翠先輩はくつろぎたい
土曜日の午後一時十二分、翠先輩から『いる?』とメッセージが届いた。
俺が『いますよ』と返したのが一時十三分。
インターホンが鳴ったのは一時二十五分だった。
「来たぞ」
「でしょうね」
玄関を開けると、翠先輩は小さなショルダーバッグを肩へ掛けて立っていた。
薄手のニットにロングスカート。九月も終わりに近づいたとはいえ、昼間はまだ少し暑いらしく、明るい茶色の髪を後ろで一つにまとめている。
首には、例の焦げ茶色の細い首輪。
最近は俺の部屋へ来ると、かなりの確率でつけている。
「何しに来たんです?」
「暇だった」
「そうですか」
「入れてくれ」
「もう入る気でしょう」
「うん」
俺が身体を退けるより先に、翠先輩はするりと横を抜けた。
もう勝手知ったる何とやらである。
靴を脱いで揃え、廊下を抜け、リビングへ入る。バッグをソファの脇へ置くと、キッチンへ向かって棚から自分のグラスを取り出した。
右側。
俺のグラスの隣。
昨日俺がそこへ置いたまま、場所は変わっていない。
冷蔵庫から麦茶を取り出して注ぎ、一口飲む。それからローテーブルの前へ座り、棚にまとめておいた獣医病理学の参考書を引っ張り出した。
ここまで俺への質問は一つもない。
「翠先輩」
「なんだい?」
「本当に何しに来たんです?」
「勉強」
「家でもできますよね」
「できる」
「じゃあ何で」
翠先輩は参考書を開いた。
「ここでもできる」
「そうですか」
「うん」
それ以上は何も言わなかった。
俺も机へ戻る。
今日中に片づけたいレポートが一本あった。期限にはまだ余裕があるものの、来週は講義と実習が少し重なる。できる時に進めておいた方がいい。
ノートPCを開き、途中までまとめていた文章を読み直す。
後ろでは紙をめくる音がしていた。
静かだった。
翠先輩がいるからといって、いつも喋っているわけではない。
俺がレポートを進めている間、翠先輩は参考書を読んでいた。十五分ほどすると姿勢を変え、ソファへ移った。さらに三十分すると参考書を腹の上へ載せて横になり、その十分後にはページを開いたまま目を閉じていた。
午後二時四十八分。
寝た。
俺は一度だけ振り返り、そのまま画面へ視線を戻した。
別に珍しくもない。
三時二十分を過ぎた頃、休憩のために立ち上がる。
キッチンへ向かう途中でソファを見ると、翠先輩はまだ寝ていた。
参考書は腹からずり落ちている。まとめていた髪も少し崩れ、首輪の金具だけが首の横へ回っていた。
俺は参考書を拾ってローテーブルへ置き、ついでにソファの端にあった薄手のブランケットを腹へ掛けた。
「……ん」
「起きました?」
「……まだ」
「じゃあ寝ててください」
「うん」
返事だけして、また静かになった。
俺は冷蔵庫を開けた。
麦茶を取る。
グラスを出す。
一つだけ。
自分の分を注いで机へ戻った。
翠先輩が起きたのは、それから四十分ほど経ってからだった。
「……何時だ」
「四時七分です」
「二時間くらい寝た?」
「一時間ちょっとですよ」
「そうか」
翠先輩はソファへ座り直し、しばらくぼんやりしていた。
寝起きは弱い。
目も半分くらいしか開いていない。
その状態でローテーブルのグラスを探し、ないことに気づくと、ゆっくり俺を見る。
「悠人」
「麦茶なら自分でどうぞ」
「まだ何も言っていない」
「麦茶でしょう」
「うん」
「自分でどうぞ」
「寝起きだぞ」
「知ってます」
「身体が起動していない」
「起動するまで待ってください」
「冷たい」
「昨日それで喜んでたでしょう」
翠先輩の口元が少し緩んだ。
「それとこれは別だ」
「嬉しそうじゃないですか」
