同行者:ギャル
最後の同行者回収地点は、隣町の範子の家、久谷一家の屋敷である。
隣町に入り数分もすると、大きな和風の屋敷の外観が見えて来て、間も無く屋敷の表門に到着した。
門の外には、既に金髪のギャルと茶髪のギャル、それと黒服が一人立っている。
範子は、首も肩もヘソも丸出しのチューブトップに、腰骨の辺りから足の付け根までしか無いマイクロミニのショートパンツ姿。
チューブトップからは年齢の割りに大きな胸の谷間が垣間見え、ショートパンツから伸びる足は健康的な太さ。
全体的に日焼けをしているが、普段はそこまで露出の高い服を着ないので、肩やお腹、太ももの途中まではあまり日焼けしておらず、微妙な肌の色の違いが艶めかしい。
それに対して貴巫女は、こちらも肩の出るオフショルだが肩紐があり、スカートは膝下までと一見普通の服装。
しかしその実態は、肩から胸のラインに大きめのフリルで薄い胸をカモフラージュしつつ、スカートは薄めの生地で、下に行くほど細い菱形のような穴が多数開いていて、涼しそうなサンダルを履くのは当然素足。
ギャルらしさには欠けるが、周りの目を意識しているという面では範子の何倍も上手だった。
アルファードが門に近付くと、待ち侘びていた範子が手を振り、サングラスを掛けた黒服が門の中に入るよう合図を送った。
父親は合図に従ってアルファードに門を潜らせ、もう一人の黒服が手を振っているセンチュリーの横に停車させた。
範子と貴巫女も、後から門の中に入って来る。
「お待たせ」
楽人とサーニャが車を降りて挨拶をする。
「須磨っち~☆」
サッ
範子が両手を広げて楽人に突っ込んで行ったが、彼はひょいっと横に避けながら、後ろのサーニャを片手で範子の進路から庇った。
範子は突進の勢いで体勢を崩しながらも、手足をばたつかせて、バランスを取って転ばずに踏み止まる。
「須磨っちつれない~! …ってあれ?」
範子は振り向いて膨れっ面で文句を言いかけて、楽人の横の――彼女の目の前の――サーニャに気付いた。
「初めまして、サーニャです」
サーニャは範子の奇行に面食らいながらも、何とか自己紹介をした。
「あー! あー! あの時の!」
範子は彼女を初めて見かけた――楽人とサーニャたちの家族デート――時のことを思い出した。
「あーしは範子。『のりっち』って呼んで」
範子はサーニャの両手を握って、思いきり上下に振った。
「のりっちってよんで?」
いきなりのことに、サーニャは戸惑って目をパチクリと瞬かせる。
「あー違う違う。のりっち。徒名」
友達の多い範子はこういう反応も慣れていて、単語を区切って説明した。
「のりっち? あだな?」
サーニャは復唱して内容を咀嚼する。
「そうそう。友達なら当たり前っしょ」
「友達……はいっ! のりっちさん!」
サーニャは友達と言われて嬉しくなった。
原作の“ミレニアム戦記”でも当然友達の意味は変わらないし、テレビやネット、漫画などで日本の友達というのも見知っていた。
しかし、実際に友達になるのに、決まった形式なんて無い。
初めての友達に、サーニャの豊かな胸の内は熱くなった。
「あー、まいっか。よろしくね、サーニャん」
範子は、徒名にさんを付けられるのも初めてでは無いのでさっさと諦め、早速サーニャを勝手な徒名で呼んだ。
「さーにゃん…? はいっ、よろしくです♪」
サーニャも一瞬面食らったが、直ぐに徒名で呼ばれたことを理解して喜んだ。
「今日は誘ってくれてありがとう」
二人の話が落ち着くと、門の横で出待ちをしていた、茶髪ショートボブの貧乳ギャル貴巫女が、楽人に対して丁寧な挨拶をして頭を下げた。
楽人は彼女の頭の動きを目で追いながら、彼女の服装を確認した。
(清楚ビッチってやつかな?)
