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途端に真っ赤になってポケットをまさぐる咲。なんだったんだ今の声は。行動から咲が絡んでいるのはわかるのだが……。
「もう何でこんな時にメール来るん……」
泣きそうな声色で咲は取り出した携帯電話を操作した。髪から覗く耳も顔同様に真っ赤になっている。あの声の発信元は携帯のようだ。着ボイスか。
ヒーッとまた名月の笑い声が部屋に響いた。時折笑いで言葉を中断しながら、咲を指さして呟いた。
「それ、“ドS着ボイスシリーズ”の一番人気のボイスですよね?」
「なんだそれ」
よくわからない。携帯の着信音はデフォルトのもので十分だろうと考えている久炉にとっては疎い話だった。視線が合った衣琉も詳しくわからないようだ。
名月は部屋にあったノートパソコンのスリープモードを解除し、園内のインターネット回線に接続した。ブラウザを開き、検索。開いたページを久炉と衣琉に見せた。咲の勘弁してくれと言いたげな悲鳴が聞こえる。
「これやな。“ドS着ボイスシリーズ”ってのは。これから派生して去年の夏にアニメ化もされたんですよね」
「おおう……つまり咲は――」
マゾヒストってことか。その言葉は咲に遮られた。
「ちゃうわ! 単に声優さんが好きなだけや! マゾじゃないわ!」
「それにしてはよくこのボイス選びましたね……このシリーズって普通の性癖の人は敬遠するものなんですけど……」
名月の言葉に咲は言葉を詰まらせた。「ま、間違ってダウンロードしてもったいないから使ってるだけや!」という咲の震え声での反論。名月は墓穴を掘ったな、とでも言いたげに目を光らせた。
「学校支給の携帯はネットに繋げないはずですが……パソコン経由じゃないと音源や画像を入れられません。つまりわざわざ自分で入れてるってことは確定じゃないんですかね……」
「ちゅ、中学の時の話や! それで当時の思い出があるから変えづらくて……」
「このボイスが配信されたのは四月に入ってからです。中学の時の話っていうのはおかしいんですよ。だから。この学園に入ってから。わざわざパソコンで音源を落とし。わざわざ携帯に入れ。わざわざ着ボイスに設定したってことや!」
徐々に追い詰められていく咲。名月が言葉を言い切った時、力が抜けたように座り込み、がっくりと項垂れた。
「負けたわ……認めるわ……うち、ドMなん……」
論破された咲。だが、どこか嬉しそうだ。何という精神的耐久力。プラスな面だけなら見習いたい。
「あー、まあ楽しいならいいんじゃね」
「楽しくないわ! ドSで知的なイケメンに言われるならまあ……」
いいのかよ。どこか挙動不審になりながら咲は呟いた。同級生に論破されただけでも嬉しそうなのが気にかかるが。
「そ、そもそもそのシリーズ知ってるって事は海野さんもドMやん!」
「私は一昨日摩胡に好きな声優さんがそれに参加するって聞いたので調べただけです。視聴しましたけどあまり気分はよくなかったです。死んでも着ボイスにしたくないです」
わいわいと騒ぎ出す名月と咲。それを遠巻きに見守る形となる。梳玖の一件では困った要因である防音仕様の部屋。今は音が漏れなくてよかったと心から思う。
「うゆ……あの二人は何の話をしてるのです?」
「うーん、衣琉ちゃんはまだ知らなくていいんじゃないかな? それよりも! 名月と咲ちゃんが仲良くなってくれたので、私は儀式を踊りたいです!」
マゾヒストの図書委員長と踊り好きの飼育委員長か――他の委員会は大丈夫か? 一瞬不安になったが、二人とも根は真面目そうだ。
他の委員長も真面目に仕事をこなしてくれるならば多少は癖があっても構わない。この二人を見た後なら、多少の事なら何も感じないような気もした。




