5 保健委員長
「失礼しまーっす」
久炉は『柴田が中にいます』と書かれたプレートのかかった引き戸を引き、足を踏み入れた。別館一階の第二保健室。ツン、と消毒液の匂いが鼻をつく。
白磁高校の保健室は二つある。普通教室や職員室のある本館一階の第一保健室。特別教室のある別館一階にある第二保健室。
魔法学校という性質上、怪我をすることが多い。そのため、養護教諭は二人在籍していて、保健室は同等の設備の物が二つ作られている。
「あ、来た来た」
パソコンで作業していた第二保健室の担当となっている養護教諭、柴田が顔を上げる。外見は若いが実年齢は三十歳くらいとのうわさが流れている。実は教員一年目の新人らしい。しかし、サバサバとした性格ですでに生徒の心を掴みつつあった。
「あ、お邪魔しまーす」
「はいはい。挨拶したって水道水くらいしか出さないけどね」
別館一階の西側の端にある第二保健室は広い。入口から見て左側に養護教諭のデスクやソファ、数人で使える机等が配置されている。
応急処置や保健室登校に対応しているようだ。それらや医療品などが詰まった棚が保健室全体の三分の一を占めている。
残りのスペースは壁で区切られ、ベッドが六つ配置されている。第一保健室は本館にあることもあり、さらに広い。
「えっと、保健委員長さん、決まったんすよね?」
「うん。私と第一の大林先生の意見が一発で一致したの。流神東夜さんって言うんだけど、すごいよ。特に問題はないと思うけど一応会っといてほしいなって……わざわざ呼び出してごめんね」
二人の養護教諭の意見の推薦が議論せずとも一致したということは相当すごい生徒なんだろう。久炉は辺りを見回す。しかし、保健室には自分と柴田以外の人影が見当たらない。
「あの、その流神さんってまだ来てないんすか?」
久炉は言いかけながら真新しいソファに腰を下ろそうとする。しかし柴田の腕の動きが視界に入り、行動を中断する。柴田はベッドの置かれているスペースを遮る壁を指さす。
「流神さん、あっちにいるよ」
「え、あっち? あ、誰かの看病してるとかなら邪魔になるとまずいんで今度来ますけど」
「いや、大丈夫。寝てるだけ」
「患者側!? 尚更迷惑じゃないっすか」
違う違う、と柴田は仕事を中断し椅子の背もたれに体を預け、デスクに置かれていたマグカップに口をつける。水道水を飲んでいるのだろうかと思ったが、湯気とかすかなにおいからしてコーヒーのようだ。
「純粋に寝てるだけだから気にしなくていいよ」
「え、えっと、それ、サボりってことすか?」
純粋に寝ていると聞いてはサボりしか思いつかない。柴田はコーヒーを飲みながら首を振る。縦に。横に振ってほしかった……久炉は呟く。
しかし、こんなところでサボっている生徒が委員長に抜擢されるとは。かなり優秀らしい。保健委員会は回復魔法に適性のある生徒が半強制的に選出される委員会であるため、委員長になるからにはトップクラスの適性を持つということだろう。会ってこようか。




