27話・埼玉、落ちる
「直ぐに対策会議を開く、皆を呼んでくれ」
「は、はい!」
「笹木くん、君にも是非来て欲しい」
「……こんなの見せられたら、断れないな」
空を覆い尽くす無数の竜。
まるで映画のワンシーンだ。
モンスターがダンジョン外に現れる可能性。
それはずっと考慮していた。
しかし、いざそれが現実になって起きると、どれだけ楽観的な考えをしていたのかと打ちのめされる。
巨大な竜とやらが現れたのは埼玉だ。
だったら、他のダンジョンでも同様の事が起きてもおかしくない……寧ろ、起きると考えた方がいい。
迅速な対応が求められる。
こればっかりは関係無いと捨て切れない。
放っておけば、やがて人類が滅ぼされるのだから。
とにかく今は情報が欲しい。
協会の会議は願っても無いチャンスだ。
最悪、盗聴も視野に入れていたからな。
そんな事をせずに済む。
目黒自衛官と二人で部屋を飛び出て、駆け抜けるように廊下を走る。
誰かに咎められる事も厭わない。
今は一分一秒も惜しいのだ。
「それで、会議は何処でするんだ?」
「緊急時の会議は地下室で行われる」
「地下室? 初耳だな」
「一般には知られてない、機密エリアだからな」
目黒自衛官はさらりと言う。
組織の長としての黒い面を垣間見たような気分だ。
その後、僅か数十秒で地下に着く。
レベルで強化された身体能力は伊達じゃない。
地下室には普通に階段で行った。
隠された部屋……とかでは無いらしい。
警備員はしっかりと配置されていたが。
会議室には既に何人かの自衛官が居た。
目黒自衛官は迷わずスクリーンの前に赴く。
スクリーンには埼玉の様子が映し出されていた。
生中継だろうか?
何処かのテレビ局のチャンネルだ。
俺はひとまず壁際に引っ込む。
本来なら居ない筈の異物だからな。
余計な事は出来る限り言わない。
「到着した、現状はどうなっている?」
「目黒さん!」
余談だが、ここでは一応自衛官としてでは無く、あくまで冒険者協会の職員という立場な為か、自衛官達は互いの事を階級では無く普通にさん付けて呼ぶ。
世間に向けての体裁とか、色々あるらしい。
「ドラゴン達の破壊活動は、今も続いています」
「避難状況は?」
「……何もかもが突然だったので」
「そうか……」
報告した職員の顔が曇る。
避難は行われていない方を察した。
恐らく、在中の協会関係者も沢山殺されている。
避難誘導を行う人間がいないのだ。
こういう時、警察は当てにならない。
緊急時の連携でも約束していれば話は変わるが、そんな事をしているとは到底考えられなかった。
何せ警察組織はダンジョン関連に否定的だ。
犯罪者が増えると未だに意見している。
俺に言わせれば、そんなもの今更だ。
誰でも手に入る包丁で人は殺せる。
人をお手軽に轢き殺せる車だって、平然と毎日何千何万と歩行者の直ぐそばを走っているじゃないか。
結局は本人次第、力の使い用だ。
だから冒険者協会と警察は仲が悪い。
流石に表立って対立はしてないが。
「直ぐに部隊を編成し、討伐へ向かう。各地の支部にも連絡してくれ、害獣……いや、害竜駆除だ」
「我々も向かうのですか?」
「当然だ。放置しておけば、やがて他の地域もドラゴン達は襲う、ならばこちらから仕掛けるべきだ」
「目黒さん、政府からの連絡です。埼玉の状況に関して詳しく知りたいと」
「ちっ……こんな時に……電話をかせ!」
苛立ち気に電話を取る目黒さん。
さてと、俺はどうしてようか。
余り勝手に動くと邪魔になりそうだし……
「あの、笹木総司さんですよね?」
「? ああ、そうだが」
「良かった! 貴方に協力を要請したいと思い! ああ、失礼しました。私は宮崎隼人、冒険者協会の人事を担当している者です」
敬礼する宮崎さん。
彼も自衛官なのだろう。
年齢は積んでいそうだが、サッパリとした外見だ。
