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イベント:お誘い

「イベント見に行こうぜ」


 昼食の片付けが終わって間も無く。

 皆が思い思いに食後の休憩を初め、兵藤に周辺警戒を交代して貰ったサングラスの黒服が食事に出掛けた直後、“眼鏡オタク(てづか)”が楽人を誘った。


「何だ藪から棒に。眼鏡が減ったからか?」


 サーニャと食後のお茶を啜っていた楽人は、手塚の方を振り返って尋ねた。


「それもある」

「知ってる」

「そうか」

「じゃあな」


 即行で話を終わらせた楽人はサーニャの方に向き直った。


「待て待て! 話を聞いてくれ!」


 スルーされたことに気付いた手塚が、楽人の前――サーニャの近く――に回って嘆願した。


「まず、サーニャの近くに寄るな。話はそれからだ」


 楽人は手塚の両肩を掴んで、サーニャから強引に引き離そうとする。

 手塚は素直に横に数十センチ避けて、何故か正座をして話を再開した。


「お前だって見たいだろ、色んな【リアライザー】をさ?」

「審査会場でいっぱい見たからもういい」

「俺も遠くから毎日見てる」

「知ってる」

「そうか」

「じゃあな」


 楽人は立ち上がって、サーニャの手を引いて他所へ行こうとした。


「待て待て! さっきと同じ流れだぞ?!」

「…ちっ、気付いたか」


 楽人は舌打ちをして、面倒臭そうに振り返った。

 サーニャは楽しそうに二人を見ている。


「何でそんなに行きたくないんだよ?!」

「いや、逆にお前こそなんで、そこまで必死なんだ?」

「――ポロリが見れるもんね」


 胡坐を掻いて貴巫女と話していた範子が、会話に混ざろうと彼らの方に身を乗り出して四つん這いになった。

 その拍子に手に持っていたスマホが落ち、彼女の年齢の割りに大きな胸は、振り向いた彼らの視界内でたわわに揺れた。


(ポロリしそうに無いな……サーニャだったら危なかった)


 楽人は、布面積の小さなビキニでもガッチリ守られている範子の胸を見て、サーニャが上着付き(カバーアップ)の水着であることに胸を撫で下ろした。


(数字より大きいな)


 自称情報通の手塚は、たわわな果実に目を奪われながら、評価を上方修正した。

 これが眼鏡を掛けた静香や、跳ね上げ式サングラスをした貴巫女だったら、眼鏡補正で鼻息を荒くしていたことだろう。


(おっ、見てる見てる☆)


 範子はギャルらしく、男に見られること自体は気にしていない。

 彼女に言わせれば、「自分で肌出して揺らしておいて見るなって、それってただのマッチポンプじゃん☆」である。


 そもそも彼女自身、今日は楽人に見せるために着て来たのだ。

 他の男は見るなと騒ぐほど、彼女は恥知らずでは無い。


「そういうイベントだっけ?」

「だよ、ほら」


 範子はスマホを拾って正座になると、この海水浴場のウェブサイトを開いて楽人に見せた。

 そこには確かに、チラシと同様に『ポロリもあるよ』と書かれている。


 ――世間一般において、水着でポロリと言えば、女性の水着が脱げて胸が露出することを指す。

 しかし、録画済みの内容を放送するテレビ番組ならまだしも、海水浴場のイベントでポロリがあると確約するのはどういうことか。


「最低だな、無理矢理ポロリさせたがるなんて」


 楽人は手塚から庇うように、サーニャを抱き締めて彼に背を向ける。


「キャッ♪」


 サーニャは嬉しそうに彼を抱き返す。


「やばいじゃん! 眼鏡くん逮捕されちゃう?!」


 範子もわざとらしく身を引いた。


「なんでそうなる?!」

「主催者がJAROに訴えられないために、身を挺して広告を実現するお前の雄姿、俺は忘れない…」


 ――そう、わざとポロリをさせる自作自演か、JAROに訴えられる誇大広告かのどちらかなのである。


 少し離れた場所では、さっきまで範子と話していた貴巫女や、母親と話している静香が、彼らの話が聞こえて手塚に白い目を向けていた。

 楽人、範子、貴巫女、静香と正に四面楚歌である。


「うぐぅ…」


 手塚は絶望的な状況にもめげず、味方を求めて周囲を見渡して、一人だけ味方になりそうな相手を見つけた。


「そうだっ! メスリンちゃんっ! メスリンちゃんは見たいよなっ‼」


 ビクンッ


 母親の膝枕でウトウトしていたメスリンは、突然名前を叫ばれてビックリして起き上がった。

 彼女がキョロキョロと左右を見ると、手塚と目が合った。


「…小っちゃい子のお昼寝邪魔してはずかしくないの?」


 メスリンは手の甲で目元を擦りながら呟いた。

 彼女は気持ち良い微睡みを邪魔されて不機嫌だった。

 言葉自体はいつもと大差無いが、声音は全く笑っていない。


「【リアライザー】だよ【リアライザー】! 【リアライザー】がいっぱい来るイベントだよ。メスリンちゃんも見たいよな?」


 手塚はメスリンの冷たい視線にもめげずに力説した。


「う~ん…」


 メスリンは寝ぼけた頭で、膝枕とイベントを天秤に掛けた。


 彼女は【リアライザー】と言う言葉自体、今日初めて知ったけれど、それが自分たちを指す言葉だと言うのは直ぐに理解できた。

 単語自体は知らなくても、自分以外にも同類が居ることも知っていた。

 しかし、それは最初から与えられた知識であって、彼女自身の目で確かめた訳では無い。


 実際、この海岸には現在、数千人の海水浴客に混じって二桁の【リアライザー】が居るけれど、彼女はまだ【リアライザー】を見たと思っていない。

 大半の【リアライザー】は人間なので、知識の無い彼女には区別が付かないためである。


 しかし、イベントの参加者は【リアライザー】を名乗っているので、行けば多数の【リアライザー】を見れる。

 膝枕は後でもしてもらえる。


 彼女の頭の中では、最初は膝枕の乗った皿が勝っていた天秤が、イベントの皿に【リアライザー】がどんどん積み重なって逆転され、膝枕がどこかへ飛んでいってしまった。


「うん♡ あたしもイベント見た~い♡」


 彼女の鶴一声で、イベント見物が決定した。

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