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Synthetic School  作者: 南雲 楼
四章 委員長、集合
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9

 名月が予算の無駄を探す作業に戻った時、会議室の扉がゆっくりと開かれた。一人の男子生徒がきょろきょろと視線を巡らせながら足を踏み入れる。


 髪は染めていないが整髪料でセットされていて制服を着崩しているため、少し不真面目な印象を受けた。


 男子生徒は黒板の張り紙が座席表だと気づくと足早に歩み寄り、自分の座席を知るために視線を巡らせる。

 席数は少ないのに関わらず、彼は自分の席を見つけるのに手間取っているのか、座席表を注視している。


「あの、俺の席どこっすかね」


 結局見つからなかったようで、へらへらとした少しふざけているかのような表情で近くにいた蒼冱に問いかけた。


「は? 名前は?」


 蒼冱は少し不機嫌そうな声色で聞き返す。表情は普段と大差ないが、感情が声で伝わってしまいそうだ。しかし、相手はそれに気づかなかったようで名乗った。


岩川(いわかわ)光太郎(こうたろう)っす!」


 広報委員長、か。蒼冱は座席表を指さし、場所を告げる。光太郎は教室を見渡すと口を開いた。



「あの、これって固定なんすかねー? 俺ここ嫌なんすけどー」


 語尾を引き延ばした口調。蒼冱の眉がピクりと動く。不愉快さを隠せなくなってきている。

 実際、久炉もかなり苛立っていた。本当にこんな奴が委員長で大丈夫なのか。伊達マスクで表情がわかりにくいのをいいことに表情の抑制を諦める。

 名月に至ってはさらに顕著に苛立ちと不愉快さを表情に出していた。


「俺、男の隣嫌なんだよね。あの娘、あのかわいい娘の横にしてくれない?」


 急に馴れ馴れしい口調に変わり、指さしたのは、摩胡と話し込んでいた咲だった。


 自分の場所がわからないかのように座席表を見つめ、蒼冱に声をかけたのは自分の座席が気に食わなかったからのようだ。どうやって咲の隣に座るか考えていたらしい。


「へ? うち?」


 咲は少し目を丸くした後、眉根を寄せた。他人の表情の変化に疎いのか、無視しているのか、光太郎は咲に話しかける。


「ねえ、君、咲っていうの? 友達になってよ」


 咲の応答はない。いきなり知らない不真面目そうな男に馴れ馴れしく話しかけられても対応に困るのだろう。摩胡と困ったように顔を見合わせている。反応をもらえる気配がないのを感じ取ったのか、光太郎は黒板のもとを離れ、咲に近づく。


「無視しないでよ。友達になるくらい、いいだろ? メアド教えてよ」


「え、えっと……」


 咲は助けを求めるように視線を動かす。さすがに止めたほうがいいよな。そう考えた時、名月が立ち上がった。



「いい加減に黙ってくれませんかねえ!」


 右手首の腕輪の灰色の光。カサカサと何かが擦れる音。光太郎の足もとに虫が大量発生していた。顔をゆがめる光太郎をよそに、虫たちは彼の体を登り始める。数匹の個体は空を飛び、彼の顔に張り付いた。


「な、何だよこれ! 気持ち悪い、離れろ!」


 虫に這われる男子生徒は引きはがそうともがくが、虫は落とされてもまた彼の体に取り付く。


 名月は虫と格闘する男子生徒の背後に歩み寄り、彼の肩を掴み、少し背伸びして、耳に顔を近づけた。


「自重しないと眼孔から虫に侵入させて脳みそ食い荒らさせるで」


 自分が言われたわけでもないのに背筋に冷たい物が走る。先ほどまで女子生徒にナンパ行為を働いていたとは思えないほど青ざめている光太郎が不憫に思えた。



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