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~100回目の告白を~

~100回目の告白を~


 時計を見てジャグリングを開始する。16時少し前。


 何度もこの時間からから始めた。開始するのは慣れているカラーボックスからだ。


 徐々に難易度を上げていく。何人かの足が止まり、見てくれる人も出てくる。携帯で僕を撮っているお客さんもいる。SNSに上がるのだろう。そこで誰かが「あれって外塚夏樹じゃない?」って書き込みが出る。一度気になって確認したのだ。


 カラーボックスの次はクラブを使用する。少しずつ本数を増やしていく。お辞儀をするたびに拍手をもらう。


 ここに坂下さんも祝園さんも居ない。もちろん、飛鳥さんも。僕は今一人だ。


 でも、後2分後に青野さんと柚木さんがこの近くを通る。僕に気が付くのはいつだって柚木さんだ。


 それは仕方がない。彼女は僕のファンなのだ。数少ない、大切にしないといけない僕のファン。そして、僕と青野さんを繋ぐ大事な人でもある。


 二人が歩いてくる。僕のジャグリングに柚木さんが気付く。茶髪のショートの女の子が腕を引きこっちに来る。


 青野さんが僕を見る。彼女たちがやってきたので僕は難易度を一気にあげる。すでに足下に円柱のロールと板は用意してあり、その上に乗る。


 ここで順番を間違えたら彼女たちが通り過ぎる。それに気が付いたのは8回目だ。また、彼女たちを見過ぎてもダメ。成功した時を忠実にトレースしないとダメなのだ。


「誰か僕にボールを投げてもらえませんか?」


 周りを見渡す。仕込みじゃないとなかなか手伝ってもらえない。


「そこのかわいい女子高生の二人にお願いしてもいいですか?」


 ハキハキと通る声で僕はそう言って青野さんと茶髪のショートの女の子に手を向ける。ずっとジャグリングをしているし、テレビでもしている。


 普段は声をかけることができなくても、ジャグリングがあればできる。確実に成功するようになったのは12回目だ。


「用事があるのであれば、無理にとはいいません。僕も見ての通り高校生です。歳が近いので声をかけてしまいました」


 柚木さんの表情が変わる。確信にかわった表情だ。


「やっぱり、天才少年の外塚さんですよね?投げます。というか、こずえ投げてよ。私写真撮りたい」


 このセリフが出てこないと失敗なのだ。青野さんはボールを投げてくれない。そして、立ち去っていく。でも、もう大丈夫。青野さんはゆっくり足元にあるボールに手を伸ばす。


 僕はとびっきりの笑顔を青野さんに向ける。何度でも僕は笑顔を向けるよ。青野さんが笑ってくれるのなら。


「うん、わかった。このボールを投げればいいんですね」


 この言葉だけでも僕はうれしい。失敗を繰り返してきたんだ。


「はい、できるだけ山なりで投げてください」


 青野さんにボールを投げてもらう。ちょっとバランスを崩したように見せるのもひとつのテクニックだ。


「大丈夫ですか?」


 心配そうに青野さんが言う。その表情がまたかわいかった。


「大丈夫ですよ。思い切って投げてください。受け止めますから」


 この何気ないセリフが大切だということも知った。


 後ボールの数は3つ。これを全部受け止めたら終わりだ。青野さんがものすごく真剣な表情をしている。吊り橋効果もある。僕がそれを受け止めることも大切。そして、それを言葉にすることも。


 駆け引きだって言われたっていい。僕は青野さんを笑顔にしたい。いや、最初から僕は青野さんのその表情に、しぐさに一目ぼれをしたんだ。


 増えるボールをジャグリングする。後一個だ。これでラスト。受け止めて一周させる。


「はい、皆さん。ありがとうございました。これで終了です」


 宙に舞っていたボールを手におさめていく。もちろん全部は持てないので地面に置いていたアタッシュケースに一つずつ放り込んでいく。力を制限すればきれいに収まっていく。


 こういう何気ないしぐさも大切。身近にいるけれどすごい人と思ってもらえることも大切なのだ。


 最後のボールをアタッシュケースに入れたら、深々とお辞儀をする。そして、彼女たちにゆっくり近づいていく。


「さっきはいきなり指名してすみませんでした」


 笑顔で話しかける。何度経験しても緊張するのだ。おかしいと言わないで欲しい。だって、僕の表情一つ。言葉のトーン一つで世界は変わっていくのだ。


「いえいえ、私結構ファンなんです。ツーショット撮ってもいいですか?」


 柚木さんが少し照れながら話してくる。


「いいですよ。もし、よかったらお礼にお茶でもご馳走しますよ。ちょうどおひねりもいただけましたので。といっても、僕も学生なのでそんな高いものはご馳走できませんが。よかったら行ってみたい店があるんですよ。少し前にオープンしたスフレ専門店なんですけれど」


