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魍魎戦記:処刑用BGM

「来たな」


 【心眼】が呟いた。


「――っ!」


 特殊部隊のリーダーは、ミサイルに気付かれたと判断し、逃げられることを危惧して動いた。

 砂浜に転がっている――切断された彼自身の腕が握ったままの――マシンガンを、残った手で拾い、【心眼】に向けて構えた。

 しかし、引き金を引くよりも早く、【深淵の超越者】の振動剣によって、その腕も切り落とされた。

 【深淵の超越者】自身にとっては無害であっても、【心眼】や戦小町に当たれば無傷では済まないからだ。


 ――命令は無かった。

 しかし、部下たちは一瞬の躊躇も無く、リーダーに倣ってマシンガンを拾い、そして同様に切断されていった。

 両腕を失った彼らに、自力で止血する術は無い。

 もう彼らに出来ることは、ただ苦しみながら出血死を待つことだけ。

 それでも、彼らは誰一人として泣き言を口にしない。


 一方で、奪った棒手裏剣しか持たない信那は、戦小町と対峙したまま微動だにしなかった。

 彼女は現代兵器の扱い方を習っておらず、使用許可も無く、そしてそれを覆す命令も無かったからだ。

 故に【深淵の超越者】に見逃されたのである。


(これでいい…時間は十分に稼げた)


 未だ逃げようともしない【心眼】たちを見て、リーダーは勝利を確信した。

 彼にとっての勝利とは、【心眼】が他国の手に渡らないこと。

 もう【心眼】はミサイルの有効範囲から逃れられない。

 未来永劫、他国の手に渡ることは無い。

 彼は祖国の憂いを一つ潰せたことに安堵した。


「――え」


 【心眼】が何かを呟いた。


「…正気かっ?!」


 彼の声を聞いた【深淵の超越者】が、焦って上空を見上げた。

 彼の超人的な知覚は、本来なら見えるはずのない高度と距離にある、ステルス戦闘機の下部ハッチが開く様子を目視していた。


「今更気付いてももう遅い…!」


 リーダーは【深淵の超越者】の動揺を、自らの推論が裏付けられたと思って勝ち誇った。

 しかし【深淵の超越者】はその言葉を聞いていなかった。


 ――ライザーⅠはダークヒーローである。

 平和を愛しこそすれ、無条件に全てを救おうと考えるほど、身の程知らずでは無い。

 彼がその気になれば、今からでも【心眼】と戦小町を抱えて、ミサイルの有効範囲から離脱することも容易い。

 その結果、周辺住民に被害が出たとしても、悲しみこそすれ、責任を感じるほど傲慢でも無い。


 …だから彼が驚いたのはミサイルでは無く、別のことだった。


「北西距離993、高度598、仰角31、左2.6」


 【心眼】がステルス戦闘機の座標を口にした。


「…オレは知らないからな」


 【深淵の超越者】が遠回しに承諾をすると、【心眼】は口の端を歪めた。


 【深淵の超越者】は指定された通り僅かに左を向き、上体を逸らした。

 彼の超人的な感覚は、まだ目標がその地点に到達していないことを察知していたが、構わず準備態勢に入った。


 外骨格の胸筋のような胸部装甲の中央に、両手の指を揃えて立てると、胸部装甲は僅かに横にスライドして隙間が出来た。

 その隙間に指を入れ、胸部装甲を両開きの扉のように開いた。

 胸部装甲の内面は関節部のような有機的な組成をしている。

 しかし、その内側にあったのは皮膚でも、筋肉繊維でも、内臓でも無く……銀河だった。


 そこには宇宙があった。

 吸い込まれそうな真空の黒があり、星々の光があり、中央には時計回りに渦を巻く銀河があった。

 銀河の中心は黄色い球状に近く、その周りは外側に行くほど黄色から赤、赤から紫、紫から青へと極彩色の渦が幾重にも重なっている。


《四肢に光輪、額に太陽、胸に銀河》


 ライザーⅠの代名詞である。


「――%だ」


 【心眼】が静かに命令した。


 【深淵の超越者】の周囲で、小さな光の粒が生まれては、胸の銀河に吸い込まれていく。


 フィーーーー…


 …と同時に、耳鳴りのような音が、周囲に鳴り響き始めた。

 それは苦痛に呻く迷彩服の男たちの声よりも小さいのに、誰の耳にも明瞭に聞き取れた。


 数秒、或いは数十秒後。

 【深淵の超越者】の胸の銀河から、一条の闇が閃光のように放たれた。

 それは真空の黒。

 一切の光を許さない完全な闇が、人工の光に彩られた夜の空を、星々の光に満ちた星空を、真っ黒な絨毯でも敷くかのように黒に染め上げた。


 漆黒の絨毯は、射線上にあったステルス戦闘機も、そこから投下されたミサイルも飲み込んで、大気圏を越えて遥か彼方まで染め上げていった。


 光の届かない闇の中を見通す術は無い。

 しかし、それを認識できる者たちには、ステルス戦闘機やミサイルの末路が認識できた。

 闇に触れた部分からではなく、内も、外も、距離も、大きさも関係無く、等しく同時に、素粒子レベルで分解されていく様子が。


 数秒後。

 闇の閃光が消えた時、そこには何も残っていなかった。


 ――イクリプス・スマッシャー。

 彼、ライザーⅠの最強兵器である。

 イクリプスの名を冠するそれは、全てを蝕み無に帰すと言われていた。

 彼は設定にある全ての力を使える訳では無かったが、それでも間違いなく【リアライザー】最強の一角と言えた…。

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