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~101回目~

~101回目~


 100回のタイムループでようやく青野さんと付き合えたのだ。


 須藤和也という不安を取り除くには僕が青野さんと付き合うのが一番の早道だ。

 

 それに僕だって青野さんと付き合いたい。僕の願望なのかもしれない。でも、彼女のあの笑顔を見たら間違いとは思えない。


 今まで出会って見た中で最高の笑顔を僕に見せてくれたんだ。


「夏樹?今日学校休むの?行くの?」


 母親からだ。


「今日学校休むよ」


「わかった。私はもうちょっとしたら出かけるから後よろしくね」


 そうだ。悩んでいる時間はない。とりあえず、直前まで同じ行動を取ろう。それに考える時間はある。


 自転車を漕ぎながら僕は何を見落としているのかを考えた。


「ああ、わかったよ。俺はもう何もしない。だが、俺はだからな」


 引っかかっていた言葉。須藤和也のこの言葉だ。ずっと引っかかっていたのだ。何かがあるのか。いや、あの日、あの後に何かをする可能性があるのはこの須藤だ。


 だとしたら、あのまま帰るべきではなかったのかもしれない。


 それとも、あの時何か追加でする必要があったのだろうか。まだ何かが足りないのかもしれない。僕はまだ出来ることを考えていた。


 まず、須藤のこと。それともう一つ、気になっていることがある。柚木さんだ。去り際の表情がいつも曇っている。


「どうなっても知らないからね」


 まだ何かあるのだろうか?わからない。とりあえず、柚木さんへのフォローと須藤への確認。


 そして、帰らずに確認をする。ただ、青野さんの家は住宅街だ。あの時間に家の周りにいたら最悪通報されてしまうかもしれない。どこかいい場所を探さないといけない。


 自転車を漕ぎ、何度もした電話とホテルで書き込みを行い戻っていく。祝園さんと坂下さんとも会い、飛鳥さんとも別れる。


 大丈夫。きちんとトレースされている。ただ、柚木さんへのフォローを考えた場合、どこかで柚木さんともラインを交換しないといけない。


 『ルージュ』でラインを交換するのは青野さんだけだ。それに、『ルージュ』に入ってから早く店を柚木さんは出たがっていた。携帯で何かを確認していることも多かった。


 何かあるのだろうか。でも、彼女たちが僕と出会っていない時の行動に重要なことがあったとは考えられない。一度どこかで聞いてみるか。


「なんで、今日この街に来たのか」


 どこで聞くのがいいのだろう。何度も繰り返しているうちに注意力が散漫になってしまう。気を付けないと。僕は時計を見た。16時少し前。ジャグリングをする時間だ。


 開始するのは慣れているカラーボックスからだ。


 徐々に難易度を上げていく。何人かの足が止まり、見てくれる人も出てくる。携帯で僕を撮っているお客さんもいる。SNSに上がるのだろう。そこで誰かが「あれって外塚夏樹じゃない?」って書き込みが出る。一度気になって確認したのだ。


 カラーボックスの次はクラブを使用する。少しずつ本数を増やしていく。お辞儀をするたびに拍手をもらう。


 後2分後に青野さんと柚木さんがこの近くを通る。僕に気が付くのはいつだって柚木さんだ。


 はじめに交換しておくか。それでも大丈夫なのだろうか。積み重ねを繰り返す。共感の繰り返し。反則的な僕の行動。でも、僕は間違っていないはず。


 そう信じなければ何もできなくなってしまう。


 二人が歩いてくる。僕のジャグリングに柚木さんが気付き、青野さんの腕を引きこっちに来る。


 彼女たちがやってきたので僕は難易度を一気にあげる。すでに足下に円柱のロールと板は用意してあり、その上に乗る。


「誰か僕にボールを投げてもらえませんか?」


 周りを見渡す。仕込みじゃないとなかなか手伝ってもらえない。


「そこのかわいい女子高生の二人にお願いしてもいいですか?」


 ハキハキと通る声で僕はそう言って青野さんと柚木さんに手を向ける。


 ジャグリングをしながら手を向けるのはものすごく注意が必要だ。失敗すると大変なことになる。


「用事があるのであれば、無理にとはいいません。僕も見ての通り高校生です。歳が近いので声をかけてしまいました」


 柚木さんの表情が変わる。確信にかわった表情だ。


「やっぱり、天才少年の外塚さんですよね?投げます。というか、こずえ投げてよ。私写真撮りたい」


 青野さんはゆっくり足元にあるボールに手を伸ばす。僕はとびっきりの笑顔を青野さんに向ける。


「うん、わかった。このボールを投げればいいんですね」


「はい、できるだけ山なりで投げてください」


 青野さんにボールを投げてもらう。ちょっとバランスを崩したように見せるのもひとつのテクニックだ。


「大丈夫ですか?」


 心配そうに青野さんが言う。その表情がまたかわいかった。


「大丈夫ですよ。思い切って投げてください。受け止めますから」


 後ボールの数は3つ。これを全部受け止めたら終わりだ。青野さんがものすごく真剣な表情をしている。増えるボールをジャグリングする。後一個だ。これでラスト。受け止めて一周させる。


「はい、皆さん。ありがとうございました。これで終了です」


 宙に舞っていたボールを手におさめていく。もちろん全部は持てないので地面に置いていたアタッシュケースに一つずつ放り込んでいく。最後のボールをアタッシュケースに入れたら、深々とお辞儀をする。そして、彼女たちにゆっくり近づいていく。


