同行者:眼鏡オタク
次の目的地、街の中心にある駅を挟んで反対側にある、“眼鏡オタク”手塚新蜂の家まで10分足らずで到着した。
楽人は友達付き合いがあまり良く無いことに加えて、お互いの家まで一時間以上かかることもあって、楽人が手塚の家に来るのは数カ月ぶりだった。
ピンポー…ガチャッ
「遅かったな」
出待ちしていた手塚が、呼び鈴の鳴り終わる前に玄関を開けて出て来た。
オーバーサイズのシャツにスリムジーンズ、首にはシルバーアクセサリー、背中にはナップサックを背負っている。
コーディネート自体は悪く無いのだが、動作が着慣れていない。
控え目に言ってお洒落デビュー、正直に言ってナンパデビューにしか見えなかった。
「済まん。眼鏡の確保に手間取った」
楽人は悪びれも無く、事実で言い訳をした。
「それで首尾の方は?」
「駄目なら来てない」
「よし行くか」
打てば響くといった感じでコンセンサスを取り、さっさと歩き出そうとした手塚を楽人が止めた。
「親に挨拶した方が良いか?」
「いらん。寝てる」
そんなことより眼鏡だ、と言わんばかりの手塚に楽人は肩を竦めた。
家を出て歩き始めて直ぐに、道路脇に停車しているアルファードに着いた。
楽人が右の後部ドアを開ける。
「おかえり、ガクト♪」
真っ先に彼らの視界に入ったサーニャが彼らを出迎えた。
「やっぱり【リアライザー】いるじゃん」
今時、左右で白と黒に色分けされた髪を見れば、コスプレよりも【リアライザー】を疑うのが当然。
「俺は【リアライザー】が現れてないなんて、一度も言ってないぞ」
楽人が嘯く。
「まあお前の元に現れなければ嘘だと思っていたしな」
「嘘吐け」
楽人は親友の強がりを一蹴した後、サーニャを紹介した。
「説明するまでも無いと思うが、俺の【リアライザー】のサーニャだ」
「薦められたミレ戦のタイトル画面で何度も見たしな」
ミレ戦とは“ミレニアム戦記”の略である。
手塚は飽きてプレイを止めて久しいが、親友の好きなキャラと言うこともあって、一応記憶の片隅には残っていた。
「…初めまして、サーニャです。ガクトの奥さんです♪」
「「?!」」
説明不要と言われて何か面白くなかったサーニャは、少し考えて爆弾発言をした。
それは功を奏して二人が釣れた。
初見の手塚と、恋人だと思っていた静香である。
「ちょ、おま、まさか結こ…」
「落ち着け。俺は未成年だから婚約までだ」
「はっ!? そ、そうだよな。まだ未成年だもんな…」
(まあ両親公認だし同衾もしてるけど)
「お、音無先生!?」
楽人の心の声を余所に、車内を改めて見た“眼鏡オタク”は静香に気付いて驚いた。
彼待望の、そして車内唯一の眼鏡女性である。
「楽人! どうやって先生を連れて来た? 攫ったのか? 攫ったんだな?」
手塚は嬉しさのあまり、先程よりも動揺して楽人を問い詰める。
それを見た静香は、少し考えてからライバルを見習った。
「攫われちゃいました♪」
手塚がショックで固まった。
楽人が目の前で手を振っても反応が無い。
楽人は肩を竦めて、彼をサードシート右側の席に座らせてシートベルトを締めたところで、彼は正気に戻った。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
再起動しても正気に戻っていない手塚を見て、楽人は溜め息を吐いて静香に声を掛けた。
「音無先生?」
「ごめんなさい。さっきのは冗談よ」
ぷしゅーっ
手塚は空気が抜けるような息を吐いて、今度こそ正気に戻った。
「はっ?! 俺は一体…」
「悪い夢でも見てたんだよ」
「そうだな悪い夢だよな、音無先生がお前に穢されるなんて…」
何故か彼の中では、静香が楽人に手籠めにされた夢を見たことになっていた。
「…おい、なんで音無先生と席が離れてるんだ?」
「常識的な判断」
眼鏡の女教師はセカンドシートの左側の席。
眼鏡オタクはサードシートの右側の席。
丁度対角線上である。
「…説明を要求する」
「アキラ君はジュニアシートだから座席固定だ」
「ふむ」
「アルクスは保護者だからその隣だ」
「ふむふむ」
「俺とサーニャはセットだから隣だ」
「だろうな」
「ゲストの音無先生に、お前のために移動しろとは言えない。諦めろ」
「おおぉぅ、のおおおおおぉぉぉぉぉっ!」
手塚が両拳を握って膝に打ち下ろして絶叫した。
納得したくないけど納得した男の慟哭だった。
アキラとサーニャが変な生き物でも見るような目で彼を見たが、当人が気付かなかったので特に問題は無い。
「父さん、もう出発して良いよ」
楽人は、もう彼は放っておいて良しと考えて、父親に出発の指示を出した。
父親も色々と察して、車を出発させる。
楽人は今の内にと、次の目的地である範子へコネクトで連絡を入れた。
《これからそっちに向かう。10~20分で到着予定》
ピロンッ
直ぐに範子から反応があった。
文章ではなく、彼女の自作スタンプである。
デフォルメされた範子が親指を立てていた。
楽人はサーニャにそれを見せ、サーニャがスタンプを指で突いて微笑んだ。
尚、『眼鏡オタク』への同乗者たちの紹介は、彼がショックから立ち直った頃に適当に、車内で雑に行われるのだった…。
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【アルファード内】
須磨真理 須磨舞人
音無静香 須磨楽人 サーニャ
アキラ ヒーロー 眼鏡オタク
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