魍魎戦記:デート
「――やはり立ちはだかるか」
夜遅く。
既に日は沈み、海の家の明かりも消えた砂浜で、長身の女――織田信那――は冷たく吐き捨てた。
その目に光は無く、昼間の愛想の良さは嘘のように鳴りを潜めている。
見た目にしても、昼間の水着コンテストの時とは打って変わって、髪は三つ編みにして後頭部で円を描くように纏め、首から下は全身を覆う黒一色のキャットスーツに身を包んでいた。
「当たり前」
海の家の一つ、小さな掘っ立て小屋の陰から、小柄な人影が現れる。
答えたのは丈の短い着物を着た少女……戦小町の織田信長だった。
「コンテストのリベンジなら、またにして貰えないかしら? これからデートなの」
一転、信那は昼間のように穏やかな表情で彼女を窘める。
「わかってて言ってるでしょ」
戦小町が苛立たしげに信那を睨む。
「残念……ねっ!」
信那が戦小町に向かって突進する。
戦小町は左の肘を曲げて指先まで袖に入れると、袖の中に仕込んでいた棒手裏剣を掴んで、突進して来る信那に放った。
信那はそれを避けながら、伸びた戦小町の左腕を掴もうと手を伸ばす。
戦小町の右手が、右下から左斜め上に振り上げられる。
信那は後ろに跳んで躱したが、キャットスーツの左腕の部分が裂けて、月明かりにも白い肌が露わになる。
戦小町の右手には、短い小太刀が握られていた。
戦小町が小太刀を振りながら信那を追う。
信那は大きな胸に腕の可動範囲や勢いを制限されながらも、小太刀の側面を手刀で払い続けながら後退を続ける。
単純な技量ならば信那に軍配が上がるが、素手では分が悪い。
「やっぱりっ!」
戦小町とて対戦格闘ゲームのキャラだ。
ゲーム上では最強キャラの一角だし、織田信長の知名度によって設定面でも優遇されている。
【リアライザー】として設定を反映された彼女の身体能力は、貧弱な小娘の身体の物理的限界であり、下手なプロのスポーツ選手を軽く凌駕する。
しかも、理に適う部分に限定されるとは言え、反映された戦闘技術は、段位こそ無いものの有段者のそれと比べても遜色が無かった。
しかし。
パンッ、ドンッ、スタッ
信那はそんな戦小町の猛攻を、冷静に捌き続けている。
縦横無尽に繰り出される小太刀を、時折混ざる必殺を期した急所への某手裏剣を、その全てを信那は防ぎ続けた。
本来なら有り得ない話だ。
長身の信那と小娘の戦小町。
身長に多少の差はあれど、同じ【リアライザー】。
何なら、キャットスーツに抑えつけられて尚主張の激しい巨大な胸のせいで、腕の動きも、全身のバランスも、信那の方が不利とすら言える。
それなら何が起きているのか。
…設定である。