髪は短く切り揃えられ、服もキッチリ着ている。
姿勢も良く、まるで学校の学級委員長だ。
「貴方のことは目黒さんから聞いています、部隊編成に関して助言を頂きたく思い」
「一般人の俺の言葉が、役に立つのか?」
「冒険者については、貴方の方が何枚も上です」
はっきりと告げる宮崎さん。
断る理由も無い。
元々そのつもりでここに居るのだから。
「俺でよければ、力を貸す」
「ありがとうございます! では早速……」
彼は持っていた何枚かの用紙を広げる。
用紙には個人の名前がビッシリと刻まれていた。
「これは?」
「現在協会に登録している冒険者の一覧です」
「そうか、それで何故冒険者を?」
「今回の部隊編成で、冒険者の皆さんにも協力して欲しいのです。勿論有志を募って、です」
「……成る程な」
有志を募り、冒険者を集める。
彼の考えは理解は理解出来るが、それは少し、難しいかもと言わざるを得ない。
まず、冒険者は基本的に金が目当てだ。
誰かの為に働く、なんて高等な思想は持ってない。
そんな彼らが集まるとは、考え難い。
あとは単純に、戦力として不安だ。
殆どが昨日今日冒険者になったばかりの新入り。
はっきり言って戦力にならない。
「連れて行くなら、最低レベル8は欲しい。そのくらいならモンスターにも慣れてて、一人でも戦える」
俺は自分の意見を伝える。
宮崎さんは真剣な眼差しで名簿を見始めた。
該当者を探しているのだろう。
名簿にはレベルも記載されているそうだ。
定期的にレベルを伝える義務があったのはこの為か。
そういえば……俺は今、何レベルだっけ?
村上捜索で1は上がったのを覚えている。
その時は詳しく確認した訳ではなかった。
なので改めてステータスを開く。
……そして、自らのレベルに驚愕した。
[ササキソウジ]
Lv24
HP 250/250
MP 160/160
体力 35
筋力 50
耐久 35
敏捷 50
魔力 25
技能 【片手剣術】【投擲】【ウォーターフォール】【】【】
SP 25 『新たな機能が解放されました』
何だよ、これ?
俺は軽い目眩を起こす。
レベルの上がり方が異常だ。
こんなにモンスターを倒した覚えは無い。
それに、レベルだって上がり辛くなっていた。
なのにどうして……
自問自答を繰り返す。
その最中、一つの答えを導き出す。
だがそれがもし本当なら、誰にも知られてはいけない、パンドラの箱の中身になる。
最悪、世界中で殺戮が巻き起こされるだろう。
––––殺人。
要は、人殺し。
レベル持ちの人間を殺しても、レベルは上がる。
モンスターを殺すよりも、遥かに効率的に。
ふざけたシステムだ。
殺し合いを誘発させたいという思惑が読み取れる。
俺は二人の人間を殺した。
村上、小田。
奴らのレベルはどんなものかは知らない。
実力的に、恐らく10前後だろう。
その程度でも、これだけの上昇率。
知られる訳にはいかない。
もしこの事実が明るみになったのなら……
冒険者同時の暗殺合戦は、容易に想像出来る。
「––––さん? 笹木さん?」
「あ、ああ。すまん、ぼーっとしていた」
「さっきまでダンジョンに潜っていらしたんなら、仕方ないですよ。疲れているのに、すみません」
「いや、大丈夫だ。それより進展は?」
宮崎さんは赤丸の付いた名簿を見せる。
「これが検討する冒険者達です、ただ……」
「協会に協力してる冒険者は、一人もいない、と」
まあ予想通りだ。
そもそも協会に協力してる奴の方が少ない。
だが––––
「充分な報酬があれば、率先して集まるだろうな。そこら辺は冒険者協会の財政状況によるが」
「それなら、恐らく問題無いかと」
「あと冒険者は、作戦の重要な部分に組み込まない方がいい。途中で投げ出す奴が絶対に現れる。そういう奴には報酬を渡さないと、約束させる必要もあるな」