 そう言うと二人の顔が明るくなる。


「あの『ルージェ』って店ですよね。二人して行ってみたいって言っていたんです。いいんですか?」


 青野さんが一気に笑顔になる。青野さんが行ってみたいと言っていた『ルージェ』に行く。それを聞きだせたのは21回目。


 長かった。


『ルージュ』は駅から10分ほど歩いて行く場所にある。祝園さんが良く通っているメイド喫茶の近くでもある。


 そして、もう一つ。この『ルージェ』が入っているビルのオーナーは祝園さんだ。ある程度新しくきれいなビルは祝園さんが管理していることが多い。


 だからこそ、行く前に3名での予約が取れたのだ。普段は行列の店。並んでいると「また今度で」と断られて彼女たちは去っていく。


 祝園さんから話しを通してもらうまで大変だった。けれど、青野さんの笑顔が見られるのだから、その苦労なんて大したことじゃない。


 『ルージュ』の店内はかなりゆったりとしたつくりだ。壁側はソファー席。椅子も少し大きめでゆったりできる。


 内装もおしゃれな家のように作りこまれていて、本棚や雑貨がおかれてある。無駄に空間が使われているのだ。


 これで採算が取れるのか不思議だと調べた時記事に書かれてあったが、この店のオーナーは祝園一族の方で、趣味でしているらしい。


 まあ、あまり深入りしたくない。けれど、店に着くとその祝園さんの親族の方が出てきて挨拶をしてくれた。


 年齢不詳な女性だった。祝園さんと似てなくてきれいな人だということがわかる。いや、祝園さんだって痩せればかっこいいのではと思うが、いかんせんキャラが濃いのだ。


 ソファー席に座る。すでに彼女たちは店内を見てテンションがあがっている。そして、店内の写真を撮っている。


 しばらくしてオーダーを聞かれた。オーナーのきれいな方が物腰柔らかく聞きに来た。本当にあの祝園さんの親族なのかと疑問を持った。


 この店は注文があってからスフレを作る。提供までに30分くらいかかるのだ。つまり30分は会話が出来るのだ。


 ここで僕は青野さんと同じカフェラテとスフレを頼む。


 そして、生クリームにプラスしてトッピングができるので僕と青野さんは同時にブルーベリーと言う。こういう同調も大事だ。そして、このスフレが本当においしい。何度も食べているが飽きないのだ。


「甘いものが好きなんですか?」


 青野さんが聞いてくる。おすすめのおいしいケーキ屋の話しをして、ラインを交換する。ライン交換が成功した23回目にガッツポーズをしたのが懐かしい。


 そう。まずは相談から入らずに普通に接していく。相談から入ると僕は異性ではなく相談相手になってしまうのだ。


 それはこのルートにたどり着くまでに何度も失敗している。このルートになってからじゃないとカウントもしていない。


 いや、思い出したくもないんだ。いい人で始まり、いい人で終わる。僕が目指しているのはいい人じゃない。青野さんの彼氏になるのだ。


 スフレを食べ終わるとすぐに柚木さんが僕を一瞬見てから青野さんに話す。その話し方は少し強い口調だ。


「こずえ、どうするの?」


 二人は用事があってこの街に来たのだ。けれど、別のルートで僕は二人の行動を知っている。大事な用事があったとはあまり思えない。


「ゴメン。私もう少し外塚さんと居たいの。ゆきなだけで行ってもらったらダメかな?」


 そう言って青野さんがゆっくり柚木さんを見上げる。


「どうなっても知らないからね」


 そう言って柚木さんが店を出て行く。


「大丈夫なの?」


 ここで心配をする。この一言がないと「やっぱりゴメンなさい。ゆきなを追いかけます」と言われたのだ。言葉一つで世界が変わる。僕は何度だってやり直してきた。


「この後どうする?」


 そう言ったら僕がいるからかわからないけれど、買い物にはいかずにカラオケに行くことになった。


 どうも、青野さんはオープンスペースにあまり居たくないのだ。この『ルージェ』でも奥にあるソファー席に座る。


 外からは見ることができないし、外は行列のため、中が見えにくい。席の場所一つで断られるのだ。でも、その理由は束縛する彼氏が怖いためだ。理由がわかっているからこそ、こちらが先に行動すればいい。違和感なく、自然に。


