帰宅
織田信長コンテストが終わった。
まだ美し過ぎる織田信長……もといポロリに未練があって、出待ちをするという手塚を置いて、楽人たちは会場を後にした。
両親の待つ浜辺のブルーシートへ戻って経過を報告すると、父親も母親もさぞ驚いた。
(最後まで織田信長がゲシュタルト崩壊してたしなぁ…)
それから彼らは海で遊んだ。
昼食やイベントで朝の疲れが取れた楽人は、午前よりも元気だった。
日焼け止めオイルを塗ってもらい、昼食を食べてすっきりした静香も、午後からは眼鏡を外して参加した。
午後は彼女が主役だった。
午前のように水を掛け合えば、勢いを付け過ぎて後ろに仰け反り、盛大な水飛沫を上げた。
ビーチボールで遊べば、自分の頭に乗ったり、真後ろに飛んで行ったり。
遠泳で、楽人と浮き輪に座ったアキラが折り返し地点になれば、見当違いの方向に向かった挙句、足を攣って楽人に救助された。
それを見たサーニャと範子が溺れる真似をして、再び、三度、楽人は背中に女の子を背負って泳ぐことに。
運動音痴のオンパレードである。
静香は皆に笑われて不貞腐れ、楽人に泣き付いててんやわんや。
その他にも、砂の御城を作ってサンドアートの勝負。
優勝者は唯一、子供用シャベルとバケツという道具を使ったアキラとアル・ラクスのコンビ。
アル・ラクスが体力に物を言わせて作った巨大な城壁に囲まれた、アキラが子供なりに工夫した小さな御城。
夕方。
手塚が織田信長にフラれた後も、ナンパを全敗して帰って来た。
近場で唯一眼鏡――跳ね上げ式サングラス――をしていた貴巫女の方にフラフラと寄って行く。
彼女は距離を取ろうと後ろ足で下がったが、疲れが足に来ていて転倒。
盛大に転んで、本日最後の笑いを皆に提供した。
皆で片付けをしている間に、メスリンはレンタルした旧スク水をレンタルショップに返却。
代金を払って《めすりん》と書いたワッペンは、記念品として貰った。
「忘れ物は無いなー?」
「「「「「「「「「「は~いっ」」」」」」」」」」
片付けを終えると、父親の確認で海岸から撤退。
駐車場に戻り、アルファードのリアゲートを利用した簡易更衣室を設置。
長身のアル・ラクスが手伝ったお陰で、来た時よりもスムーズに設置が行われた。
ポリタンクの水を使って塩水を洗い流して、女性陣から先に着替え。
帰りの車は、席が大きく入れ替わった。
帰宅先が違うことを思い出したメスリンが母親と離れたがらず、一先ず母親が【共生者】の運転するセンチュリーに乗った。
海でメスリンと親交を深めた、独りぼっちに辛い思い出のある範子もそちらへ同乗。
残りが父親のアルファードである。
乗り換えも考慮して助手席には貴巫女が座り、楽人の左右には恋人のサーニャと、帰りに話の続きをする約束をした静香。
アキラの席はチャイルドシートなので固定、隣にアル・ラクス、そして必然、残るその隣に手塚が座った。
――――――――――――――――――――
【アルファード内】
貴巫女 須磨舞人
音無静香 須磨楽人 サーニャ
アキラ ヒーロー 眼鏡オタク
【センチュリー内】
サングラス 兵藤
須磨真理 メスリン 真島範子
――――――――――――――――――――
皆疲れていたので、帰りの車内は静かだった。
アキラは車に乗って直ぐに眠った。
車が発進して間も無く、楽人がウトウトと眠そうなサーニャに「寝て良いぞ」と声を掛けようとして、逆の肩に重みを感じた。
彼が振り返ると、静香が彼の肩に頭を預けて眠っていた。
「話の続きをする約束だったのに」と彼が思ったのも束の間、今度は逆の肩にも同じような重みが掛かった。
サーニャである。
彼は二人の気持ちよさそうな寝顔を見て小さく溜め息を吐くと、自分も目を閉じて深い眠りに落ちて行った…。
その後、海に来た時とは逆の順番に家々を回った。
範子の家で範子たちと別れる。
範子はメスリンを両親に紹介すると言って、兵藤のマンションには寄らなかった。
貴巫女は近所の自宅まで、センチュリーで送られた。
手塚を家に送ると、朝は寝ていた親が出て来て挨拶をした。
静香のマンションに着くと、まだ眠そうな彼女を起こして、楽人が部屋の前まで送った。
御影家に着くと、アキラの両親が出迎えて、玄関先で少し話してから別れた。
そして須磨家。
家族を車から降ろした父親は、その足でアルファードをレンタルショップへ返却しに行った。
楽人とサーニャは熱いシャワーを浴びると、直ぐにベッドに倒れた。
母親は父親の帰宅を待ち、二人で久しぶりの晩酌をして、夜遅くまで語り明かす。
彼らの長く楽しい夏の一日は、こうして終わりを告げた…。
* * *
「――やはり立ちはだかるか」
平和? そんなものは無い!




