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「久炉さんは、昨日、退学した生徒の詳細をご存知ですか?」
昨日、四月十六日付で退学した生徒が一人いる。隣のクラスの生徒だ。
「ああ、さすがに知ってるわ。詳しいことは生徒会も聞いてないけどな。でも退学ってできたんだな。問題行動しても停学で済むし……自主退学ならできるってことかね?」
久炉の推測を、神奈は首を振って否定した。
「彼はおそらく辞めさせられました」
「あ? 停学じゃすまないような事したのか? ……いや、そもそも何でお前が詳細知ってるみたいな口ぶりで話してるんだよ……」
久炉はため息をついて神奈から視線を外す。生徒会側も『生徒が一人退学した』としか聞いてない。そのような情報をどうやって彼が知っているのか。
「ほう、生徒会側も生徒の魔法の状況について把握できていないと?」
「あ? 状況も何も皆使えてんだろ。使うか使わないか、使う機会があるかないかの違いがあるだけでさ」
はあ、と神奈はため息を吐いた。その動作が“何もわかっていない”と言いた気で、少し青筋が立ちそうになる。
「実はですね、二組の生徒に少し話を聞いてみたところ、彼は魔法が使えなかったようなんです」
ああ、そうか。魔法が使えなかったならやっていけなくても仕方ない。――なんて言っていられる場合ではない。
「はあ!? 何でそうなるんだよ! つーか、そもそもこの学校三年間は在籍することって同意書書かされんだろ入学式前に!」
「憶測で申し訳ないのですが、この学校で魔法が使えないものは遅かれ早かれ排除されるようです。退学した彼も厳重な口止めや……魔法による記憶の改ざんなども行われたのかもしれませんね」
記憶の改ざん等と恐ろしいことを平気で口にする神奈にも少しだけ慣れが生じてきた。
「……待て、何で“辞めさせられた”ってのは確定事項みたいになってんだよ。もしかしたらその人がもうここに居たくなくて辞めたのかもしれないだろ」
「その男子生徒は、早く魔法が使えるようになりたいと、友人に特訓を頼んだり教員に補習を頼んだり、真摯な態度で努力していた。そんな性格で退学する前日、教員に呼び出されて以来、姿を見せなかったらしいです。きっと圧力でしょうね」
辞めろ、と分かるように言われなかったとしても、やんわりと退学する方向に持って行った可能性がある。
努力に疲れたとしたら、そこに付け込まれ、諭されて学校を去ることを決めたのかもしれない。何にせよ、学校からのアクションが無かったなんてことはないだろう。
しばらく前に魔法学Iの教科担当と話した時の彼の視線が思い出される。じっとりとした、異端者を選別するような視線。この学園での魔法の必要性は自分たちが思っている以上に大きなものなのかもしれない。
どんどん学校のキナ臭さは強くなっていく。それと同時にある友人への不安も膨らんでいく。もし彼女も退学することになったらどうしよう。――やっぱり相談か
「わり、用事思い出したから帰るわ。施錠するから出てくれ」
「はい、用件は済みましたし、私も帰寮することにしましょう。では」
神奈が部屋を出ると、荷物を持って廊下に出た。そのまま彼を追わず、一人で校舎を出る。外の空気は水の匂いがして、雨が降りそうだった。