 『ルージュ』を出てすぐ近くのカラオケに行く。チェーン店だけれど、若干高いのですぐに入れる。


 そこで彼女が好きなアーティストの曲を歌う。これは54回目で知ったこと。練習をして、かなりうまく歌えるようになった。


 やり直せる僕には時間だけはあるのだ。いい雰囲気になって、目線を合わせる。彼女の表情が変わる。


 この表情に気が付けたのが、63回目。そう、ここで僕が笑いかけるのだ。


 この後にもうちょっと話したいといって、マックにいって柚木さんからじゃなく彼氏の話しを聞けるようになったのが72回目。


 その後、青野さんを家まで送ると言って、電車に乗り、さらに駅を降りて二人で、公園で話せるようになったのが84回目だ。


「そんな彼氏と別れてしまえばいいよ。大切にしない彼氏なんておかしい。僕なら絶対に幸せにする」


「でも、怖いの」


 そうだろう。僕だって怖い。


「だったら、僕が一緒に連れ出すよ。その彼氏にはできないことを。僕たちが付き合っていることをアピールする。そう、今度テレビに出る時に一緒に出てよ。そこで紹介する。そうすれば、周りだって納得するんじゃない」


 彼氏が何かをするかもしれない。でも、相手が目立つ人間だと何かをしてしまうと自分も目立ってしまう。


 脅迫はあるかもしれない。でも、それは青野さんにはいかない。それに僕だってバカじゃない。


 だから僕は坂下さんとも祝園さんとも仲良くしている。何かがある時に後ろ盾になってくれる人は必要だからだ。


 電車の中で芸能界についても少し話しをした。彼女を守るためにはなんだってする。なりふりなんて構ってられない。


 だって、僕にはこの一日しかないのだから。それにかっこつけて青野さんが救えるのならそれでもいい。かっこ悪くたっていい。


「僕を信じて欲しい」


 僕は青野さんの手を取って目を見る。不安いっぱいだ。


「うん、わかった。信じる」


 そう言ってくれた青野さんの表情はすっきりしていた。


「じゃあ、今彼氏に電話をして。途中で僕が変わるから」


 そう、目の前でこの儀式をする。この儀式は大切だ。そうでないと、この後「やっぱり付き合えない」というラインが青野さんから来るのだ。


 この儀式で乗り越えられることを知ったのは98回目。そして、今がちょうどそう。100回目なんだ。


 電話で相手は怒鳴っている。離れていても聞こえてくる。


「変わって」


 そう言って僕は手を伸ばす。


「はじめまして、僕は外塚というものです。言い忘れていましたが、この携帯での通話はもうしわけないですけれど録音させていただいています」


 淡々とそう告げる。


「だからなんだって言うんだ。俺が本気になったらお前なんか社会的に抹殺できるんだぞ」


 あの優等生からは想像もできないセリフ。父親の影響なのだろう。


「そうですか?私もメディアに出ているものです。色んな人と関係を持っています。少しだけあなたのことを調べさせていただきました。


 あなたの父親はとある組織の末端ですよね。少し上に圧力をかけたら何もできなくなりますよ。これがどういう事なのかわかりますよね。


 円満に解決しましょう。僕はあなたを陥れたいわけじゃない。ただ、この青野さんと付き合いたいだけなんです。わかってください」


 圧力を僕自身がかけられるわけじゃない。でも、相手が感じ取ってくれたらそれでいい。それだけだ。


「別にこの音声データを開示するわけでもない。僕はこれでもあなたを評価しているんです。だから去り際くらいかっこよい状態を見せてくれませんかね?」


 そう言って僕は黙る。これで大丈夫なはず。わかっていてもドキドキする。


「ああ、わかったよ。俺はもう何もしない。だが、俺はだからな」


 そう言って、須藤は電話を切った。僕は安堵からか大きく息を吐いた。


「これで、青野さんは自由だね。じゃあ、正式に僕の彼女になってくれますか?」


 僕はそう言って青野さんを見る。


「はい」


 その返事だけで、その笑顔だけで僕は救われる。100回目の告白だ。


 そう、この君の笑顔が見たくて頑張ったんだ。少しくらい欲張ったっていいよね。


 僕は青野さんを抱きしめて、キスをした。


「幸せ」


「ああ、僕だって幸せだよ」


 そう言って、僕は家に帰る。家に帰るまでの間ずっと青野さんとラインをしている。たわいもない事。


 これからの事。色んなことだ。


 もうこれで大丈夫。家に着いたら疲れからかすぐに寝てしまった。



PPPPPP


 目覚ましだ。枕元にある目覚まし時計を止める。すぐに携帯を見る。表示は9月8日。ループしている。


 一体何が足りないんだ。ただ、わかること。それは、まだ僕は青野さんを助けられていないという事だ。


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