7
仕方ない、クラスも同じだしまた後で声をかけよう。最早口癖となりつつある、あーというコミュ障丸出しの前置きが口をついた。だが、続く言葉は衣琉に遮られる。
「生徒会は……何をするのですか?」
「何をって、チラシにも書いてあんだろ? 行事の企画とか委員会の統括とかだな」
そうじゃないのですよ、と衣琉は何かを言おうとしてまた黙り込む。どうも自分の聞きたいことが久炉に伝わらなかったらしい。
またうゆゆと謎の言葉を口にしながら考え込んで、口を開く。今回はさほど悩まなかったらしい。
「仕事じゃなくて、目的なのです。公約と言いますか、スローガンと言いますか……」
「ああ、公約ね」
やべえ、何も考えてねえ。せめて何か考えておけばよかったと後悔が湧きあがる。
本来ならば、選挙時に自身のマニフェストを掲げて演説を行うため、公約が無いなどという事態は起こりえない。しかし、選挙もなく押し付けられたため、何も考えていなかった。
「あー、あれだよ、なんていうか……」
言葉を濁しながら自身の公約を脳内で作り上げていく。中学時代から学校が嫌いだった。正直、登校するのも面倒で嫌なくらいに。もし、自分が一般生徒だったとして、どんな学校だったら通いたくなるのだろうか。
「楽しい学校……を作ることかな」
単純明快だった。どうせやるならこれだ。
「行事とかは参加したくなるようにしたいし、他にも何か問題があるなら個別で解決を手伝う。それと、魔法関係のトラブルがあればその対処して……楽しめる学校を作る。これが公約……かな」
中学校生活はとにかくつまらなかった。行事は時間の無駄と言いたいレベルでつまらなかったし、クラス内では大小関わらず問題続きでその空間にいるのも嫌だった。それらがない学校ならば何かが変わったのかもしれない。
それに、この学校には例の危険な制度がある。そんな殺伐とした空間で学校生活を楽しめるかと言われたら――難しいことだろう。
「それ、いいですね……」
衣琉はどこか楽しそうに頬の筋肉を緩ませて呟いた。
「ん? だろ? やろうぜ」
「うゆ! それなら私もやりたいのです! 生徒会、入るのです!」
マジかよ、と少し予想外の回答に呟く。それは衣琉には聞こえなかったようで、ニコニコと笑っていた。
「一人目決まったんだ。よかったじゃん」
花火がいつの間にか背後に立っていた。とっくにチラシ配りを終えていたらしい。数名だが興味を持ってくれたかもしれない、という嬉しい報告を受けた。
衣琉に視線を送ると、目を見開いて固まっていた。視線は久炉の背後に向けられている。
「あ、あの、その方も、生徒会の人なんですよね……?」
「いや、お手伝いだよ。……おい、花火姉さんよ、見た目でビビられてんぞ」
「制服かジャージさえ着てれば髪とか靴は自由だって生徒手帳に書いてあったでしょ。あ、新役員さん、怖がらなくていいよ、怖がらないで」
少し必死に取り繕う花火に吹き出すと背中に衝撃を感じた。
花火の平手による殴打。一瞬息が止まる。悶絶。腕輪仕事しろ、と呟きながら叩かれたところを擦った。
いや、腕輪の防御効果が効かないほどの威力だったのか。怒らせないようにしよう、そう誓う。
「うゆっ! 時間がまずいのです!」
衣琉の言葉に時計に目をやる。八時二十九分。教室まで走っても間に合わない。初日から遅刻か。
いや、生徒会の活動として顧問に話してあるから自分と手伝いの花火は大丈夫だ。
「久炉さん、話はまた後でなのですっ!」
衣琉は叫ぶように言うと、左手首の腕輪に黄色の光を灯し、姿を消した。コツン、と音がして、彼女のいたところに“いる”とへたくそな字が書かれたペンが転がっていた。




