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Synthetic School  作者: 南雲 楼
五章 学園、違和感
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10

「お、おう……」


 珍しく沈黙となる。部屋にいるときの急な静けさは全く気にならないが、今は空気が重く感じた。


「あ、あー、っと、とにかくさ、風邪ひくから戻ろうぜ。夕飯は取っといてもらうように寮母さんに頼んであるからさ」


「いらないけど」


「あ、マジ? 唐揚げだったんだよなー。パクっとけばよかったかなー」


 空気を察してるのか、読めないのかは分からないが、普段の軽口がとにかく疎ましく感じた。何と言うか、寮の仲のいい人も、クラスの友人も、先日入部した放送部の同期も、学園で出会った人たちに対してたまらなく負の感情を抱くことがある。


 理由は簡単。魔法というこの学園で当たり前の物から自分が外れているからだ。焦りや不安や苛立ちや。全てが混ざって気に入ったはずの居場所が自分の物ではないように感じてしまう。


「ああ、いいよ、一人で帰りな」


 ダメだとは思いつつもつい声が荒くなる。決して孤独が好きだというわけではない。それでも人が近づくことがとても煩わしくなることがある。

 矛盾のようで当たり前のことだ。


「はあ? クソ濡れてるぞ。風邪ひくから一緒に帰ろうぜ」


「ホントにいいから」


「……あ? 俺、何かした?」


「うるさい」


 たった一人に向けたはずの言葉は学園の友人全員への思いが混ざったような声だった。言葉を飲みこむ音が聞こえる。


「……分かったよ! 風邪ひいても知らねえからな!」


 視界の端に開かれていない傘が叩きつけられる。よく見たら久炉の物ではなく、花火自身のものだった。そして足音は遠ざかり、聞こえるのは雨音だけだった。


 少し時間が経って、言ってやった爽快感と罪悪感が矛盾して絡んだような思いが湧いた。これも全て悪いのはこの学園のシステムなんだ。それでもたくさん友達もできた学園そのものはあまり嫌いに慣れない。


「ああ……もう本当に何も考えたくない」


 魔法さえ扱えれば。このままでは身の安全以前に心の健全が保てない。どうしても矛盾した感情に突き当たり。脳が煮えそうになる。


 手を雨空に向けて突き出す。普段の魔法の練習のように意識を集中して。どうせ出ないと思いつつ、腕輪を光らせるために意識を向けた――瞬間。



 腕輪の白い鉱石から異常な光が漏れ出した。淡い水色。普段の何倍も強い光は暗い世界に光の世界を落とした。


「……は、あ? 何、これ」


 異常な事態に心臓が跳ね上がる音がした。腕輪から何かが体に注ぎ込まれるような奇妙な感覚。突き上げるような感情。


《やっとだね》


 ふっと頭に響いた声。入学式の夜の夢で出会った声と同じだった。少し落ち着いた少女の声は、普通でありながら印象強かった。


《やっと見つけてくれた》


 見つけたって何を? そう聞こうとするも声は出ない。


《大丈夫。君はもう認識できるから。大丈夫》


 そう言われ。ふつふつと溢れそうになっていた感情を投影する。派手な水しぶきが上がった。


「……使えた。いや、使えてたのかな」


 頭の中にできた認識の領域。そこから体に染みるような感覚はとても清々しくて。


「帰ろうかな」


 呟き、傘を拾い上げる。この傘を持ってきた人間にはさんざん感情をぶつけてしまったが、謝れば何とかなるだろう。何ならコンビニでジュースでも買っていってやればいい。


 寮への道を歩き出す。少しだけ雨が弱くなった気がした。それでも雨は止んでいない。



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