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世間の予想

 ガラッ


 登校した楽人がドアを開けて教室に入ると、クラスメイトたちは昨日以上に【リアライザー】の話題で盛り上がっていた。

 昔から「売名行為」というくらいで、名前が付くと認識が共有し易くなって話も弾む。

 その影響は大きく、隠す必要性を感じなくなった人や、承認欲求を満たしたい人が増え、テレビ局には売り込みが殺到していた。


「やあ、須磨」


 普段、楽人と余り話さない鈴木遥斗が気安く声を掛けた。


「よう」


 楽人も余り気にせず、気安く返事を返した。


「もしかして昨日来た?」

「来なかったよ(昨日は)」

「やっぱり一昨日だけなのか……」


【リアライザー】が初日しか現れない仮説は、既にクラス中にも広まっていた。


「なんで俺はもっと真剣にならなかったんだ……」

「ああ、ミレーヌ様~」

「もう女神さまを嫁にするチャンスは無いのか……」


 クラス中の男子が悲嘆に暮れる。


「今! この瞬間にも! 私のダンザルブ様が、どこぞの女狐に弄ばれているかと思うと、私はもう……もう…………!」

「落ち着いて亜紀! 彼はきっと原作者様の下で清く正しく生きているはずよ!」


 男子だけでは無かった。

 誰かが「○○が嫁に来ねーかなー」なんて言えば、「オタク」だの、「ガキ」だのと言って馬鹿にされて後ろ指差されていたのも、今は昔。


「お前でも無理だったのか。同情するぜ」

「よし! 一緒に次に期待しようぜ」

「裏サイトに挙がってる番組、まだなら見といた方がいいぞ」


「ソシャゲ君」の仇名を欲しいままにする楽人も、今では同情されたり、親近感を持たれたり、助言されたりする有り様だった。

 楽人が紹介されたので学校の裏サイトを覗いてみると、【リアライザー】に関する有名な番組やサイトが、幾つも挙げられていた。

 彼も休み時間に、それらを見て周った。



 * * *



 【リアライザー】の出現から、早一日。

 嘘とも真とも知れない流言飛語が、ネット中に溢れ返っていた。

 そんな中でも、実しやかに囁かれている情報も幾つかあった。


 ・曰く、世界で一番思ってくれる人の前に現れる


 ・曰く、今この時、世界中で起きている


 その二つはサーニャも口にしていた言葉で、ネット上でも多数の同様の書き込みがあり、最も有力な真実とされている。

 日本では夜中だったので、目撃証言が少ない。

 しかし、世界中で時差が無く発生したため、偶然その瞬間を録画できた動画も、僅かながら公開されていた。


 どの映像も、本当に直前まで何も無かった空中に、突然【生き物】が現れている。

 それを例えるなら、アニメで画面が切り替わらず、次のコマには然も当然のようにキャラクターが画面に映っているようなもの。

 何も知らなければ、只の合成動画にしか見えない。

 そしてだからこそ、彼女たちが人知を超えた存在だと言うことを疑う者は少なかった。


 ・曰く、最も人気のある姿で現れる


 同じ作品の同年齢のキャラクターでも、別の年齢で現れていることが確認された。

 彼女たちが思いによって現れるなら、その想いを最も大きく受けた姿で現れることは必然と言えた。


 ・曰く、その言葉は原作者の言葉である


 楽人はゲームに慣れ過ぎていて不思議に思わなかったが、彼女たちの話す言葉も話題になっていた。

 普通に考えれば、姿と同様に現れた作品の言語である。

 しかし、海外で人気が出たキャラクターが、その国の国旗を描かれた姿で現れながら、原産国の言葉を話した。

 そのため、【リアライザー】の話す言語は、原作で使用されたものか、原作者が日常的に使っていたものになることが、有力視されている。


(そう言えば、まだサーニャが文字を書いているところを見てない。後で確かめてみよう)


 ・曰く、前夜、その愛が試された


 前日、クラスで話題になっていた、「前日に好きなキャラクターで懸想していること」の元ネタ。


(まあ自慰よりは納得できるけど、でもそれだと、音無先生はユントロで……?)


 楽人は堅物の女教師の姿を思い浮かべたが……|ピンクの狸のぬいぐるみ《ユントロ》を抱いて床を転がり回る姿が精一杯だった。


 ・曰く、見た目通りの能力


 強い弱い以前に、生物として破綻していると生きることすら出来ない。

 市街地に突然現れた巨人が、そのまま即死して周辺に被害を与えたというニュースもあった。


 ・曰く、設定身長より頭のサイズと頭身が優先される


 例えば、イケメンの設定ではよくある、身長180センチに八頭身のキャラクターたちが、人並の頭に比例して、軒並み身長2メートル前後で現れていた。

 逆に、設定では身長160センチでも絵柄が6等身の美少女キャラクターたちは、背が低かったり、頭が大きかったりする例がよく見られた。


(……サーニャの原画担当様、ありがとうございました)


 楽人は見本写真を見て、サーニャの原画担当に初めて本気で感謝した。

 バランス良く造形された美少女であるサーニャは、現実(リアル)では整形手術でもしなければ成れないほど、完璧に近いスタイルをしている。


 他にも、「普通に死ぬ」「未知のウイルスの保菌者」といったそれらしいものもあれば、「神の子」「某国の実験」「人類全体が夢を見ている」といった荒唐無稽な内容も信じる者が少なくなかった。


 《大体、最近のオタクは……》


 テレビ番組の方では偉そうな評論家たちが、相変わらず炎上商法紛いの討論で盛り上がっている。

 その中で楽人が目を惹かれたのは人権問題。

 現状、【リアライザー】には世界人権宣言も、動物保護法も適用されない。

 UMAに動物保護法が適用されないのと同じ理由である。

 楽人も戸籍が無いから結婚が難しいことには気付いていたが、人権が無いことに比べれば些細なことだった。


(……サーニャは俺が護る)


 楽人は拳を握り絞め、サーニャを護る決意を新たにするのだった……。

人権! 大事! 絶対!

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