浜辺:合流
楽人たちはアル・ラクスの先導で浜辺に向かった。
浜辺に敷かれた数枚のブルーシートの上には、先に来た浜辺組が座っていた。
パラソルの陰には母親と貴巫女が入っていて、父親とアキラと手塚は、真夏の日差しを一身に浴びている。
その左右には黒服たちが立って周囲を見張っていて、他の海水浴客たちは近付こうとしない。
(やっぱり虫除けには適役だな。でもメスリンが止めたからなぁ……連れて行くならアルクス一択だったか)
楽人は改めて自分の失策を反省した。
実際、メスガキ好きがメスリンの要望を拒否することは少ない。
浜辺組は楽人たちを発見すると、アキラが両手を大きく、貴巫女が片手を小さく振った。
アル・ラクスが片手を大きく、範子が両手を大きく振り返す。
距離が近くなると、メスリンが小走りで先行して、
バッ
「じゃ~ん♡」
服を一気に脱ぎ捨てた。
ミニスカートのフックを外し、子供Tシャツの襟に手を掛けて、上に思いっきり投げると同時に、腰を左右に振ってスカートを足元に落とした。
引き籠り生活で磨いた匠の技である。
ざわ、ざわ…
周囲にざわめきが起きる。
胸元と背中が大きく開いた紺色のワンピース水着……旧スクール水着――通称『旧スク』――である。
その胸には白い布が縫い付けられていて、『めすりん』と可愛らしく平仮名で書かれていた。
レンタルショップに何故そのような物があったかと言えば、店長の趣味としか言いようが無い。
決して店員の趣味では無い。
最初、メスリンは陳列された水着を無視して、唯一の店員――若い女性である――に絆創膏を要求した。
一般人である店員は、どこか怪我でもしたのかと尋ねた。
それに対してメスリンは、左右の胸に一枚ずつ、股間に大きな物を一枚張ることを説明。
店員は混乱のあまり恐慌状態に陥った。
範子も混乱した。
サーニャは二人の混乱が理解できず首を傾げた。
一番の常識人である音無静香がメスリンを止めた。
楽人は男が言うとセクハラになると思って黙っていた。
メスリンが仕方なく絆創膏を諦め、ハンガーラックから選んだのが旧スクだった。
楽人は、“ミレニアム戦記”で「面白そうだから」と旧スクや絆創膏を選ぶメスリンを知っていたので、「やっぱり」と思ったが口には出さなかった。
胸の白い布は、記入が別料金のオプションだった。
返却後、新しい布と交換することになるからだ。
名前は最初、教師である静香が書こうとしたが、メスリンの“メ”を書きかけた段階で楽人が止めた。
原作の「“ミレニアム戦記”では平仮名で書いてあった」という理由である。
それを聞いた範子が、「ひらがなの方がカワイイよね」と静香からペンを奪い取り、ギャルらしい可愛い文体で『めすりん』と記入した。
――結果、『旧スクめすりん』が完成したのである。
メスリンを見た反応は様々だった。
若頭と父親が目を輝かせた。
母親が笑顔で、その父親の頬を抓った。
アキラは、普通に小学校の水着だと思った。
手塚とサングラスの黒服は、興味を示さなかった。
近くを通りすがった海水浴客たちも、似たような反応である。
「――それで、何があったんだ?」
右の頬を真っ赤に腫れ上がらせた父親が、真顔で息子に事情を尋ねた。
「害虫が寄って来たから豚箱に捨てて来た」
楽人はゴミを投げ捨てるような仕草をしてみせた。
「「なるほど」」
「え?」
両親が仲良く声をハモらせたのを聞いて、貴巫女は訝しんだ。
(意味は理解できるけど……須磨君って家ではいつもこうなのかしら?)
救難信号を見てアル・ラクスが飛び出していった数分後に警察が来たのだ。
彼女にも捕り物があったことは何となく察しが着いた。
「アキラ君、待たせたね。遊ぼうか」
楽人は黒いワイシャツを脱いで、スマホと一緒にブルーシートの上に置いた。
「うんっ!」
アキラは元気よく返事をして浮き輪を持って立ち上がり、貴巫女も小さく苦笑しながらビーチボールを持って立ち上がる。
サーニャやメスリン、範子と一緒に、海へと繰り出して行った…。




