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お祝い

「そうか、返事が来たのか。良かったな。おめでとう」

「ありがとうございます、お義父様♪」


 夜、帰宅した義理の父親のお祝いの言葉に、サーニャが嬉しそうに応える。

 彼女の手にあるマイナンバーカードには【共生者】の項目があり、そこには最初から楽人の名前が入っている。


「折角だしお祝いしないとな。何も用意してなかったからなあ…」

「もうケーキで祝いましたよ、お父さん」

「むぅ…」


 落ち込む父親。

 こういう時、既に用意していないと女性は辛辣なものだが、彼らのそれはお互いの理解を確かめる行為。

 後に尾を引くことは無い。


「よし。俺も明後日から盆休みだし、何処にも連れて行ってやるぞ。何処に行きたい?」


 社会人のお盆休みは、サービス業を除くと13日から16日が多い。

 父親は有給休暇の消化推奨期間ということもあって、その二日前から休みを取っていた。


 サーニャが目を輝かせて楽人を見ると、彼は笑顔で頷いた。


「それならわたし、海に行ってみたいです」


 夏ともなれば、世間は水着、海、プールの話題で溢れ返る。

 それはニュースも、ドラマも、ウェブコミックも、何なら流行病の最中ですら変わらない。

 家から出ることが少ないサーニャにとって、テレビやネットで見る外の景色は貴重な情報源。

 惹かれないはずが無かった。


「よし、行くか」

「はいっ♪」


 父親の確認にサーニャが即答する。


「………」

「楽人、お友達も誘いなさいな」


 笑顔ではあるが口を開かない楽人を見た母親は、彼の内心を理解して提案した。


「はぁ…。やっぱり母さんには叶わないなぁ…」

「うふふふ」

「ふぇ? ガクト、どういうことですか?」


 サーニャは恋人と義理の母親の言外の意思疎通に付いていけず、二人を何度も交互に見た。


「楽人はね、サーニャちゃんのことが心配なのよ」


 楽人が気に掛けてくれるのはいつものことなので、サーニャはそれが何故先程の会話に繋がるのか理解できずにキョトンとした。


「サーニャちゃんは可愛いからねえ。他の男が寄って来るのが嫌なのよ」


 それを聞いてサーニャの顔が幸せに緩む。

 楽人も嫉妬を知られて少し赤くなったが、否定はしない。


(水着で泳ぐならサーニャの羽や尻尾は隠せない。【超生物保護法】のお陰で【リアライザー】には虫が付き難いはずだけど…)


 彼が心配するのはナンパ男。

 主に街中に生息し、特に夏の海では大量発生する。

 暑さによる思考停止に、夏の海の解放感が併さった彼らは、悪い意味で普段よりも大胆になる。


 恋人が大切なら警戒しない方が珍しい。

 世間で【超生物保護法】が騒がれても、【リアライザー】を誘拐しようとする犯罪者がいることを思えば、ナンパ野郎に理性を求める方が間違っている。


(うちにはプライベートビーチなんて無いからな。サーニャを護るのに知り合いは多い方が良い。どうせ審査が通ったから紹介するつもりだったしな)


「サーニャちゃん、楽人のお友達が楽しみね」

「はい、楽しみです♪」

「楽人ったら、友達を全然家に呼ばないから…」


 母親が息子の友達の少なさを嘆く。


 しかしそれも仕方が無い。

 携帯電話の普及によって親に知られずに連絡を取り易くなり、ネットの普及で直接会わなくても顔を見れるようになり、流行病で外出が何年も控えられた時期まであった。

 二つも世代が離れる母親と息子では、友達との距離感も違って当然。


 サーニャが現れてからの楽人は、ずっと周りを警戒していたのもある。

 しかし、【超生物保護法】が公布され、審査に通って【リアライザー(サーニャ)】の【共生者】と国に認められた以上、今後は色々と変わっていくだろうと母親も感じていた。


「どうするかなぁ……アルクスはこの前のお礼も兼ねて誘いたいな。となるとアキラ君もか」

「アルクスさんにはお世話になりましたしねえ」


(あの長身筋肉爽やかスマイルが近くにいれば、ちょっかいを掛けて来る輩は激減するだろうしな)


 素直に会いたがるサーニャとは違い、楽人は打算もしっかりしていた。

 と言うよりも、楽人はアル・ラクス以上の適任者を知らない。


(あと、できれば渡良瀬警部も一緒だと心強いけど……警察もお盆休みくらいあるよな? 高町刑事は……まあ堅物だから無理っと)


 警察は公務員なので、当然週休二日制で祝祭日もあるが、基本は交代制なのでカレンダー通りの休みとはいかない。

 特に捜査一課の警部ともなれば、何時でも連絡が取れる状況が求められる。

 そう言う意味では、携帯電話の普及で休みを取り易くなった筆頭と言えよう。


(それと範子もか。彼女には既にサーニャと居るところを見られてるから、早めに紹介しておいた方が良いしな。護衛の黒服が良い感じの虫避けになってくれることも期待できる)


 楽人も夏の海で黒服を着たままとは思っていないが、ナンパ野郎だって大半は一般人。

 他に幾らでも若い女性が居るのに、強面の兄ちゃんに自分から近付く怖い物知らずは少ない。


(後は、“眼鏡オタク(てづか)”なら大丈夫か。サーニャは眼鏡をしないし。でも他に眼鏡を用意しないと来ないか……そう言えば音無先生ってどうなんだろう? 今後を考えると、同じ【共生者】としてサーニャを紹介しておきたいし誘ってみるか)

「あと何人か誘ってみるよ。それで、海には何時行くって言えば良いかな?」


 アル・ラクスを除くと家族が直接知らない相手ばかりなので、楽人は一先ず説明を避けた。


「うぅむ……明々後日かなあ。大型車を借りて迎えに行こう。相手にも準備する時間は必要だろう」

「そうねえ。サーニャちゃんの水着も買わないといけないし」


 父親が顎に手を当てて提案すると、母親も合わせた両手に頬を乗せて賛同した。


「久しぶりのお買い物、楽しみです~♪」

「そう言えば、今年はまだプールも行ってないな」


 プール授業がある高校は少数派で、月仰高校は多数派。

 水着の素材によく使われるポリウレタンだと紫外線や摩擦、プールの塩素や海水、オイルや汗などによる劣化から、品質が保証される寿命は100時間程度とされている。


 楽人はまだ去年の水着が着れるかもしれないが、どうせなのでサーニャに合わせて新調したいと思った。


「皆で買いに行きましょうね」


 母親の鶴の一声で、明後日は全員で水着を買いに行くことが決まったのだった。

完璧な布陣!(フラグ)

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