6
うゆっ、ってなんだ? 聞こえた声に振り返る。先ほどの背の低い女子生徒だった。渡したチラシをまじまじと見つめている。
興味を持ってくれたのだろうか、これは引き込めるかもしれない、そう思うと自然と口角が上がる。
「ヘイ! そこの彼女! 生徒会に興味があるのかな? ん?」
どう声をかけるか悩んだ末、少しおかしなテンションになってしまった。女子生徒はチラシから顔を上げて久炉と目を合わせた。
視線を逸らし、女子生徒の目から足、と流し、全身を眺める。身長は百五十センチないように見えたが、百四十五センチあるかも怪しいほどに小さい。顔付きと相まって年相応に見えない……と言ったら失礼か。
「うゆっ、おはようございますなのですっ!」
「あ? お、おはよう」
質問の答えではなく、朝の挨拶が返ってきたことに少し困惑する。日本語が通じるのだろうか。挨拶を返したところ、笑みを見せたので通じていないわけではなさそうだ。
「あー、そんでさ、さっきも言ったんだけど、生徒会、興味ない? 活動って言ってもそのチラシに書いてあることだけどさ」
また、うゆっ、と呟きながらよし生徒はチラシに視線を落とす。
「読んでなかったのです。生徒会のチラシだったんですね」
「じゃあ何を見てたんだよ!」
少しずれた回答につい声を荒げる。あのチラシを見つめていたのはなんだったのだ。
「いや、絵がすごい上手だなと思いまして。相崎さんが描いたのです?」
「あー、俺じゃない。あの人」
通りかかった生徒に声をかけている花火を指で示す。背の高い男子生徒にチラシを見せて言葉を交わしている。
ただ紙を押し付けるだけではない。少しは話をした方が加入してくれる確率は上がるだろうか。とはいえ自分はコミュ障である。渡すだけで精一杯だ。変に声をかけるとヘイ! などと口走ってしまう。
それにしても、何故この背の低い女子生徒は自分の名前を知っているのだろう。
「つーか、何で俺の名前知ってんの」
「うゆ? 知ってますよ? 入学式の時挨拶読んでるの聞いてましたし、同じクラスですし」
同じクラスの生徒のほとんどの顔がわからない。名前は数名覚えてはいたが、顔と一致していない。人の顔を覚えるのはあまり得意ではなかった。
「え、マジで? 名前は?」
「新條衣琉、というのですっ!」
「あ、名前なら憶えてるわ」
自分のクラスである一年一組の名簿と斉藤に渡された名簿。二つの名簿で名前を見ていた。クラス名簿で見てもほとんどは忘れてしまうが、名前が特徴的だったため、記憶に残っていた。一人、顔と名前が一致した。
「じゃあ、新條さんよ、生徒会やってみないか? 今なら役職選び放題だぜ」
「うゆ、衣琉でいいのですよ」
「お、おう、俺も久炉でいいよ。あと同級生だしタメでいいよ」
会話が噛み合いづらい。そこを除けばまともな部類の生徒だろう。ブレザーの前を開けたり、つけているリボンを緩めたりといった、他の生徒がしているような制服の着崩しも見られない。
同級生とはいえ、初対面の相手に敬語で応対している。生徒会に誘っても問題なさそうだ。
「どうよ、生徒会。衣琉、一緒にやろうぜ」
衣琉はうゆゆゆと唸りながら視線を落とした。かなり悩んでいるようで、そのまま動かない。登校する生徒たちが時折二人に目を向ける。何人の生徒に視線を向けられたかわからない。
確実時間は進んでいく。校舎にかけられている大きな時計に視線を向けると、ちょうど長針が四の字を示した。八時二十分。もう教室に向かったほうがいい時間だ。