「さっきはいきなり指名してすみませんでした」


「いえいえ、私結構ファンなんです。ツーショット撮ってもいいですか?」


 柚木さんが少し照れながら話してくる。


「いいですよ。って、多分歳近いですよね。敬語やめませんか?」


 切り返しを変えてみる。


「そうだね。でも、私はファンだから敬語でいたいんです」


 そう言って柚木さんが笑顔で僕を見てくる。


「身近に感じてください。たまにこの場所でジャグリングしていますので、また見に来てください。これ、僕のラインIDです」


 そう言って、カードを渡す。宣伝や営業用に僕は名刺を持っていて、そこにラインIDを書いているのだ。


「ありがとうございます。こずえももらっておきなよ」


「そうだね」


 青野さんの表情はくもったままだ。


「そうだ。もし、よかったらお礼にお茶でもご馳走しますよ。ちょうどおひねりもいただけましたので。といっても、僕も学生なのでそんな高いものはご馳走できませんが。よかったら行ってみたい店があるんですよ。少し前にオープンしたスフレ専門店なんですけれど」


 そう言うと二人の顔が明るくなる。


「あの『ルージェ』って店ですよね。二人して行ってみたいって言っていたんです。いいんですか?」


 青野さんが一気に笑顔になる。ラインの交換じゃない。僕が一方的に教えただけだ。後でもう一度聞きだせるのか、試さないといけない。


 『ルージュ』に着く。店内奥の壁側、ソファー席に案内される。もちろん僕は手前の椅子に座り、奥のソファー席を二人に進める。奥側なので入り口からも見えにくい場所。この場所でないと青野さんが安心してくれない。それも過去に経験済みだ。


 しばらくしてオーダーを聞かれた。オーナーのきれいな方が物腰柔らかく聞きに来た。


 ここで僕は青野さんと同じカフェラテとスフレを頼む。


 そして、生クリームにプラスしてトッピングができるので僕と青野さんは同時にブルーベリーと言う。大丈夫。問題なくトレースできている。


「甘いものが好きなんですか?」


「結構好きなんです。よかったら今度違うお店にいきませんか?連絡取りたいのでラインID教えてください」


「いいですけど・・・」


「気にしなきゃいいのに」


 柚木さんがそう言ってくる。この場所で彼氏の話しを聞くのはダメだ。いい人で終わってしまう。


「そうだ、暑いから今度パルフェサンドがおいしい店とかいいと思うんですよね。どうですか?」


「あの店も気になっていたんです。ぜひ行きましょう」


 青野さんがそう言ってくれた。よかった。この店に決まるまでにもう一つ気になる店を聞いていたのだ。その店はこの駅じゃない。移動してまでお礼というのに適さないからスルーしたのだ。覚えていてよかった。


 青野さんのラインを登録する。その時柚木さんからもトークが来た。


 スフレを食べ終わるとすぐに柚木さんが僕を一瞬見てから青野さんに話す。その話し方は少し強い口調だ。


「こずえ、どうするの?」


「ゴメン。私もう少し外塚さんと居たいの。ゆきなだけで行ってもらったらダメかな?」


 そう言って青野さんがゆっくり柚木さんを見上げる。


「どうなっても知らないからね」


 そう言って柚木さんが店を出て行く。


「何か用事があったんじゃないの?」


「うん、ちょっとゆきなに言われて来たんだ。まあ、あんまりいい話じゃないんだけれど。まあ、明日ゆきなから聞くからいいよ」


 この駅に来た理由は教えてくれなかった。このタイミングで聞くべきじゃなかったのかもしれない。ただ、誘ったのは柚木さんの方ということがわかった。


「この後どうする?」


 一瞬悩んでいる。間髪入れずに「近くにカラオケあるけど行かない?」と言う。


「そうだね。ちょっとだけなら」


 何かが変わったのか、変わっていないのかわからない。けれど、僕はここから今まで通りをトレースしていく。ざわざわするけれど、何も変わっていないようにも感じる。


 彼女が好きなアーティストの曲を歌う。タイミングよく歌詞に合わせて青野さんを見る。ここで目線が合う。青野さんの表情が変わる。いい笑顔だ。僕もその笑顔に応える。


 この後にもうちょっと話したいといって、マックにいって彼氏の話しも聞けた。


 もう、大丈夫。そう思った。青野さんを家まで送ると言って、電車に乗り、さらに駅を降りて二人で、公園に向かう。


「そんな彼氏と別れてしまえばいいよ。大切にしない彼氏なんておかしい。僕なら絶対に幸せにする」


 そして、電話をして、キスをする。


「幸せ」


「ああ、僕だって幸せだよ」


 でも、無情にも時間は来る。


「じゃあ、また明日ね。明日が楽しみになのっていつぶりなんだろう」


 そう言って青野さんは去っていく。僕は公園を出て一周する。まず、柚木さんにラインを送った。


「実は、青野さんと付き合うことになりました」


 しばらくして返事が来る。


「そうなんだ。気を付けてね」


 多分、須藤のことだろう。ラインだと長くなる。次に会った時に説明しよう。いや、青野さんから説明が行くかもしれない。


 僕は町内をまわり、大き目のマンションを発見した。少し古めのマンションのためそのまま階段を上がっていく。


 屋上まであがると少し遠いけど青野さんの家が見えた。そう言えば、前のループではこの時間疲れて眠ってしまったんだ。時計を見る。もうすぐ23時だ。


 その時すごい轟音がした。携帯が震える。青野さんからのライン。


「助けて」


 目の前では青野さんの家から火が出ている。何が起きた。近くに行って確認したい。でも、僕の足は動かない。


 徐々に血の気が落ちていくように世界が暗転していった。タイムリープだ。僕はまた青野さんを助けられなかった。


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