第048話「第二次迎撃戦3」
ダンジョンに戻るため、華撫の植物モンスターに乗って移動してきた大地達はゼンニ達がダンジョンの攻略を開始してから一日目が経過するころには入口近くまで戻ってきていたが、周囲を取り込む大規模な包囲陣を突破する方法を見いだせず、様子をうかがうしかない状態にあった。
「ちょっと、いい加減なにか方法考えなさいよ!」
「だから考えてるだろ!」
「そう言ってずっと腕組んでるだけじゃない!」
「う~ん、やっぱ華撫ちゃんの植物モンスターで引き付けてその間に中に入るのが一番じゃないか?」
「待てよ水橋、迷宮内にかなりの戦力が入り込んでる中でそんなことしたら最悪挟み撃ちにされるぞ?」
「内部の構造を知っている俺たちなら何とかなるんじゃないか?」
「……できるか?」
「恐れながら大地様、申し上げてもよろしいでしょうか?」
「セブルティス? なんだ?」
「強行突破の前段階として私が【霧化】で内部の敵の位置を把握すれば、そこまで危険なく地下要塞エリアまで戻れると考えますが、どうでしょうか?」
「あ、なるほど、その手があったか」
「ならさっそく実行だな」
「ちょっと、私の可愛い花達を犠牲にするなんてことにいつ私が許可を出したのよ?」
「え~、ちょっ華撫、この状態で他にどんな手があるんだよ?」
「隠し通路とかないの?」
「ない、作り忘れた」
「俺もダンジョンの拡張は大地にまかせっきりにしてたから作ってない」
「この無能ども!」
「だからそういちいち言われると地味に傷つくんだけど…」
「あーもう、いいわ! 私のモンスターを貸してあげるのはいいけど、条件がある!」
「条件?」
「この子達を失った場合の補填として相応のDPをあんた達に払ってもらうからね」
「うぇー、それっていくらぐらい?」
「ここに居る子を全部合わせたら軽く10万DPはいくわよ?」
「ちょっ! シャレになんねーぞそれ! 二人で分けても5万DPって俺らそんな持ってねーし!」
「分割でもいいわよ、とにかく必ず払う事、それが条件よ」
「「・・・・・・・・」」
「大地、やるしかねーだろ」
「だな、」
背に腹は代えられない、とにかく今は一刻も早くダンジョン内に戻らないと、そう考えて大地と水橋は華撫の提案を受け、作戦の準備に入った。
-攻略部隊陣内-
「ゼンニ将軍、第4班から連絡です。奥に広い空間のある通路を【サーチ】にて発見、同時に大量のモンスター反応を確認したため、一時後退したとのことです」
「よくやった。それが例の大部屋じゃろう、ただちに休息中の魔法騎士を全員召集、それからイトイルとルサル将軍も呼びに行ってくれ」
「は、」
イトイル・ルサル・魔法騎士団が揃うと、ゼンニは簡潔に言い放った。
「これよりダンジョンのモンスターを全て倒して王国に繁栄をもたらすぞ! 皆ワシについてこい!!」
「「「「うおおおおおおお!!!」」」」
魔法騎士団や王国兵士たちはゼンニの言葉に奮起し、イトイルやルサルは静かに闘志を燃やしていた。
そんなダンジョン攻略の主力とも言うべき彼らが今まさにダンジョンに入ろうというその時、最悪のタイミングで大地たちの作戦はぶち当たってしまった。
「しょ、植物モンスターの襲来です!」
「うろたえるな!」
「歩兵各隊は左右に展開! 魔法騎士隊は中央に陣取り相手を押さえよ! イトイル、上からあいつらを焼いてやれ! ルサルはワシとあいつらをかく乱するぞ!」
「承知しました!」
「きき、いいぜ!」
「わかったわ!」
ゼンニの的確な指示で突然の奇襲にも関わらず、あっという間に包囲が完成し、植物モンスター達は駆逐され始めた。そして植物モンスター達の間を縫ってかく乱攻撃を仕掛けていたゼンニはモンスター達の中に妙な集団を見つける。
ん、なんじゃあれは?
近づいてみると、それは若い男女の集団で一人は妙な透明の鎧を着こみ、もう一人はローブで身体の半分を隠し、最後の一人は旅人がよく使う外套を纏っている一見すると冒険者の集団に見えなくもない者達であったが、モンスターと戦うでもなく、さらに周囲のモンスターも彼らを襲おうとせず、逆に守っているようにさえ見えることからその異常性に気づき、ゼンニはその集団の中に突っ込んで行った。
「何者じゃお主らは?」
「うわ! どっから現れたんだ、じいさん!?」
「質問に答えよ、何者なんじゃ? お主らは?」
「え、えぇ~っと俺たちはその~、」
「冒険者よ! 王国が攻略中のダンジョンがあるっていうからおこぼれをもらおうと思ってね」
おお、よくやったナイスだ華撫!
