魍魎戦記:決断
(…作戦失敗だな)
特殊部隊のリーダーは、作戦の失敗を認めた。
彼を含めて12人の部隊は一人が死亡、残り全員が片腕、もしくは両腕を失い戦闘続行不可能。
数人の狙撃班、人質確保の別動隊、情報封鎖の別動隊、いずれも連絡不能。
まともに戦えるのはバケモノ一人だけ。
対する敵は、戦小町が軽傷を負っているだけで、残りの二人は無傷。
まるで未来でも見えているかのように凡ゆる攻撃を躱す【心眼】と、マシンガン程度では傷一つ付かず、目にも止まらぬ速さで防刃ジャケットを容易く切り裂く【深淵の超越者】。
(【深淵の超越者】のせいで……いや、【心眼】を確保しようとすること自体、間違っていたのかもしれない)
作戦が失敗した後の特殊部隊の行動は一つしかない。
証拠を残さないことだ。
所属を悟られないために証拠を隠滅する。
技術を奪われないために証拠を隠滅する。
情報を与えないために証拠を隠滅する。
信頼性を求められる彼らの装備は、優秀ではあっても、最新鋭でも秘匿情報でも無い。
日本が持っていない技術の可能性は極めて低く、奪われるデメリットは無きに等しい。
だから彼らが最も警戒すべきは、捕まって自白させられること。
無駄に人権に煩い国であっても、自白剤を使われない保証は何処にも無かった。
しかし、彼らには自力で逃走する術も、仲間に止めを刺す術も無い。
歯に毒を仕込むなどという冗談は、激しい運動を余儀なくされる特殊部隊にあるはずもなく、自害用の毒は携帯しているが、誰かしら助けられてしまう可能性は否めない。
よって、彼らに取れる選択肢は二つ。
何もせず情報漏洩となるか、それとも他者に――【心眼】ごと――一掃して尻拭いをしてもらうか。
(…【心眼】は危険過ぎる)
リーダーの決断は後者だった。
彼らが祖国から与えられた使命は、【心眼】の確保。
特殊部隊である彼らにとって、国からの使命は命よりも重い。
実際に目にしたことで、凡夫に過ぎない彼にも、その価値が計り知れないことは理解できた。
しかし、だからこそ肌で理解してしまった。
【心眼】が他国に渡る可能性の恐ろしさを。
(命は惜しく無い。…けれど【心眼】が他国に渡った場合、我が国は滅びる…!)
日本はまだいい。
国民や一部の国々は米国の傀儡と揶揄しているが、その実態が微妙に違うことを彼らは知っている。
最悪は起きない。
仮に日本が世界を征服したとしても、その緩い民族性故に他民族を滅ぼすことは無い。
しかし他の国はどうだろうか。
奪おうとするような者たちが、世界平和を愛するなど、誰が信じられようか。
愛する祖国に盲目的服従な彼だからこそ、それを誰よりも信じられなかった。
だから彼は、例え軍を騙すことになろうとも、ここで【心眼】を抹殺することを選んだ。
ピピッ
彼は無線機で一つの信号を送った。
『【心眼】を確保。証拠隠滅のため、白似海岸の爆撃を要請』
* * *
――日本の遥か上空。
そこに国籍不明のステルス戦闘機の姿があった。
音速を超えて衝撃波で察知されることを警戒し、燃費を優先した時速三十km程度で、各国の監視網の合間を縫うように巡航していた。
ピピッ
パイロットは味方からの通信を受信すると、操縦桿を引いて戦闘機を旋回させた。
ステルスを維持している間は返信はできない。
向かう先は特殊部隊から指示された白似海岸。
間も無く海岸を射程に収めると、機体下部のハッチを開き、ウェポンベイに搭載されていたミサイルを投下した。
パイロットは大きく溜め息を吐き、自分の仕事は終わったとばかりに、脱力して背もたれに体重を預け、手元の飲料に口を付けた。
…それが彼の最後の晩餐となった。




