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イベント:審査結果

《それでは優勝者の発表をします!》


 審査が終了して審査員たちが席に戻ると、司会者が舞台中央に上り、好き勝手遊んでいた参加者たちも元通り整列した。


《海鳴市主催、織田信長だらけの水着コンテストの栄えある優勝者は…》


 ドゥルルルルルルル…


 ドラムを叩く音がスピーカーから流れる。

 音楽隊なんてものは居ないので、只の録音の垂れ流しだ。

 それでも観客席と参加者の間に緊張感が走る。


 …ルル、ドンッ


《――魍魎戦記NOBUNAの、織田信那さんですっ!》


 ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ


 パチパチパチパチ…


 会場中に盛大な歓声と拍手が沸き上がった。


「やっぱりな」

「当然だよな」

「他にいないだろ」

「ポロリ最強」

「もう一度見てー」

「俺はニップレスの方が…」

「私の信長様…」


 気持ちは別として、納得の声が多い。


《それでは審査員の皆様、お願いします》


 パチパチパチパチ…


 司会者が審査員席に手を伸ばすと、拍手に迎えられて、審査員たちが席順に舞台へと上がっていく。

 アイドルの南条きらり。

 【心眼】の英雄アルストロメリア。

 【リアライザー】評論家のハーゲン黒牛。

 海鳴市市長の槙原美由希。

 彼らは参加者が紹介後に並んでいた、舞台の右側に並んだ。




 ――実はこの並び順、司会者と市長しか知らないことだが、小学生アイドルに配慮したものだった。

 彼女の母親が男嫌いなのは、芸能界関係者の間では意外と有名。

 彼女自身は母親の厳しい躾けで表に出さなかったが、当の母親が母親なので意味が無く、心ある者は気付いても配慮して気付かない振りをしていた。


 更に先日、表沙汰にはなっていないが、彼女は【リアライザー】を狙った誘拐事件に巻き込まれて、母親を失った。

 そこへ元から彼女を狙っていたレズのプロデューサーが手を出して…。


 結果、彼女は人間不信に陥っていた。

 そんな彼女が復帰する切っ掛けとなったのが、拉致されていた彼女を救出した【心眼】である。

 無関係である市長には、彼らの間で何があったのかを知る由も無かったが、ファンである司会者が【心眼】をスカウトしたことで、きらりもイベントに参加することになったのだ。


 だから、彼女に知らない人間をできるだけ近付かせないため、他の審査員との間に【心眼】を挟んだ最も舞台から遠い席に座らせていたのである。




《織田信那さん、優勝おめでとう》


 市長から優勝者へトロフィーが手渡された。

 今回のために作られた金メッキのトロフィーで、天辺には歴史の教科書風織田信長の小さな像が付いていた。

 織田信那はトロフィーを両手で受け取った後、片手で抱え直すとその柔らかく豊満な胸でしっかり固定し、空いた手で市長と握手を交わした。


 パチパチパチパチ…


 会場中から三度拍手が送られた。


《織田信那さん、今の気持ちをお願いします》


 司会者が織田信那にマイクを差し出す。


《私のような国一つ纏められなかった若輩者が、これほど多くの民からの支持を得られたこと、誠に光栄に思う》


 ワアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ


 彼女が応えると再び歓声が上がり、彼女はその間にマイクを司会者に返した。


《ありがとうございました。それでは続きまして、審査員からの御言葉です》


 最初に左端の小学生アイドル、南条きらりが舞台中央へ移動して、司会者からマイクを受け取った。


《南条きらりです。今回はこのような素敵なイベントに招待していただきありがとうございました。皆さん個性的な方たちばかりで楽しかったです。また機会があれば参加したいです》


