同行者:メスリン
メスリンは暇だった。
50日程前、ヤクザの若頭が一人暮らしをしている、少し高給なマンションに【リアライズ】した。
彼女の性格は“ミレニアム戦記”の設定通りのメスガキだった。
フィクションにおけるメスガキはその性質上、ご都合主義な賢さを除くと知性とは縁遠い存在である。
それどころか、ギャルよりも刹那的で、不良よりも無計画で、差別主義者よりも独善的ですらある。
しかし、馬鹿で行き当たりばったりで我侭でも、全く何も考えていない訳では無い。
だから何でも買ってくれる兵藤が、自分のためを思って外に出さないのだと納得し、毎日家の中でゴロゴロしてゲーム三昧の日々を送っていた。
「あ~き~た~」
…但しネット接続も無い古いゲーム機である。
兵藤は最初に彼女から《世界で一番思ってくれる人の前に現れる》と言われた時点で、組長にバレる訳にはいかないと考えた。
彼女が下手な知識を得たり、外と連絡を取ったりしないよう、テレビを捨て、スマホやノートパソコンは触らせず、ゲーム用モニターとネット機能の無い古いゲーム機を買い与えたのだ。
「おなかすいたー」
彼女は冷凍庫から冷凍チャーハンを取り出すと、小さな食器棚から皿を取り出して、その上に冷凍チャーハンをぶちまけ、ラップもかけずにレンジに突っ込んだ。
何故冷凍チャーハンか?
それは兵藤の「冷チャーはミレ戦皇子の嗜み」と言う変な持論からである。
彼が居ない間の彼女の食事として、冷凍食品の他にカップラーメンやパック御飯なども買い込んであったが、お腹の空いていた彼女は解凍だけで済む冷凍チャーハンを選んだ。
無論、冷凍チャーハンの消費が一番激しい。
ガチャガチャッ
レンジが止まるよりも早く、玄関の鍵を開く音が彼女の耳に届いた。
「帰ってきた?!」
ドタバタドタバタ
彼女は玄関に走った。
兵藤は彼女が来客の対応に出ることを禁止している。
彼女も碌に知らない世界の知らない誰かに関わるより、一応心配してくれる彼の言葉に従っていた。
しかし、彼が帰って来たなら話は違う。
十中八九、出来立ての御飯を買って帰って来る。
彼女の頭の中からは、既にレンジに突っ込んだ冷凍チャーハンのことは抜け落ちていた。
「寿司、ピザ、弁当…じゅるり…」
ガチャッ
「ヒョードーっ!!」
彼女は廊下の角を曲がり、玄関に入ったばかりの兵藤の姿を確認すると、両手を伸ばして飛び付いたのだった。




