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「うゆ……大変そうだったのです」
「実際大変だったけどな!」
放課後。特別教室館三階、生徒会室。すでに役員として決定していた名月、司、新しく役員となった蒼冱とその彼女である暦を交えて、昼の出来事を衣琉に説明していた。
「うゆ……いなくてよかったのです」
「つーかお前どこで何してたの? 司がメール送った時返信なかったって聞いたけど」
久炉はパイプ椅子の背もたれに身体を預けて衣琉に視線を送る。衣琉はさも当たり前のような表情で答えた。
「司君からメールが来たとき、授業が始まる直前だったので教室に戻って寝てたのです。英語つまらないですし」
「せめて起きてろよ! いや、無理にこっち来なくていいとはメールに書かせたけど!」
「いや、授業休むのはよくないと思いますし」
「寝るのはいいのかよ!」
衣琉のよくわからない価値観にため息をつく。実際にあの場にいたところで彼女にできることはなかったのだが、寝ていたと言われると少し憤りを感じる。
「それに比べて司君はよくやってくれましたよね……」
久炉の隣のパイプ椅子に腰かけた名月が呟く。顔や膝に貼りつけられた絆創膏が痛々しい。本人はあまり痛みを感じていないらしく、普段通りだった。
久炉はというと切った口元に貼り付けた絆創膏が気になって仕方ないのだが。
「い、いや、僕は……」
「なんだかんだアレが最善だったと思いますけど。あの状況で飛び込んで怪我人が増えるよりは確実に戦える人に声をかけた方がいいと思うんで……だから謙遜しなくていいじゃないですか」
名月の口調は普段のぼそぼそとした敬語調に戻っている。これだけ聞くと、不良生徒と耳をふさぎたくなるような煽り合いをしたとは思えない。
「まあ、名月の言うとおりだわな。蒼冱君連れてきてくれて助かったわー」
蒼冱とその彼女があの場所に現れた理由。それは隠れていたはずの司が助けを求めたことによる。
彼は自分が介入する勇気が湧かず、付近を走り回って戦える生徒を探したという。
その際に最初に声をかけたのが蒼冱だったらしい。彼は即断で司に付いて現場に急いでくれた。と、司に聞いた。
何だかんだで今回の件を解決したのは生徒会会計・司の判断だったと久炉は考えている。本人にしか分からないことだが、名月もそう思っているだろう。
偶然にも後の庶務となる戦闘力のある生徒を連れてきてくれたことは大きな功績だ。
ただ、生徒会は大いに助かったのだが、救世主、蒼冱の彼女である暦は不機嫌一直線だった。司が助けを求めた時、暦が蒼冱に五限目をサボってのデートを持ちかけていたところだったらしい。いちゃこらしないで授業出ろよ、と言いたい。
デートを邪魔された事と蒼冱に置いて行かれた事が不満だったらしく、暦は昼に出会って以来ずっと機嫌を損ねていた。蒼冱以外の役員とは目を合わせず、時折挟む言葉はどこか刺々しい。
「お前は皆を睨むのやめろって……何をそんなに怒ってるんだよ」
「別に怒ってないし」
いや、怒ってんじゃん。つい眼前のカップルの会話に突っ込みを入れたくなったが自重しておく。暦の不満の原因が蒼冱にも分からない以上、その他役員にわかるはずもない。