 ペコリッ…ペコリッ


 きらりは子供らしくズレた感想を述べた後、先に参加者たちへ、続いて観客席へ丁寧なお辞儀をした。

 その後、司会者にマイクを返して舞台右側の審査員の列に戻った。


 パチパチパチパチ…


《南条きらりちゃん、ありがとうございました。続きましてはこの方…》


 きらりと入れ替わるように、【心眼】が舞台中央に進み出た。


 司会者は【心眼】にマイクを渡す時、彼の手を包むように手渡す。

 一見すると、目の見えない彼に気を配ったかのように見えるが、彼にそんなものが不要であることは、ファンならば誰でも知っている。

 気配りに見せかけた、単なる役得狙い。

 だから彼のファンたちは殺意の籠った目で司会者を睨んだ。


 ブルッ


 司会者は悪寒に身を震わせたが、気付かない振りをした。

 彼女がこの仕事を受けたのも、偏にこの役得のため。

 そうでなければ、特別手当が出るにしたって、ポロリが出なければポロリをさせられる仕事なんて引き受けていない。


《見事な戦略だった》


 ワアアアアァァァァァーーーーーッ


 【心眼】の言葉は簡潔だった。

 それ故に、彼を知るファンたちは喜んだ。

 嫉妬した。

 賞賛した。

 と同時に、彼女のポロリが計画的だったのだと、誰もが理解して、それが歓声に繋がった。

 良くも悪くも、彼女が最も多くの観客の心を動かしたと言える。

 【心眼】が織田信那に手を差し出す。


《…ゃ…ぅ……何のことかしら?》


 彼女はその手を握って小声で何かを呟いた後、柔らかい笑顔と言葉で惚けた。


《ククク…》


 【心眼】は不敵な笑みを浮かべ、司会者にマイクを返して審査員の列に戻った。


 パチパチパチパチ…


《【心眼】さま、ありがとうございました! 続きまして評論家の黒牛さんです》


 紹介された【リアライザー】の批判で生計を立てる評論家が舞台中央へ向かうのを、【リアライザー】目当てで来た観客たちは冷ややかな目で見ていた。

「【心眼】の後とか悲惨w」「いつも【リアライザー】批判してる報い」「ざまぁw」などと中傷ではない誹謗がそこかしこで囁かれる。


 彼は舞台中央でマイクを受け取ると、真面目な顔で呟いた。


《ええもん見た》


 し~~~~~んっ


 それはたったの一言だった。

 会場中が一瞬静まり返ったが、


 どわ~っはっはっはっはっは~~~~~っ


 一拍置いて、意味を理解した人たちによって会場中が笑い声に包まれた。

 普段は小難しい顔と屁理屈で【リアライザー】の批評ばかりしている彼が、態度はそのまま、発言だけ思いっきりバカみたいなことを言ったのだ。

 これで笑わない訳が無い。


 下手をすればセクハラ扱いされそうな発言だったが、主語が無い。

 これをセクハラと訴えても証拠は無く、それどころか自分がムッツリスケベだと公言するだけ。

 彼はこれを機に、笑いも取れる芸人としても評価されることになる。


 彼は優勝者にも観客にも挨拶もせず、司会者にマイクを返して審査員の列に戻った。

 その不遜な態度こそ、彼の売りなのだ。




《黒牛さん、ありがとうございました。次は投票結果の発表です》


 ざわ、ざわ…


 会場がざわめいた。


《まずは第三位、戦国ヴィランのODA・NOBUNAGA! 110105票!》


 キャーッ、キャーッ


 数少ない女性客の歓声が会場に木霊する。

 反面、男性客の反応は極めて微妙だった。


《四位とは僅差で最後まで接戦を繰り広げていました》


 ――戦国ヴィラン、乙女ゲーだからである。

 美形で無ければ人権が無い。

 モテ無ければ人権が無い。

 主人公に一途で無ければ人権が無い。

 人気乙女ゲー三大要素に加えて、陰のあるキャラで無ければ人権が無いを加えた、王道悪役系乙女ゲーである。


 尚、美少女ゲー三大要素は美少女/美女、変化、一途の三つ。

 これは異性をステータスとして自慢したいのか、自分色に染め上げたいかの違いであって、そこに優劣は無い。


 無論、この織田信長はチョンマゲではなく、作中で男女問わずモテて、でも主人公にぞっこんの魔王である。


《次は第二位、戦乱小町の織田信長! 193562票!》


 ワアアアアァァァァァーーーーーッ


 今度は対称的に男性客の反応が大半だったが、女性客の声も少なくない。


 ――戦乱小町、美少女設定の武将が戦う、普通の美少女対戦格闘ゲームである。

 格闘ゲームが売りなので、美少女ゲー三大要素の内、変化要素はストーリー上よりも育成要素に偏っている。

 彼女は主人公では無いにも関わらず、織田信長という絶大な知名度から強キャラが約束された勝ち組。

 但し凶悪なハメ技があり、対人戦で使うと嫌われる。


