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極道一家:顛末

 火曜日。

 楽人が人生二度目の拉致体験をした翌日。

 朝っぱらから、角刈りの黒服が須磨家に来て、事の顛末を報告して帰った。


(…やっぱり家は調査済みだったか)


 彼の話に依ると、黒服たちはあの後直ぐ、貴巫女の家の裏口から出入りする範子を見かけたという証言を得ていた。

 それから、範子が元カレに未練が無いことを知った彼女の父親(くみちょう)は、元カレの家を探し出して片を付け、範子に「もう二度と範子の前に現れないように話を付けた」と言ったらしい。


 色々邪推しそうな状況だが、範子は親馬鹿な父親を信用して気に病んでいないという。


 また、範子と楽人の邪魔をするなという厳命が黒服に下ったらしい。


(しかし解せない)


 角刈りの黒服の言葉には一つ、不信な点があった。

 どうやっても、元カレの足跡を一カ月半以上追えなかったと言うのだ。


 それを聞いた楽人は嫌な予感がした。

 元カレは【リアライザー】だったのでは無いかと。

 【リアライズ】からは、まだ二ヶ月も経っていない。


(そう言えば、範子がクラスで彼ピ自慢を始めたのも、その頃からじゃなかったか?)


 楽人も意識していた訳では無いが、それ以前はギャル友たちと遊んでいる話しか記憶に無い。

 範子は頭が弱いとは言え、何カ月も騙され続けて気付かなかったと言うよりは、口先に特化したイケメン【リアライザー】に最近騙されたと言う方が説得力がある…。




 ――事実、真一郎は【リアライザー】であった。

 超有名乙女ゲー『惡の華 第一章』のメイン攻略対象の一人である。


≪なんで主人公にだけデレデレなの?≫


 美少女ゲームや乙女ゲームで、誰しも一度は思う疑問だろう。

 好みの違う異性たちが全員好きになる主人公とは、一体どれほど支離滅裂な設定であろうか。

 相手に合わせて態度を変えているのに、人を見る目のあるキャラが、主人公を「真っ直ぐな性格だから好き」と言うのも定番のギャグだろう。

 個人ルートだからと言うと、今度は大半の物語で必須とされる、主人公の唯一性の否定になってしまうのだ。


 特に顕著なのが、悪を売りにしたキャラ。

 味方になって丸くなるキャラは多いが、乙女ゲームやレディースコミックではそれが許されない。

 何故なら、主人公にだけ優しいとか、強引さとか、無法さとか、陰のある性格が魅力の根幹なのに、それが丸くなったら只のスパダリだからである。

 総じて、主人公がモテる理由は、只のご都合主義なので考えるだけ無駄なのだ。


≪じゃあ【リアライザー】にとっての主人公って誰だよ?≫


 答えは、“原作の主人公”である。

 【共生者】とは、原作キャラを最も強く想っている者であって、“主人公”では無い。

 【リアライザー】は、設定された性格に基づいて行動するのであって、相手が主人公だから特別な行動を取る訳では無い。


 それは人間が、人生経験によって養われた性格に基づいて行動することと、何ら変わりは無い。

 つまり、【共生者】は主人公補正無しで、【リアライザー】がそうなる行動を取らなければ、主人公のような特別扱いはされないのである。


≪結局どうなの?≫


 自分が主人公のように扱われたい、欲しがりさんな【共生者】の多くは、遅かれ早かれ、思い通りにならない【リアライザー】と仲違いする。

 そのため、【リアライズ】当初から、裏社会で売買された【リアライザー】は少なくない。


 しかし、捕まらず、保護されず、自活する者も居る。

 例えば、“主人公にだけ”優しいキャラである。

 彼らはその性質上、著しく倫理観に欠けるため、自分のために犯罪に走ることが少なくない。


 …つまり、真一郎は【共生者】と仲違いして追い出された後、普通のイケメンに見える容姿を活かして【リアライザー】であることを隠し、設定通り罪悪感なんて感じずに、女を食い物にして生活していたのである…。




 トゥルルルッ…ガチャッ


『なんだ坊主か。昼間っからどうした?』

「実は…」


 気になった楽人は、渡良瀬警部に電話を掛けて尋ねた。


『あー…、これから言うことはオフレコな』


 話を聞いた渡良瀬は、真っ先に口止めをした。


『実際、既に発生している』

「やっぱり…」

『【リアライズ】当初、『乙女ゲーキャラに騙された』とか言われた時は、またゲームと現実の区別が付かないガキか酔っ払いの戯言だと思ったんだがなあ…』


 “騙されたと主張する人間にはエゴイストか嘘吐きしか居ない”と言うのが、長年市民や犯罪者を見て来た彼の結論だった。


『一応留置所に突っ込んではいるが、戸籍登録をしていない【リアライザー】は人間の法律違反で取り締まれん』


 【超生物保護法】は公布されたが、まだまだ法整備は行き届いていない。


「それでは、どうしているのですか?」

『…御上の指示で、各地の刑務所に送って刑務作業……悪質なのは処分してる』

「あっ、はい…」


 人権は無いけれど刑務作業をさせると言うところに、国の苦悩が伺えた。

 【リアライザー】は大半が人間そっくりなので、害獣のように扱うのも難しいのである。

 【超生物保護法】に、『戸籍を取らなくても人間と同じ法律で罰せられる』という条文が追加される日も遠くなさそうだった。

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