「気のせいだ」
結局、自分で取りに行った。
そこからまた参考書を読み始め、五時を過ぎた頃には俺のレポートも一区切りついた。
夕飯の材料が足りない。
冷蔵庫を確認してから財布を取ると、ソファにいた翠先輩が顔を上げた。
「どこへ行く?」
「スーパーです」
「ボクも行く」
「どうぞ」
そこに誘うとか誘わないとかいうやり取りはなかった。
翠先輩は参考書を閉じ、バッグから財布とスマホだけを取り出した。
二人でスーパーへ行った。
肉と野菜を買い、翠先輩が菓子売り場で余計なものを籠へ入れ、俺が戻し、別の安いものを入れられ、最終的に一袋だけ許可した。
帰宅したのは六時前。
翠先輩も当然のように俺の部屋へ戻ってきた。
もう一度自分の家へ帰るという選択肢は、最初から検討されていなかったらしい。
夕飯は豚肉と野菜の炒め物にした。
米は二人分。
味噌汁も二人分。
皿も二枚。
作り始めてから気づいたが、翠先輩に食べるかどうかを聞いていなかった。
まあ、食べるだろう。
聞く必要もない。
「いい匂いだな」
「もうできますよ」
「うん」
「皿出してください」
「客に働かせるのかね」
「じゃあ翠先輩の分はなしで」
「出そう」
返事が早い。
棚から皿を二枚出して運んでいく。
食べ終われば、翠先輩は自分の皿をキッチンまで持っていった。
洗い物は俺がするつもりだったが、横からスポンジを取られる。
「洗う」
「珍しいですね」
「失礼だな。ボクだって皿くらい洗うぞ」
「できるのは知ってます」
「そうだろう?」
「やりたがらないだけで」
「よく分かっているじゃないか」
皿を二枚洗ったところで満足したらしく、鍋とフライパンは俺へ残された。
中途半端だった。
それでも全部やらないよりはいい。
食後。
七時半。
翠先輩は帰らなかった。
八時。
まだいた。
買ってきた菓子を開け、俺の部屋で俺よりくつろいでいる。
「翠先輩」
「うん?」
「そろそろ帰ります?」
「まだ八時だぞ」
まだ。
その時間感覚に少し引っかかったものの、俺も別に追い出す理由はなかった。
レポートは終わっている。
明日は大学も動物園もない。
翠先輩がソファにいて困ることといえば、ソファを使えないことくらいだ。
俺は机で別の資料を眺めていた。
八時四十分。
「悠人」
「何です?」
「風呂に入りたい」
「どうぞ」
「うん」
「自分の家で」
「ここで」
顔を上げた。
翠先輩が首を傾げている。
「何で?」
「帰るのが面倒だからだ」
「帰らないと風呂上がりに帰ることになりますよ」
「それはあとで考える」
「考える必要あります?」
「風呂、借りていいか?」
「翠先輩」
「うん?」
「自分の家、十二秒ですよ」
「十二秒もかかる」
「たった十二秒です」
「ここならゼロ秒だ」
「風呂場までは歩きますよ」
「細かいなあ」
細かいのはどちらだ。
結局、数分ほど押し問答を続けた末、俺が折れた。
「……好きにしてください」
「やった」
「ただし着替えどうするんです?」
翠先輩が止まった。
「……ないな」
「でしょうね」
そこまで考えていなかったらしい。
少し悩んだ末、俺を見る。
「悠人のを貸したまえ」
「嫌ですよ」
「Tシャツでいい」
「下は?」
「下着がある」
「そういう問題じゃないでしょう」
「ボクの家ではもっと少ないぞ」
「ここ俺の家です」
「だから一枚着ると言っている」
理屈がおかしい。
ただ、この人が自宅では本当に下着だけで過ごしていることを俺は知っている。
少なくとも本人の中では、かなり譲歩しているらしい。
「……一枚だけですよ」
「うん」
俺は寝室から、少し大きめの無地のTシャツを持ってきた。
