口を塞がれ、全身をグルグル巻きにされ、居間の入り口付近の床に転がされている。
一緒に入って来た、微巳の姉である美那子も同様だった。
彼女たちが口を塞がれたままなのは、【蜘蛛男】にとって何の恨みも無いからだ。
(そろそろまた『キュッ』かな?)
と、真理が考えたのも束の間、
ヒュンッ
彼女の予想とは違う音を立てて、【蜘蛛男】の手から4本の糸が居間の入り口に向かって伸びた。
ダンッ
何も無い場所で床を蹴る音がした。
直後、部屋の中に四人の全身タイツの男たちが現れた。
「スーパー戦隊?!」
叫んだのは莎阿だった。