《彼女も決して弱くは無かった。しかし敵はあまりにも強大過ぎた。その堂々たる第一位は…》


 ゴクリッ


 司会者の溜めで、観客たちの多くが固唾を飲んだ。


《…魍魎戦記NOBUNAの織田信那! 2020081票!》


 ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ


 会場が割れんばかりの大歓声が起こる。


《総票数3371315票の過半数を獲得! 二番手以降に圧倒的な格の違いを見せつけた、信長・オブ・信長っ!》


 ――実はこの投票結果、事前情報の少なさが大きく影響していた。

 水着コンテストとしか公表されていなかったので、事前に注目している女性が少なかったのである。

 もし最初から織田信長コンテストと銘打っていれば、女性票が上回った可能性もある。


 尤も、その場合でもポロリ画像は変わらず拡散するので、男性票は大きく変わらなかっただろう。


《…続いて番外票に移ります》


「は?」


 司会者の意味不明な言葉に、観客たちから疑問の声が上がった。

 彼女は観客の反応を無視して、司会進行を続けた。


《番外第三位は、皆のアイドル、南条きらりちゃん! 61票!》


 どよ、どよ…


 番外票の意味を理解して観客席がどよめいた。

 水着コンテストで、水着にもなっていない、参加者でも無い人の名前をフリーワードに入れる物好きは多くない。

 優勝者に投票すれば、握手権を貰えるかもしれないのだから、尚更である。

 当の本人も驚いたが、そこはアイドル。

 笑顔で観客席に手を振って応えた。


《続いて番外第二位は、誰ですかこの人、須磨楽人! 774票!》


 ぶはっ


 投票を他人事のように見ていた楽人が、飲んでいたABCレモンを拭いた。

 本日二度目である。


「げほっ、げほっ」


 隣のサーニャは今度も飛沫を受けたけれど、今度も自分のことより咽る彼を心配して背中を擦った。

 逆隣の手塚も今度も飛沫を受けて、今度も手の甲で顔を拭った。


「やったね須磨っち☆」


 範子が空気を読まず、小さく手を上げて彼を祝った。


「言うな。目立つ」


 楽人は心配したが、観客席の動揺は大きく、近くの観客たちも、彼が須磨楽人だと気付いた者は居なかった。


(何考えてんだ、投票した奴らは?!)


 楽人は心の中で悪態を吐いた。

 観客席の反応は司会者と同じく、「須磨楽人って誰?」「きらりちゃんの10倍って何者?」状態だった。


 こんなことになった原因は静香である。


 まず最初に、彼を好きな彼女がフリーワードで投票した。

 それを聞いたサーニャも、当然恋人に投票した。

 憎からず想っている範子も、面白がって投票。

 範子に誘われた貴巫女も投票。

 純粋に面白がったメスリンに頼まれて、兵藤も投票。


 一票二票の団子状態を抜けた《須磨楽人》というダークホースの名前に、部外者が面白がって投票、投票、投票…。

 その結果、非参加者の中で二位という大量票を獲得する結果になったのだ。


 尚、趣旨を理解しているアル・ラクスは普通に織田信長に、おっぱいに釣られた手塚はポロリをした織田信那に投票している。


《番外第一位は当然この人、我らが心眼の英雄、アルストロメリア! 405066票‼》


 ワアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ‼


 会場が参加者一位に匹敵する大歓声に包まれた。

 【心眼】は参加者でも無いのに総票数の10%も獲得していた。

 参加者第二位にダブルスコアの異常事態である。

 恐るべきはファンのネットワーク。

 【心眼】も小学生アイドルのように、観客席に向けて小さく手を振った。


《ちなみに市長は13位です。もっと頑張りましょう》


 観客席にドッと笑いが沸き起こる。

 市長がガックリと肩を落とした。


《――最後に、市長からのお言葉です》


 司会者がオチに使った市長を呼ぶと、海鳴市市長は姿勢を正し、再び審査員の列から舞台中央に上がった。


《皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました。海鳴市では今後もこのような催しを開催していきたいと思っております。これからも海鳴市をよろしくお願いいたします》


 市長が観客席に向かって大きく頭を下げた。


 ワアアアアァァァァァーーーーーッ


 パチパチパチパチ…


 盛大な拍手と歓声が会場を満たす。

 イベントは好評の内に幕を閉じたのだった…。

票数は語呂合わせ

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