お誘い:報告
「――と言う訳だ」
楽人は居間のソファーで優雅な午後のティータイムをしながら、サーニャと母親に誘った人たちの様子を説明した。
「あらあら、女の子ばかりね」
向かいに座る母親が片手を頬に、その肘をもう片手で支えながら、首を傾げて意味ありげにサーニャに笑いかける。
別に本気で心配などしておらず、サーニャの反応を楽しんでいるだけ。
「むぅ~」
定位置である楽人の左に座るサーニャは、義母がそんなつもりとは露知らず、ソファーに手を付いて楽人の方を睨んで膨れた。
「そんなに多いかな?」
「はにゃぁ~…♪」
楽人がサーニャの頭を撫でると、彼女の表情は見る間に崩れた。
彼が誘ったのはアル・ラクスとアキラ、範子、渡良瀬、静香、手塚の六人。
実際に来るのはアル・ラクスとアキラ、範子と貴巫女、静香、手塚の六人に、範子の護衛で黒服が何人か。
ユントロは小さいし性別も不明なので数には数えない。
男マイナス1に女プラス1をどう見るかは見解の別れるところだが、楽人は4:2が3:3ならセーフだと考えた。
「アキラ君は小さいからジュニアシートが必要ね。お父さんに教えておかないと」
ジュニアシートの義務があるのは六歳未満だが、一般のシートは140cm以上を想定しているからだ。
母親は忘れない内にと呟きながら、夫にコネクトで連絡を入れた。
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楽人のお友達は6人よ
一人は小さいお子さんだからチャイルドシートもお忘れなく
愛してるわアナタ♡
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(普通なら子供を膝に抱えるのは危ないけど、アル・ラクスが抱えたら下手なシートベルトとエアクッションより安全だろうなぁ…)
アル・ラクスは人外の身体能力を誇るヒーローだ。
彼が抱えている子供が怪我をする状況なら、冗談抜きで他の乗員は全員死んでいるだろう。
…とは言え、法律は法律である。
好き好んで感情で違反を提案するほど、彼は子供では無かった。
ピロンッ
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ありがとう真理愛してる
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「あらあらお父さんったら」
父親から直ぐに返事があった。
彼は息子の手前では情操教育を意識して「母さん」と呼ぶが、外や二人切りだと名前で呼ぶ。
母親が「お父さん」と「アナタ」を使い分けるように、これが彼らにとっての夫婦円満の秘訣だった。
「………」
いつの間にかサーニャの頭を撫でる手を止めていた楽人は、母親のオシドリ夫婦っぷりを見てサーニャを見つめた。
「ん?」
サーニャが不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「何でも無い」
楽人は笑って誤魔化した。
「えぇ~、絶対何かありますよー」
サーニャが口を尖らせる。
「サーニャが可愛いなぁと思っただけだよ」
楽人はまたサーニャの頭を撫でた。
「ふみゅ~……こんなことで誤魔化されたりしないんですからねぇ~……♪」
サーニャはそう言いながらも楽人に寄りかかって、もっと撫でてと言わんばかりにその胸に頭を押し付け、楽人も彼女を受け止めるように頭を撫でる。
母親はその仲睦まじい様子を嬉しそうに眺めていた。
≪だってお前、海に行く暇があったらソシャゲしてるだろ≫
楽人は眼鏡オタクの言葉を思い出した。
(サーニャ推しなのは変わってないつもりだけど、それはこのサーニャじゃない)
彼は胸の中で嬉しそうに撫でられているサーニャを見る目が優しいものになるのを感じた。
(俺は変わったんだろうなぁ…)
彼は理解していた。
もし今、“ミレニアム戦記”でサーニャの別衣装が大量に導入されたとしても、以前ほど興奮しないだろうことを。
もう“ミレニアム戦記”は必要無いとすら思っても、“ミレニアム戦記”を止めたら、サーニャが消えてしまうのではないかという不安もあって止められない。
確かめるには止めなければならず、止めれば最も大切なものが永遠に失われてしまうかもしれない。
――永遠に解放されることの無い不安のパラドックス。
彼は答えの無い沸き上がった不安を、心の奥深くに沈めるのだった…。




