第047話「第二次迎撃戦2」
エステラの命令によって地下要塞エリアまでモンスター達が後退するにあたって、殿を務めることになったムラサメ隊は少々やっかいな事態になっていた。
「くう、外で戦った御仁もそうだったが、この者もなかなか強い、」
「ききき、腐っても将軍という大役をいただいている以上、そこらの兵士よりは鍛えてるんでね、悪いが押し通らせてもらうぜぇ!」
「させん!」
鋼鉄製の短槍を構えたルサル将軍と両腕を刃に変えたムラサメが切り結び、その周囲でも量産型ムラサメ隊と重装歩兵たちが刃を交わし、激戦を繰り広げていた。
「はぁっ! スキル【ライトニングチャージ】!」
「ぐおっ!」
ルサル将軍の槍が紫電を帯びたかと思うと、一瞬にしてムラサメの胴体を貫通した。しかも一撃では終わらず、二撃、三撃と連続で繰り出される攻撃にムラサメはなんとか防ぐために【形状変化】で両腕をシールドに変化させ、攻撃を反らしつつ距離をとった。
「ちぃ、鋼鉄製の拙者の身体に穴を空けるとはやっかいな、」
「同じ鋼鉄製ならスキル分の威力が上乗せされたこっちが有利ってことだな、ききき!」
ムラサメは目の前のルサル将軍との戦いに集中しながらもこのあとの撤退をどう成功させるかの算段を立てるため、考えをめぐらせようとしていたが、そのたびにルサル将軍のトリッキーな動きとそこから繰り出される驚異的な威力の短槍に手一杯となっていた。
…どうにかして部下達だけでも下げさせねば、このままではこのダンジョンの存続に関わる。
ムラサメが最悪の場合は自分を犠牲にしてムラサメ隊を撤退させるための覚悟を決めようとしていると、
「ムラサメ、ご苦労様でした、手伝います」
背後からそう声を掛けられ、地下要塞エリアにいるハズのエステラが現れた。
「エステラ殿、…もうよいのか?」
「はい、全て順調です」
「よし、ならばここはもうひと踏ん張りだな」
「ええ、ついでに言えばまだまだやってもらうこともあるので余力は残しておいてくださいよ?」
「この連中相手に余力を残すのは少々厳しいな」
「では、終わるまでずっと全力で努力なさい」
「エステラ殿、余計厳しくなっとるぞ!?」
「来ます!」
エステラとムラサメが雑談をしているとルサル将軍が短槍を構えて一直線に突っ込み、二人は左右に分かれて躱し、追撃を掛けようとした。しかし、ルサル将軍もそれを予想し、短槍を頭上で回転させてスキルを発動した。
「スキル【ランスストーム】!」
「うおぉぉぉ!」
「くっ!」
エステラとムラサメはルサル将軍の発生させた強風でとっさにその場で吹き飛ばされないように踏ん張るのが精いっぱいで、攻撃を届かせることは敵わなかった。
「悪いが、二対一は俺も厳しいんでな、引かせてもらうぜ!」
そう捨て台詞を吐きながら、ルサル将軍は床や壁を跳ねるように後退していき、気づけばムラサメ隊と戦っていたはずの重装歩兵の部隊もほぼ撤退しているほどの手際のよさだった。
「やられましたね」
「であるな、おそらくさっき突っ込んで来たときにはもう撤退の合図か何かをしていたのだろう」
「それだけではありません。不利なのを承知でこちらに一太刀浴びせてきたという事は向こうの戦力一人で私たち二人とどこまで戦えるかを測ったということです」
「なるほど、次は二人以上で来る事を想定した方がよさそうだな」
「とにかくこちらも後退します。 ムラサメは下がりながら時間稼ぎの壁を作ってください」
「少し休みたい所ではあるが、承った」
ムラサメ隊を率いつつ無事地下要塞エリアまで戻ったエステラはPちゃん達とともにさっそく次の手を打つべく行動を開始する。
「エステラちゃん、配置の方は指示通りに進めてます。あとはムラサメちゃんが頑張ってくれればあらかたの用意は終了です」
「ありがとうございますP様、これでなんとかマスターがお帰りになるまであいつらを掃除できる目算が立ちそうです」
「頑張ってくださいね!」
「はい」
エステラとPちゃんが話しているとちょうどムラサメが通路の壁を作り終えて戻ってきた。
「エステラ殿、言われた通りに壁を作ってきたぞ」
「ご苦労様です。ではあともうひと頑張りして、ムラサメ隊とともに壁作りをしてください」
「まだ作るのか!?」
「はい、今度はそこまで高い壁でなく身を隠せる程度に低い壁を十重二十重に迷宮エリアからの通路を囲む形でお願いします」
「……り、了承した」
鋼鉄製で生身など一切ないはずなのにどこか疲労感を滲ませる動きでムラサメは部下達とともに指示通りに防壁作りに入るのだった。
「さあ、あとは根競べです」
「なかなか強いなあのモンスター達、見た目はそこまで普通の奴と大差ないのに動きは別物だったぜ」
「そうじゃろうな、おそらくはあのゴーレム種もくりえいともんすたーと呼ばれる種類なのじゃろう…」
「そんな強いならなんであたしの時には現れないのよ!」
「おそらくイトイルが入っとるときには魔法騎士団の方の相手をしとったんじゃろう、ちょうどそのぐらいの時に交戦したと報告があがっとったわ」
「て、ことはやっぱりゼンニ殿の予想通り強力な個体のモンスターはあの二体だけ?」
「か、居てもあと一体か多くて二体といったところじゃろう」
「最大四体か、俺達で一体ずつ、魔法騎士団で一体の受け持ちで十分対処できそうだな」
「そうじゃな、あと一日、時間をかけて慎重に奥へと侵攻をかける。以前の攻略隊の情報通りならその先は広い大部屋があるそうじゃ、そこまでのルートを確保できたならば、ワシら3人と魔法騎士団を同時に投入する」
「ずいぶん思い切った手に出たわね」
「こういうのは一気に行けるときには行けるだけ行っといた方が良いからな」
「まぁ心配事もあるだろうが、戦力を集中するのには賛成だぜ。横やりが入らなければあと一息であのゴーレムは倒せそうだったからな、次は倒させてもらうぜ。ききき!」
「あたしはある程度内部に入ったら別行動させてもらいたいんだけど?」
「あまりダンジョン内での単独行動は許可できんのだがな、……危険を感じたら必ず戻ってくると約束せい、そうしたら短時間だけ許可を出してやる」
「アネイルを見つけるのにだらだらと時間をかけるつもりなんて最初からないわ」
「妹思いなこって」
「何か言ったかしら? ルサル将軍?」
「いーやなんにも? ききき」
「よし、このあとは大部屋発見まで他の班にまかせてお主達は各々英気を養っていてくれ。出番がきたら大いに働いてもらうからの?」
「はいはい、わかったわよ」
「了解だ、ゼンニ将軍」
戦いはまだまだ長引く予感を感じさせていた。しかし、いつどこで互いの戦力がはかりにかけられた天秤が傾くのか誰にもわからず、次の瞬間には決着がついてしまうかもしれない状況も確かに存在していた。




