前へ目次 次へ 217/225 野々香虎威(ノノカトライ) 「いたいですよぉ。野々香さん」 ぼくはそう言いながら、立ち上がった。山の湿った土がじんわりと冷たい夏の日。真剣に話していた友人の話しが、まるで冗談のようだった。それでつい、笑ってしまって投げられた。 大会に出場すれば優勝間違いなしの、それはそれは見事な一本投げである。とてもスーツをきてやったとは思えない。柔軟性にとみ、それでいてしなやかな筋肉の持ち主だ。友人の背後に虎の幻影を幻視した、そんな夏である。