魍魎戦記:待ち人
バキッ
暗闇で鈍い音がした。
「うぐっ…!」
暗視ゴーグルと都市用の迷彩服に身を包んだ男が、腹を抑えて砂浜に突っ伏した。
「遅い!」
戦小町が信那から目を離さずに文句を言った。
「ククク…。約束の時間にはまだ早いのだがな」
月明かりの元、倒れた男の傍に【心眼】が佇んでいた。
周囲に多数の気配が生まれる。
男の仲間……信那の属している特殊部隊の人間たちだ。
彼らは合計で12人。
いずれも倒れた男と同じように、暗視ゴーグルに都市用の迷彩服、その内側に防弾防刃ジャケットを着込み、手には世界中で最も入手の容易なマシンガンが握られていた。
「てっきり来てくれないのかと思って心配したわ」
信那は肩の力を抜くと、戦小町から目を離して【心眼】に微笑んだ。
『今夜十時、海岸で』
水着コンテストの舞台で、彼女が彼を誘ったのだ。
「私が約束を破るとでも?」
「くすっ。そうだったわね。あなたは心眼の英雄だもの」
心眼の英雄は決して嘘を吐かない。
それは設定にして現実。
よく、約束を守れないと嘘を吐いた、或いは嘘になったと言うが、これは正しくない。
端的に言うなら、嘘とは当人が間違っていると認識して口にしたものを指す。
守るつもりの無い約束は嘘であるが、約束を越えた要求を是とすることもまた同様。
それは世界的に有名な、真実の口の条件が証明している。
ズサッ
迷彩服の男たちは戦小町を無視して【心眼】を囲んだ。
そう、信那たちの目的は、最初から【心眼】だったのである。
彼女たちの組織――国家――は、早くから【リアライザー】の可能性に着目していた。
彼らは【リアライザー】を集めようとしたが、【リアライザー】が現れるほど執着している者が、そう簡単に手放すはずもない。
そのため、彼らは早々に非合法な手段に手を出し始めた。
その一番の標的となったのは、エンタメ大国である日本だ。
日本は他国に比べて明らかに【リアライザー】の出現数が多く、また、自分の身に降りかからなければ危機感の薄い国民性から、早期から【リアライザー】の裏取引は始まっていた。
【心眼】たちによって壊滅させられた“写真屋ウロボロス武田”などは氷山の一角に過ぎない。
彼らは世界中の【リアライザー】の情報を集める内に、【心眼】にある疑惑を抱いた。
彼があまりにも事件現場で目撃され過ぎているのだ。
他国にも、警察に所属したり、独自にヒーロー活動をする【リアライザー】は居る。
しかし、それと比較しても多過ぎた。
彼らは【心眼】の原作を調査した結果、信那と同じ特別な【リアライザー】だという結論に至ったのである。
「一緒に来てくれないかしら? そうすれば手荒な真似をしないで済むの」
信那が悩ましげな表情で【心眼】を勧誘した。
【心眼】は左右に首を振る。
それが戦闘開始の合図になった。




