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同行者:ユントロ

「ただいまー」

「あら早かったわね。二時間くらい休憩して来るものと思っていたのに」


 楽人がアルファードの左後方のドアを開けて声を掛けると、母親が詰まらなそうにぼやいた。

 彼と一緒に来た音無静香は白目を剥いて驚き、涼しい顔をしているアル・ラクスの額からは冷や汗が流れ、運転席の父親は路上駐車が警察に見つからないか警戒している振りをして、聞こえなかったことにした。

 それが下ネタだと気付かなかったサーニャとアキラは、仲良く首を傾げている。


「あれが母さんです。…元乙女ゲー上級者の」

「あっ…はい……はっ!」


 楽人が冷静かつ雑に母親を紹介すると、静香は無意識に返事をしてから我に返った。


「申し訳ありません、お母様。私が手間取ってしまい遅くなりました」


 楽人の横から車内に顔を出し、教師らしく「お母様」と呼んで、まずは謝罪をした。

 楽人は二人の邪魔になりそうだと思い、サーニャの手を引いてそっとドアから離れる。


「あら、えぇと…」


 助手席の母親は、そちらを向いて口籠った。

 息子から話には聞いていたものの、担任では無い初見の教師ということもあって、頭の中で直ぐに顔と名前が結び付かない。


「生物を教えさせて頂いている、音無静香と申します」

「これはこれは御丁寧に。いつもうちの息子がお世話になっております」

「いえいえ。私の方こそ須磨君にはお世話になってばかりで…」


 静香が自己紹介をすると、日本人らしい社交辞令合戦が始まった。


「かわいーっ!」


 延々と続くかと思われた社交辞令は、静香の腕に抱かれたユントロを見たアキラの一言で、早々に中断された。


「ウユーンっ!」


 したっ、と前足を上げたユントロに、アキラはジュニアシートのシートベルトに縛られたまま手を伸ばす。

 ユントロも両前足をアキラの方に伸ばしたのを見て、静香はユントロをアキラに手渡した。


「優しく抱いてあげてね」

「うんっ!」


 静香が諭すように教えると、アキラは嬉しそうに返事をしてユントロを抱いた。


「いつまでも立ち話をしていないで、そろそろ乗ったらどうかしら?」

「そうだね。音無先生はそこに座って下さい」

「分かったわ」


 静香は楽人に勧められて、アキラの前の席――セカンドシートの左側の席――に座った。

 楽人はサーニャを先に右の席へ座らせると、自分も車内に入ってドアを閉め、中央の席に座った。

 二列目に左から静香、楽人、サーニャと並ぶ形である。


「紹介するよ」


 楽人は静香に他の人たちを紹介した。


「ユントロを受け取ったのがアキラ君。近所に住んでる母さんのママ友の子だよ」


 紹介されたアキラはユントロの魅力に取り憑かれてモフるのに忙しく、紹介されたことに気付いていない。

 誰もが仕方ないと温かい目で見守り、無理強いはしなかった。


「その隣がアキラ君の【リアライザー】のアル・ラクス。見ての通りのヒーローだ」

「紹介に預かったアル・ラクスだ。気軽にアルクスと呼んでくれ。ガクト君とは共に戦った戦友だ。宜しく頼むよ、ミス・オトナシ」


 アル・ラクスは左胸に右手を当てて軽く頭を下げた。


「…戦った?」


 静香は訝しんで、視線をアル・ラクスから楽人へと移す。


「あ、うん、比喩だよ比喩!」


 楽人は面倒な予感がして、アル・ラクスに視線を送りながら適当に誤魔化した。

 視線から察したアル・ラクスは、それ以上下手なことは言わず、鷹揚に頷いて見せる。


「あとついでに運転席が父さん」

「ついでかあ…」


 ぞんざいに紹介された父親がぼやくように苦笑する。


「お父様、御運転よろしくお願いします」

「任せておけっ!」

「…お父さん?」

「――出発するぞ」


 父親が静香に気を遣われて調子に乗ったが、母親に目の笑っていない笑顔で迫られると、サッと視線を逸らして車を発進させた。


「…ユントロの可愛さはもう皆に紹介するまでも無いかな?」

「ウユーンっ♪」


 ユントロが自信満々に同意して、皆の顔に笑顔がこぼれた。


「そう言えばユントロはシートベルト無しで大丈夫かな?」


 楽人が静香とユントロを交互に見ながら尋ねた。


「意外と頑丈だし、弾力もあるから大丈夫だと思うわ」


 静香は少し考えて、ユントロを抱いて寝て下敷きにしたり、抱き抱えている最中に床に落としたりした経験と、生物教師としての知識から答えた。


「ガクト君、何かあっても私が支えるから大丈夫だ」


 アキラの隣に座るアル・ラクスの言葉で楽人は安心した。

 常識的に考えれば、高速道路を走っている最中の急ブレーキなどは間に合うはずも無いのだが、アル・ラクスの爽やかスマイルと声で断言されたら、余程性格が捻くれていなければ否定することは難しい。

 …実際大丈夫だから凄いのだが。


 静香はずっと楽人の方を向いていたので、更に奥のサーニャの姿が頻繁に視界に入った。

 けれでも、最早嫌な感情に囚われることは無く、同じ人を好きになった同志としての共感があるだけ。

 特に何事も無く、車は次の目的地へと向かうのだった…。


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【アルファード内】


 須磨真理      須磨舞人


 音無静香 須磨楽人 サーニャ


 アキラ  ヒーロー (空席)


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