1 魔法学I
腕輪に嵌った白磁色の鉱石。それは常に微弱なエネルギー、通称『魔力』を放っている。魔力は腕輪の特殊な構造で制御することができ、装着者の意思と共鳴し、現象を形成する。
これが白磁学園の生徒が使用できる魔法である。
生徒会役員が決まって二日後。四月十二日金曜日。各授業が始動し、魔法に関する授業が行われていた。魔法学Iという科目である。魔法に関する基礎的な知識を習得するための座学だ。
よって眠い。久炉は授業を受ける生徒としての立場も、その生徒の代表という立場も無視して盛大なあくびを漏らした。体育や美術といった実技は物理的に苦手だが、座学は精神的に苦手だ。興味が湧かない。
教科担当の中年の男性教諭は少し脂肪が目立つ腹をぼりぼりとかきながら、教科書の内容を黒板に並べている。経験だろうか、板書はわかりやすく、とりあえずノートに写しておけば試験は何とかなりそうだ。
ふと黒板から衣琉に視線を向けると、机に突っ伏して居眠りをしていた。爆睡という表現がとてもしっくりくる寝方。眠たいのはわかるが、もっとバレないように寝ろよ。そう言ってやりたいのだが、少し席が遠いため、声はかけられない。
「そして魔法の中でも使用者ごとに異なる現象が形成される魔法がある。それを……新條衣琉! 分かるか?」
「……ゆっ!?」
突然の教科担当の指名。寝ていた衣琉は飛び起きて辺りを見回した。くすくすと漏れる周りの笑い。笑い声などお構いなしで衣琉は教科書をめくりだした。
そして手を止めると助けてくれと言いたげに久炉に視線を向けた。おい、やめろ。こっち見んな。口パクで教えられないこともないが、マスクを取りたくない。諦めてくれ。
「新條? 寝てたから分からないのか? ん?」
「うゆん……」
死にそうな声を上げる衣琉。瞳もより切実な物へと変わっていく。だからやめろ。視線を向けるな。気づかれたらこっちが当てられるかもしれないんだぞ。久炉の必死の願いは届かなかった。
「じゃあ新條の視線の先の相崎。代わりに答えてやれ」
衣琉マジ殴る。そう固く決意しながら、解答を口にした。
「……固有魔法、っすよね」
「そうだ! 固有魔法。もうお前たちは使えるようになっているはずだ。腕輪をつけてから一週間も経つしな……これで魔法が使えていない奴がいたら、才能が全くないんだろうけど、お前達に限ってそんなことはないよな?」
少し冗談めかして言う教諭の言葉に、クラスメイト達は顔を見合わせて多少の私語を交わす。
どの顔も曇っておらず、固有魔法を習得していることが窺えた。数名の船を漕ぐ生徒達は実は使えない部類に入ってしまっているのかもしれないが。
魔法を使える使えないの話で一番に思い出されるのはルームメイトの花火の事だった。彼女は未だに魔法を使えるようになっていない。




