審査結果
ピロンッ
昼過ぎ。
昼食を食べ終わってソファーで寛いでいた楽人のスマホに、一通のメールが届いた。
《審査結果のお知らせ》
件名を見た楽人は目を瞬かせて確認すると、隣に座っているサーニャにスマホを見せた。
彼女も何度も目を瞬かせた後、彼の顔を見る。
彼は頷いて、二人の膝の中間にスマホを持ってメールを開き、内容を確かめるように、声に出して読み始めた。
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審査結果のお知らせ:申請は受理されました
この度は【超生物保護法】の戸籍登録審査にお越し頂き、誠にありがとうございました。
厳正なる審査の結果、申請内容に不備が無いことを確認致しました。
よってここに、須磨楽人さまと“ミレニアム戦記”のサーニャ・アンティノーマさまが正しく【共生者】と【リアライザー】の関係であることを、日本国政府内閣総理大臣伊澄淀政の名に於いて承認致します。
【共生者】
須磨楽人
【リアライザー】
サーニャ・アンティノーマ
また、サーニャ・アンティノーマさまの戸籍登録が完了致しました。
【共生者】である須磨楽人さまと紐付けされております。
須磨楽人さまが成人されるまでは、保護者である須磨舞人さまが、サーニャ・アンティノーマさまの後見人としての義務を負います。
但し、条文にもある通り、須磨舞人さまは飽くまで須磨楽人さまが成人するまでの後見人に過ぎず、須磨楽人さまとサーニャ・アンティノーマさまの意思に反すると当局が判断した場合、厳罰に処されるのでご注意ください。
登録内容に変更・不備などがございましたら、お手数ですがこのメールに返信の上、以下の電話番号にお問い合わせください。
サーニャ・アンティノーマさまのマイナンバーカードは、月凪市市役所の窓口でお受け取りください。
その際は、須磨楽人さまの身分証とこのメールによって本人確認をさせていただきます。
来所の際はお忘れなきようお願いいたします。
私共一同、あなた方が善き関係を続けられることを、心よりお祈り申し上げます。
以上
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「…はぁ」
楽人が読み終わると、サーニャは思いっきり安堵の溜め息を漏らした。
楽人が読んでいる間中、サーニャは一言も聞き漏らすまいと息をするのも忘れていたのだ。
「意外と短かったな」
文章もだし、審査結果も楽人が思っていたより早く到着した。
それと言うのも、【共生者】は大人とは限らないため、政府は親が小さな子供に噛み砕いて説明することも考慮して文面を考えているからだった。
「わたし、これでガクトと家族になれたんですよね?」
「そうだよ」
まだ信じられないと言った様子で確認するサーニャに、楽人ははっきりと断言した。
「これでわたしたち、夫婦なんですね♪」
「いや、違う」
「えぇっ?!」
サーニャの万感の思いを込めた感動は、楽人の無慈悲な一言で否定された。
「どうしてなんですか!? わたし何かわるいことしましたか?!」
サーニャが焦って、息が届くほど楽人に詰め寄る。
楽人はサーニャの両肩に手を置いて、分かり易く説明した。
「俺が未成年だからだ。日本では未成年は結婚できない」
日本では未成年は結婚できない。
昔は他の国々でもよく見かけるように、親の同意があれば成人より少し若くても結婚できた。
しかし、高校卒業が当たり前になったことを受けて、成人年齢を18歳に引き下げたついでに、親の同意に依る未成年の結婚も禁止となった。
様々な年齢制限を個別に設定していたら、教育の敗北以来モンスターが増えて面倒だった……とは、関係者が漏らすブラックジョークである。
「それじゃあ今直ぐ結婚できる国に行きましょう!」
サーニャは楽人の手を取って立ち上がり、そのまま何処かへ行こうとする。
「待て」
「ひゃっ?!」
楽人は座ったままサーニャの手を引っ張って引き寄せると、倒れかけた彼女をクルリと回転させて、自分の膝の上に横向きに座らせた。
「外国籍を取るのだって時間が掛かるぞ」
「うぅ~…」
