番外編:バッドエンド5
世界有数の大都市ニューヨーク。
かつては経済の中心とまで呼ばれた、世界で最初に人口千万人を突破したことで有名なミレニアム都市も、今は昔。
ニューヨークはその知名度の高さから、過去に三度、【Zナンバーズ】の武術大会の舞台となった。
何度も舞台となったのは、無事だったからではない。
【Zナンバーズ】は無差別破壊を行わないから、建物が壊し切れていないだけである。
かつては世界に名を轟かせた高層ビル群も、その多くが無残にも瓦礫の山と化しているが、所々には無傷に近いビルも残っている。
――それはまるで墓標。
本物の墓標と違うのは、人が亡くなるほどにその数を減らしていくこと。
それでもまだ半数近くを残している以上、遠からず四度目があると目されていた…。
「キャーーーーーッ!」
大都市の廃墟に、絹を裂く少女の悲鳴が木霊した。
三度戦場となった地に、まともな人間は残っていない。
未だニューヨークに住んでいるのは、他に行く当ての無い者や無法者だけ。
売り手の消えた街で、誰もが窃盗と略奪によって生活をしている。
その金髪の少女とて、例外では無い。
「ムホッ。お嬢ちゃん、み~っけ」
「一人でこんな所で何してるのかなー?」
「ゲヒヒヒ、悪い狼さんに食べられちゃうぞ~?」
「お兄さんたちが、お家まで送ってあげるよ。グヘヘヘ」
「その代わり、お礼はたっぷりいただくけどな。グフッ、グフッ」
使用感溢れる革ジャンにデニムを着て、腰や手に刃物や銃を持った五人組の男たち。
その親切ぶった野卑な物言いは、英語であることを除けば万国共通。
――世紀末名物、ヒャッハー族である。
お嬢ちゃんと言うには少し無理のある少女は、小さな果物ナイフを両手で握って震えた。
恐怖に身が竦んで動けない。
カツッカツッカツッ…
通りの先から足音が聞こえた。
「助けてっ!」
少女が叫び、男たちが振り返る。
曲がり角から姿を現したのは一人の女性。
白い鍔の広い帽子を被り、涼しそうな真っ白いワンピースドレスを着た、白い髪の美女。
「グヘヘヘ…。これまた上玉じゃねーか」
「ムホッ、一緒に遊ぼうぜ」
「優しくカワイがってやるからよ~」
「お前のは小さいだけだろ」
「止めろそれはオレに効く」
男たちは美女に舌なめずりをする。
少女は絶望した。
(彼女も慰み者にされる…)
少女がそう思った直後、不意に男たちの一人が姿を消した。
彼女は最初、何が起こったのか分からなかった。
次の瞬間、残りの四人も姿を消した。
今度は少女にも見えた。
バッ
少女がそちらを振り向く。
そこには影のように黒い大型犬が五匹、男たちだった物を一つずつ咥えて彼女を見ていた。
黒い犬は全て同じ姿。
右前足に白いラインが入っていて、左の瞼を縦断する傷があった。
クローンでも有り得ない非現実。
――恐怖神話の黒い猟犬、偏在する者。
ニューヨーク近辺で目撃例が多かったため、少女も聞いたことくらいはあった。
少女は死を覚悟し、両手で顔を覆って屈み込んで目を閉じた。
ミシミシ…
まるで建物かタンスでも軋むような咀嚼音が、少女の耳に聞こえてくる。
少女は目を更にきつく閉じて、両手を耳に回して塞ぐ。
シャリシャリ…
今度は大根おろしを擦りおろすような音が、鼓膜に直接響いてきた。
少女の顔が泣きそうに歪む。
しかし泣き叫ぶことは出来ない。
そんな真似をすれば、黒い犬たちの興味を引いてしまうからだ。
ズメリ、ズメリ…
少女は気が狂いそうになりながら、必死に冒涜的な音に耐え続けた…。
永遠に続くかと思われた咀嚼音が急に止まった。
(私の番なのね…)
少女は死を覚悟したが、いつまで経っても何も起こらない。
彼女の身体は震えているが、痛みも苦しみも襲って来ない。
彼女が恐る恐る目を開けてみると、黒い犬たちはどこにも居なかった。
黒い犬たちが居た場所には黒い染みが残っていたが、彼女にはその意味は分からない。
男たちだった物も残っていない。
先ほどの白い髪の美女が、その近くに佇んでいる。
…真っ白いドレスの胸元に、黒い斑点が出来ていた。
「大丈夫?」
少女が駆け寄ると、白い髪の美女は振り返って口を開いた。
くぱぁ…
顔に線が走り、ヤツメウナギの口のように放射状に開く。
皮膚の下の筋組織のような触手が、少女の視界いっぱいに広がったかと思うと、
バクンッ
少女の上半身を丸ごと食い千切った。
ヌシャリ、ヌシャリ…
少女は自らが先ほど聞いた音となって、この世を去った。
グニャグニャ~…
食事を終えた白い髪の美女の身体が、まるで粘土細工のように歪んでいき、数秒もすると一回り小さくなり、先ほどの少女と全く同じ姿になった。
身体だけではなく服装まで同じ。
違いと言えばその髪が白く、顔に表情が無いことだけ。
彼女は擬態したのでは無い。
それは例えるなら、食事をして服が汚れたから着替えたようなもの。
先ほど黒い犬にならなかったのは、着慣れた服に似ていなかったから…。
――彼女の名はライザーⅠ。
日本初のハリウッド映画化を果たした作品“偽神装甲ライザー”の主人公。
【深淵の超越者】の徒名に相応しい、人理の外にある異形。
その目的は不明。
人類も【リアライザー】も捕食して彷徨う、その正体が人の口に上ることの無い、知られざる捕食者。
“彼”が“彼女”になったのは単なる成り行きの結果。
次はまた“彼”になるかもしれない。
それで見た目は変わっても、中身は決して変わらない。
彼を人類が正しく理解することは無い。
人類が生み出したものでもそこに変わりは無い。
何故なら、彼が生まれたことこそが人類の愚かさの証であり、真実たる偽りの神の在り様なのだから。
彼女の足が動く。
また何処へともなく彷徨う。
彼女は止まらない。
いつか■■■■の■■■に至るその時まで…。
(*´ω`*)「おっぱいかと思った? 残念! 白髪ちゃんでした!」




