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「うゆ……暦さんは蒼冱さんが生徒会に入るのが不満なのですか?」
黙っていた衣琉の突然の言葉。さすがにそんな子供じみた理由ではないだろ、という久炉の考えは打ち消された。暦の顔が真っ赤になっている。
「ち、違うよ! 別にそっちには関係ないことだってば!」
どう見ても衣琉の言葉は的中している。そうか、生徒会に蒼冱を取られたくなかったのか。授業をサボってまで二人の時間を取りたがった暦が蒼冱と過ごす時間を奪われたと解釈するのも無理はないことなのかもしれない。
「あー、まあ“庶務手伝い”って感じでたまに蒼冱の仕事に同行すんのは構わないけどな。備品点検とか一人だと大変だし。仕事の邪魔にならなければ生徒会室に遊びに来てくれても構わないかな。あ、会議とかの時は除くけど」
いいの? と少し疑い深さが感じられる声色で問う暦の言葉を肯定する。役員になって欲しかっただけ、とはいえ、形式的には生徒会は蒼冱を彼女から奪ってしまったことになる。
活動の妨害とならない範囲ならば多少は配慮すべきだろう。その提案には今後暦とのトラブルを避けたい思いもあった。
久炉の思惑に暦は気付かなかったようで、ようやく不貞腐れていた蒼冱の彼女は笑みを見せた。
「そういえば……一つ聞きたい事があるんですけど」
話題を切り替えた名月に一斉に視線が集まった。名月は集まった瞳に嫌そうな表情になるも言葉を続けた。
「誰か魔法を使ってる時に頭痛くなったりだるくなったりした人いないですか? さっき男子と戦った時になったんですけど」
細部は違えど、思い当たる節がある。久炉は少し迷ったが名月の言葉に答えた。
「頭ってか右腕が痛くはなったかな。さっき。なんつーか、ズキィって感じ」
「それや!」
少し語調が上がる名月。痛みのニュアンスは近いものだったようだ。俺も、と蒼冱が口を開く。
「一昨日だったかな。放課後魔法の練習をしてる時に右手が痛くなった。何かあるのかもしれないな」
衣琉、司、暦はそういった経験はないらしい。自分にその症状が出た時の状況、名月と蒼冱の言葉も混ぜて考える。
記憶を漁ればもう一つ近い事例があった。土曜日の午後。個別実習室で魔法の練習をしていた時に、花火も体調を崩していた。あの時、彼女は何度も腕輪を光らせていた。
「なあ、これって魔法の使いすぎじゃね?」
勝と戦った時のことは必死だったせいかあまり覚えていない。それでも、一度魔法を使って以来、ずっと魔法を発動していたことは記憶に残っている。あんなに長く魔法を使ったのはあの時が初めてだ。
蒼冱も首を縦に振ると、少し何かを思案しているような顔つきになった。
「かもしれないな。俺もあの時はかなり乱発してた。使いすぎで体が痛むようなことがあるなら、むやみに使うのは避けるべきだ」
「そんなことしたら虫と戯れる時間減るじゃないですかあ! 私はどれだけ頭痛くなっても魔法使い続けるで!」
「つーか、お前頭痛くなったときに虫消えなかったのかよ。痛んだ時点で使い続けるのは無理じゃね」
右腕の痛みと同時に久炉の魔法は火を消したように消えてしまった。久炉と名月の身に起きたことは同じだったようで、名月の表情は一気に影っていた。
名月なら虫と戯れるためだけに魔法を乱発して最終的に倒れたりといった事故を起こしそうで心配である。
それにしても……本当に魔法は謎だらけだ。卒業するまでの間、問題なく使えるだろうか。
そんな思考は虫をずっと出し続けない方がいいと分かり、奇声を上げだした名月に遮られた。