「ほぉ、冒険者か、免許は持っとるのか?」
え? まずい! 免許なんて持ってねーぞ!?
「これでいい?」
内心で焦る大地をよそに、華撫はなんの躊躇もなくローブの下からなにやらヒモ付きの金属プレートの様な物を取り出した。
「……たしかに冒険者の免許じゃな、他の奴らは…うお!」
ゼンニの疑いの矛先がこちらに向かおうとすると、周囲の植物モンスターが一斉に動きを活発化させ、大地達も含めて見境なく攻撃し始めた。
「ちょっとおじいさん、こんなモンスターに囲まれた状態でのんきに確認するヒマなんてないんだからするなら後回しにしてよ!」
「・・・いいだろう、冒険者だと言うならその実力を見せてみろ」
そう言うとゼンニはデスフラワーの群れに突っ込んで行き、辛くも大地たちは危機を脱した。
「助かったよ華撫、お前いつの間に冒険者の資格取ってたんだ?」
「取ってないわよ?」
「へ? じゃああの免許は?」
「前に私のダンジョンで死んだ女冒険者の免許よ、顔写真もついてない免許なんて「これが私の免許です」って言い張れば、その場限りくらいいくらだって誤魔化せるでしょ?」
「た、たしかに、」
「華撫ちゃん頭いいな」
「やはり偽物か、」
「「「!?」」」
背後から聞こえてきた声に全員が振り向くと、そこには今反対方向に走って行ったおじいさんことゼンニが立っていた。
「どうやらじっくり話を聞く必要がありそうだな、」
「みみっぴ! るるぷー! 殺って!!」
「「畏まりました!」」
華撫がそう叫ぶのと同時にローブのしたから触手、ではなく植物の蔓が無数に伸び、ゼンニへと襲い掛かる。しかしゼンニは持っていた魔剣、『黒鉄剣ガッゼス』でなんなくそれを切り裂いてしまった。
「ち、強い」
「みんな走れ!」
大地はゼンニに強敵の気配を感じとり、ダンジョンへの退避を優先させようとして目くらましの魔法を放った。
「火炎魔法【ファイヤーショット】!」
「風雷魔法【ホーミングサンダー】!」
大地の魔法に合わせて水橋も魔法を放ち、それを合図に大地たちは走り出した。だが、ゼンニにはそんなもの目くらましにすらならず、【縮地】を使われてあっという間に正面に回られてしまった。
「面倒だから一度しか言わんぞ? 大人しく捕まれ、そうすれば丁寧に扱ってやる」
ゼンニの威圧感たっぷりの声と眼光の迫力に大地はすっかり気圧されてしまっていたが、長い事別のダンジョンで修羅場を経験していた華撫はなんとか大地よりは動くことが出来た。そしてこの場から脱出するための行動を起こした。
「お断りよ! ぱんじー! 花粉よろしく!」
「はいねぇ様!」
華撫がローブの下から大きなリボンを出すと、大量の花粉が煙のごとく噴射され、一気に周囲の視界が覆われてなにも見えなくなった。
「今よ!」
華撫の声に反応して大地と水橋はダンジョン入口に向けて走り、花粉が収まる頃、なんとか華撫と水橋はダンジョンの入口に到達して息を吐いた。
「はぁ~、はぁ~、なんなのよあのじいさん!」
「華撫ちゃん、悪態着く前にもっと中に行かないと、大地、セブルティスはなんて…大地?」
水橋は周囲を見回すが、大地の姿は見えず、声も帰ってこない。
「まさか!」
水橋が走って来た方向を見ると、そこには氷で出来た無数のリングに捕らわれて身動きできない大地とそれを取り囲む兵士達の姿だった。
「やばい! 大地が!」
「待ちなさい! 今行ったらあんたも捕まっちゃうでしょ!」
「けど!」
「ダンジョン内から戦力を率いて連れ帰るしかないわ」
「残ってる植物モンスターでどうにかできないのかよ!?」
「無理よ! もうほとんどやられちゃってる…」
「…ちくしょう!」
【アイシクルバインド】に捕らわれた大地は360度全方向から槍を突きつけられ、生まれてからもっとも生きた心地がしなかった。
「いろいろ聞かせてもらおうかの?」
にんまりと笑ったゼンニの表情は大地にとって死神の笑みと同じに思えた。