駄々を捏ねて拗ねる姿は、どう見ても楽人より年上には見えないが、魔族である彼女の“ミレニアム戦記”での設定年齢は328歳。
完全に語呂合わせである。
設定上の人間換算から、サーニャの戸籍年齢は二十歳で登録された。
尚、成人作品でよく見かける『登場人物は全員18歳以上です』という注意書きがあっても、設定年齢や作中描写が優先される。
「結婚できるようになるまでの残り一年、俺はサーニャと結婚前にしか出来ない思い出を作りたい」
「ガクトはずるいですぅ。そんなこと言われちゃったら、反対できないじゃないですかぁ…」
楽人が真剣な目で見つめると、サーニャは泣き笑いをして折れた。
そのまま見つめ合い、サーニャから瞳を閉じて軽く唇を重ねた。
「来年、俺が結婚できる年齢になったら、直ぐに結婚しよう」
「はいっ♪」
サーニャがいつもの笑顔に戻る。
「おめでとう、サーニャちゃん、楽人」
空気を読んで食堂で出待ちをしていた母親が、見計らったタイミングで現れ、サーニャはビックリして楽人の膝の上で飛び上がった。
「ありがとう、母さん」
母親に気付いていたガクトは平然と応え、母親の手の上の物に視線を送る。
「お祝いのケーキ、無駄にならなくて良かったわ」
母親は手にお盆を持っており、その上には手作りのケーキと紅茶のポッドとカップが乗っていた。
夏真っ盛りなので定番の苺は乗っていないが、代わりに桃や梨、キウイなどの色取り取りのフルーツが放射状に飾られていた。
マイナンバーなどの経験から週明けに返事が来ると予想して、二人には内緒で作っていたのだ。
「嬉しいです♪ ありがとうございます、お義母様♪」
サーニャも祝辞に返礼をするが、既に目はケーキをロックオンしていた。
「あらあら、サーニャちゃんったら、そのまま食べるつもりなのかしら?」
母親が息子の膝に座ったままのサーニャのお尻の辺りを見た。
サーニャは視線を追って、自分が今どんな格好をしているのか思い出して恥ずかしくなり、そっと楽人の膝の上から下りて隣に座り直す。
義理の母親の前で彼氏の膝の上に乗って食べるのは、彼女にはまだ羞恥心の方が大きかった。
母親がテーブルに三人分のティーカップを並べて紅茶を注ぐ。
サーニャがケーキを、上に乗ったフルーツが落ちないよう緊張しながら、45度に三つカットして小皿に移した。
「それでは若い二人の新しい門出を祝って…」
「「「かんぱ~いっ!」」」
三人は紅茶のティーカップを持ち上げて乾杯した。
無論、ティーカップなのでぶつけたりはしない。
「ぉいし~ですっ♪」
サーニャはケーキの先をフォークで掬い取って口に運ぶと、感動のあまり、もう片手を頬に当てて満面の笑みを浮かべた。
彼女がケーキを食べるのは初めてでは無い。
ケーキ自体は初デートの時のデザートや、誰かしらお土産に買って来た物を食べたことがあるが、母親の手作りケーキは今回が初めてだった。
「サーニャちゃん、全部食べていいからね」
母親も美味しそうに食べる彼女を見て胸が温かくなった。
「いいんですか、お義母様!?」
サーニャは遠慮がちに尋ねながら、その視線は手元の小皿を離れ、大皿に鎮座するケーキの本体を捉えていた。
「太るぞ」
「ふみゃっ?!」
楽人の妥当な突っ込みに、サーニャは可愛い悲鳴を上げた。
【リアライザー】は設定に忠実な姿で現れるが、決して永遠に体型が変わらない訳では無い。
話したり理解したりできる時点で、完全に不変では無いことは明白である。
「うぇ~ん、お義母様ぁ~、ガクトがいじめる~」
サーニャは片手に小皿を持って、もう片手のフォークでケーキを食べながら、向かいに座る母親の隣に移った。
「あらあら、まあまあ~。楽人ったら昔っから好きな子を虐めたがるんだから」
母親はサーニャの頭を撫でながら息子を詰った。
「こら待て! その話は初めて聞いたぞ?!」
聞き捨てならない言葉に、楽人が腰を上げてテーブルに手を突く。
「小学校一年の時に…」
「わーっ! わーっ! わーっ!」
「お義母様、その話くわしく!」
小さなお祝いの賑やかな宴は、ケーキが尽きるまで続いた。
その後、彼らは忘れないうちにと、その日の内に市役所でマイナンバーカードを受け取って来るのだった…。
ケーキが尽きるのが先か、黒歴史が尽きるのが先か?




