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ああ、言っちゃったよ。恒例となりつつある、身の丈以上の仕事を引き受けた後の後悔。久炉は神奈に聞こえないよう、小さなため息を吐いた。
「見込み通り、ですね。貴方ならそう言ってくださると信じていました」
神奈は薄い笑みを浮かべると、パイプ椅子の背もたれに体を預けた。彼の笑みとは対照的に、久炉の心中には不快感が湧き上がる。
「何だよ、試したみたいな言い方してさ」
「まあ、若干、ですかね」
この野郎、と言いつつも場の空気は少し和やかな物となる。神奈のことは分からないが自分は緊張の糸が切れた気分だ。
「つーか、手伝うって言ったけど何すればいいんだよ。他言無用ってことは生徒会の仕事を役員に肩代わりしてもらうのも厳しいよな。いつかバレるかもしれない。そうなると、仕事の合間になるけどいいのか?」
「ええ、あまり手間は取らせません。貴方にしていただきたいのは、情報の提供です」
意外な言葉。目が丸くなるのを感じる。もっと実地的な活動をするのかと思いきや、情報だけか。だが、情報と言っても何を教えればいいのだろう。
「職員室や生徒の動き……学園の表の存在である生徒会だからこそ知ることができる情報も多々あるでしょう。それらを流していただけたら、という事です。もちろん私も個人で調べた情報も提供させていただきます。そして、時折それらを踏まえて意見交換ができたら……と考えております」
「なるほど、まずは情報を集めてからってことね。……じゃあメアド交換しとくか」
久炉はポケットから携帯を取り出す。神奈も同様に鞄から携帯電話を取り出した。赤外線通信。旧型の携帯でもこの機能は付いている。
「っし、登録完了っと」
「ありがとうございます。これで二人目アドレスが登録されました」
「友達少な!」
「寮のルームメイトだけですね……まあ、冗談は置いておいて」
冗談だったのか。一瞬同情してしまったではないか。久炉はため息をつきながら携帯を閉じた。
「情報に関しては直接教えてください。携帯でやり取りするのは会う日取りを決めるくらいでお願いします」
「は? 何でだよ、めんどくせえ」
「貴方……この携帯は学内の回線でのみ使えることを失念していませんか? この端末……それと、ネット回線を利用したやり取りは学校側に筒抜けになっているかもしれません」
久炉の視線は無意識的に携帯電話に注がれる。言われてみればそうだ。学園内での回線は監視されていないと考える方が現実味がない。異常な制度がある学校がそれくらいのことをしないわけがないのだ。
そして思い出されたのは、寮の監視カメラだ。もしそれらが生徒会室にもあったとしたら自分と神奈はどうなる? 平静を保ちつつ神奈にそれを伝えることにした。
「これは言っちゃいけないって言われてるから他言すんなよ。寮の入口とかって監視カメラあるんだぜ。だから、生徒会室にもカメラや盗聴器があってもおかしくないんだわ」
「ああ、それは大丈夫です。貴方が職員室に行っている間に調べましたが、その類の物はありませんでした」
何でわかるんだ、という久炉の疑問が口を吐く前に、神奈はポケット鞄から小さな機械を取り出した。「これがあれば盗聴器等簡単に見つけることができます」と言いつつ久炉に見せると鞄に戻す。
探知機……普通の高校生が持っている物ではない。こんな話を持ちかけてきたことといい、何者なんだコイツは? どうせそれを聞いたところで、笑みを浮かべたままの神奈は答えないだろう。
「――ところで」
もう話すこともなさそうだ。時間も遅いし、お開きにするか。そう神奈に伝えようとした時、彼の言葉に遮られた。




