イベント:審査
《理想を持ち、信念に生きよ》
最後の参加者の一言が終わり、
《織田乃々々さん、ありがとうございました》
参加者の紹介が終了した。
《以上を持ちまして、参加者の紹介を終わります。それでは織田信長の皆さん、舞台中央に並んでください》
司会者が舞台の右端、審査員席の近くまで下がって場所を開けると、舞台奥に並んでいた織田信長たちが舞台中央まで進んだ。
《観客の皆様、織田信長の皆様、審査結果発表まで暫くお待ちください》
司会者が頭を下げると、審査員たちは向かい合って審議を始めた。
近くの観客や織田信長たちは耳をそばだてたが、大半は思い思いに結果発表を待った。
観客にアピールする織田信長。
審査員にアピールする織田信長。
俳句を詠む織田信長。
お茶を所望する織田信長。
踊り出す織田信長。
ポージングする織田信長。
筋トレを始める織田信長。
逆立ちをする織田信長。
黙って威厳ある姿勢を取る織田信長。
飽きて座り込む織田信長。
サラシを他の織田信長に巻いて貰う織田信長。
普通の水着コンテストでも審査中のアピールは珍しくないが、アピールですらない行為が多いのは、ある意味でフィクションのキャラクターらしいとも言える。
しかし、完全な無法地帯と言う訳では無い。
舞台の上からは出ないし、暴力も振るわないし、他の参加者の前も塞がない。
彼らは飽くまで、公平なイベントの範囲内で好き勝手していた。
だから観客にしても、彼らを見て盛り上がりはしても、批難の声は少なかった。
それは参加者自体に興味の無い者――【心眼】のファン――にしても同じである。
彼女たちにとっては、誰が選ばれるかよりも【心眼】の一挙手一投足こそが重要。
だからこそイベントを貶めることは避けるべき行為であり、参加者への野次や罵詈雑言は慎んでいた。
「――誰が優勝すると思う?」
舞台で織田信長が遊び始めると同時に、観客席では優勝予想が始まっていた。
それは当然、好奇心旺盛な範子も同じであり、
「ねえねえ貴巫女っち、誰が優勝すると思う? あーしは踊ってる織田信長!」
優勝予想を尋ねながら、自分は単純に興味を引かれた織田信長を指差した。
その織田信長は前奏みたいなステップを終え、今はスピンダンスをしている。
「そうねえ……私は最初の織田信長が良かったと思うわ」
貴巫女は親友を生暖かい目で見ながら、自分は当たり障りのない無難な返答をした。
「あたしはあの幸の薄そうなおじさん♡」
メスリンは幸と言うより頭の薄い織田信長を指差した。
織田信長はチョンマゲが多いので天辺禿げは珍しくなかったが、その内の一人がバーコード禿げなのである。
(剃るべきか、剃らぬべきか。それが重要だ…)
それを聞いた【共生者】は、メスリンのために頭頂部を剃ってバーコードハゲにするか、仕事のために我慢すべきか本気で悩み出した。
「俺は巨にゅ…」
「あ、眼鏡くんには聞いてないから」
身内の中で右端に座る手塚が口を挟もうとして、左端の範子に一刀両断された。
貴巫女が敵意に満ちた視線で手塚を睨む。
手塚が悪寒に身を震わせて周囲を見渡すと、貴巫女は正面を向いて知らんぷりをした。
「んーとね、ぼくはあるくすっ!」
「ありがとう、アキラ」
イベントの趣旨をよく理解していないアキラの無邪気な言葉に、アル・ラクスは爽やかな笑顔で応えた。
「わたしはガクト……なんて言いませんよ?」
サーニャが唇に人差し指を当てて、意地悪っぽく言う。
「俺もサーニャとは言わないぞ」
楽人もボケて返した。
「あら、私は須磨君に入れましたよ?」
「「えぇっ?!」」
後ろに座る静香から出た意味不明な発言に、サーニャと楽人の驚きの声が重なった。
「だってほら…?」
静香が彼らの間にスマホを持った手を差し出す。
スマホにはネット上のトトカルチョが表示されていて、一番下に《須磨楽人 1票》と表示されていた。
その下にはフリーワード入力欄がある。
「お、音無先生…」
「入れちゃった♪」
静香は握り拳で自分の頭をこつんと叩いて、可愛らしく片目を閉じて舌を出した。
「わ、わたしもガクトに入れたいです! どうすればいいんですか?!」
サーニャが鼻息を荒くして後ろを振り向き、静香に詰め寄る。
「スマホで海鳴市の公式サイトに電話番号を登録するだけよ」
「スマホですね! それで? それで?」
「リンクを送るわね」
(鼻息を荒くするサーニャなんて久しぶりに見た…)
楽人も自分のスマホを取り出して海鳴市の公式サイトを確認した。
トップからのイベントリンクに、《【リアライザー】水着コンテスト》とある。
そこから入ると、イベントタイトルの直ぐ下に、失格者を含む参加者全員の写真が載っていた。
直前まで“織田信長コンテスト”であることを隠していたので、当然、写真はイベント開始後に順次アップロードされたもの。
更に読み進めるとトトカルチョのリンクがあった。
参加者の写真の横に名前と獲得票数、現在順位が表示されている。
一番人気はポロリの信長。
総票数3073131票の内、過半数を超える1616081票も獲得していて、見ている間にもどんどんカウントが増えていく。
投票欄の少し下には、イベント中の写真も掲載されていて、当然の権利のように、ポロリの瞬間のアップ写真も掲載されていた。
撮影用のドローンを独占的に使えた主催者特権である。
無論、市の公式ウェブサイトなので、肝心な部分はしっかり加工して隠されている。
更に下の方には、投票による景品も載っていた。
トトカルチョと謳いながら賭けは行われておらず、景品も只の名産ギフトセットだった。
(景品が地味な割りに皆投票し過ぎだろ……あっ)
楽人は投票数の多さを訝しみながら、更に投票ページをスクロールしていってある文言に気付いた。
――――――――――――――――――――
景品
海鳴市の名産ギフトセット
投票結果の一位になった織田信長に投票した方から十名様
それ以外に投票した方から十名様
後日発送を以て発表とさせていただきます
コンテスト優勝者との握手券
優勝者に投票した方から若干名
後日連絡いたします
権利の譲渡は認められません
※関係者は当選できません
――――――――――――――――――――
(…皆欲望に忠実だなぁ…)
楽人は空を見上げて溜め息を吐いた。
その横では、彼の愛しい恋人が、彼に思いを寄せる静香と一緒に、参加者でも無い彼への投票を行っているのだった…。
織田信長まつり