大きく肩の出るオフショルも、スカートの無数の穴からチラチラと見える肌も、男の視線を意識しているのは明白だった。
本当に見られるのが嫌な女性は、自分から露出して見るなと文句を言ったりしないのである。
「どういたしまして。今日は一緒に楽しもう」
「はい。よろしくお願いします」
貴巫女も、楽人と学校行事以外で話すのはほぼ初めてだったので、茶髪に染めたショートボブからは想像も付かないほど、いつも以上に丁寧に取り繕っていた。
(普通ならあざとさが目立つ胸元のフリルも、今回に限っては大正解だな)
楽人はチラッとサーニャを見る。
それほどまでに今日のメンバーは豊満だった。
サーニャはフィクションの巨乳枠としては控えめでも、現実では整形手術でもしなければ困難なほどの抜群のスタイル。
静香は腰の細さこそ及ばないが、学生時代に同性から妬まれ、異性から好色の目で見られたその胸は、大きさだけならサーニャより僅かに上。
楽人は実母なのであまり意識していないが、母親の須磨真理も、サーニャが彼女の古着を着れる程度には大きい。
まだサーニャと話している範子にしても、彼女たちにこそ及ばないものの、同年代の中ではかなり大きく、クラスでも塾でも彼女に好色な目を向ける男子は少なくなかった。
――正に四面楚歌。
数分後、年齢の割りに薄い貴巫女は、アルファードに乗って絶望することになる。
「かっけーっす!」
いつの間にか車を降りていた“眼鏡オタク”が、サングラスの黒服に迫っていた。
勿論、彼が見てるのはサングラスであって、黒服個人では無い。
しかし、黒服から見れば、初対面の強面に臆さず詰め寄る男子高校生。
雑に追い払うことも出来ず、面倒臭そうな顔をした。
「写真撮らせて貰っていいですか?!」
「あ、いや…」
「大丈夫! ただのコレクションだから! 個人で楽しむだけだから!」
「そ、それなら…」
勢いに押されて写真を撮られている。
黒服はその筋の人間なので、例え既に対抗組織に顔が割れているとしても、写真が晒されることには抵抗があった。
個人で楽しむだけと言いながらネットに上げる馬鹿は数多いが、サングラスをしているという安心感もあって流されたのである。
実際は、“眼鏡オタク”は本当に個人で楽しんで悦に浸ったり、学友に見せびらかす程度なので、心配する必要も無いのだが。
カコーンッ
何か硬い物が地面に落ちる音がした。
楽人たちがそちらを見ると、七三分けの黒服、若頭の兵藤がサーニャを見たまま固まっていた。
その手の形から、今までスマホを持っていたことも見て取れる。
相手が黒服ということもあって、誰もが声を掛けることを躊躇った。
「どしたん?」
身内であり上司の娘である範子が気を利かせて尋ねた。
「…いえ、なんでも…」
兵藤の目は泳ぎ、明らかに挙動不審だった。
楽人は彼の定まらない視線から、サーニャを見ていたと気付いて訝しみ、範子に目配せをする。
範子は頭は悪いが、こういう時の察しは良い。
「へえ~、あーしにも内緒なんだあ?」
ビクンッ
兵藤の身体が大きく跳ねた。
まるで陽キャに虐められる陰キャのようにも見えるが、普通に上司の娘からのパワハラである。
彼はキョロキョロと左右を見た。
周囲の誰もが――同僚のサングラスの黒服さえも――彼の一挙手一投足を見逃すまいと見ている。
彼は何度か口をパクパクさせた後、終に観念して話し始めた。
「私も【共生者】なのです。…メスリンの」
――メスリン。
サーニャ・アンティノーマの妹である。
後から登場して彼女の人気を搔っ攫った、“ミレニアム戦記”作中屈指の人気を誇るメスガキヒロイン。
「なんで隠してたの?」
当然の疑問である。
「…極道が主人や家族よりも他の誰かに執着していたなんて、許されないからです」
極道は敵が多い。
警察や他の組は元より、近年は半グレや外国勢力も増えて来た。
若頭である彼が弱みを作ることは、組を危険に晒すことになりかねない。
極道は血や仁義を大切にするが故の話でもある。
「覚悟は出来ています」
だから、彼は上司の娘に隠すより、死も覚悟の上で正直に答えて、少しでも義理を通すことを選んだ。
…誰も口を開かない。
楽人は兵藤の話を聞いて、唸っている範子を見て思った。
(極道の覚悟か。やっぱりそういうことだよなぁ。流石の範子も悩ん…)
「うん。パパにはあーしから言ったげるよ」
…悩んでいなかった。
単純に兵藤の理屈が分からなかったので考えてみたけれど、やっぱり分からなかったので、パパに丸投げすることにしたのだ。
それを察した楽人の肩から力が抜けた。
「お嬢…」
それは兵藤も同じだった。
「で? 今どこにいんの?」
当の範子は、彼らの理解など気にも留めず、興味の答えを要求した。
「…私のマンションです」
「行こう」
鶴の一声で決まった。
元々今日はサーニャの戸籍登録祝いであり、車外に居るのは範子の関係者と楽人とサーニャ、それとサングラスの写真を撮っている“眼鏡オタク”だけ。
反対する者は居なかった。