受け取った翠先輩が広げる。
「大きいな」
「俺のですからね」
「悠人はボクより十四センチも大きいからな」
「そうですね」
「借りる」
「そのために渡しました」
翠先輩は機嫌よく洗面所へ向かった。
そこで俺は首元を見る。
「翠先輩」
「なんだい?」
「それ、外した方がいいんじゃないですか」
焦げ茶色の首輪を指す。
翠先輩も自分の首元へ触れた。
「嫌だ」
「風呂ですよ」
「知っている」
「革でしょう。傷みますよ」
「大丈夫だ」
「何がです?」
「傷んだら買い直す」
「そこまでして外したくないんですか」
「うん」
即答だった。
理由を聞こうかと思ったが、やめた。
聞いたところでまともな答えが返ってくる保証はない。
「ちゃんと身体洗ってくださいね」
「子供じゃないぞ」
「翠先輩だから言ってるんです」
「失礼だなあ」
洗面所の扉が閉まった。
やがて浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
俺は机へ戻った。
ノートPCを開く。
資料を読む。
数分経つ。
シャワーの音はまだする。
俺は一度だけ顔を上げた。
俺の部屋の風呂に、翠先輩が入っている。
「……何で?」
自分で許可したからなのだが、改めて考えるとよく分からない。
しかし、考えても仕方がないので資料へ戻った。
しばらくして、浴室の方から声が飛んできた。
「悠人ー」
「何です?」
「シャンプー使っていいか?」
「そのために置いてあるんですよ!」
「ボクのじゃないだろう?」
「使っていいですよ!」
「分かったー」
また静かになる。
二分後。
「悠人ー」
「今度は何です?」
「大きいタオルは?」
「渡したでしょう」
「あれでいいのか」
「いいですよ!」
「分かった」
いちいち確認が多い。
さらに十分ほどして、ドライヤーの音が聞こえた。
それも止まる。
洗面所の扉が開いた。
「さっぱりした」
振り返る。
翠先輩が立っていた。
髪はまだ少し湿っている。
首には当然のように焦げ茶色の首輪。
そして身体には、さっき貸した俺のTシャツ。
大きい。
俺が着れば普通のTシャツなのに、翠先輩が着ると肩が少し落ち、袖も長い。裾もかなり下まで来ている。
その下は下着だけらしい。
「……ズボンは?」
「ないぞ」
「でしょうね」
「十分隠れている」
「そういう問題じゃないんですけど」
「家ではもっと無防備だぞ」
「知ってますよ」
「では問題ない」
「ここ俺の家ですって」
今日何度目だろう。
翠先輩は気にした様子もなくソファへ戻った。
膝へブランケットを掛け、自分のグラスを手に取る。
風呂上がりに俺のTシャツを着て、俺のソファで麦茶を飲んでいる。
首輪までつけたまま。
もう何が普通なのか分からない。
「悠人」
「今度は何です?」
「肩が凝った」
「首輪外してください」
翠先輩は首輪へ指を掛けた。
少しだけ浮かせる。
「嫌だ」
「じゃあ我慢してください」
「揉んで」
「嫌です」
「肩が凝ったと言っているんだぞ」
「原因まで分かってるじゃないですか」
「だから揉んでくれ」
「だから外してください」
「それは嫌だ」
「じゃあ知りません」
「冷たいなあ」
そう言いながら、少し嬉しそうなのが腹立たしい。
「悠人」
「嫌です」
「まだ何も言ってないぞ」
「肩揉みでしょう」
「察しがいいな」
「嫌です」
「飼い主の態度が悪い」
「飼い主じゃないです」
「ペットの健康管理を怠っている」
「自分で肩揉んでください」
「自分では届きにくい」
「首輪外してください」
「それ以外の方法で解決したまえ」
「面倒くさいな、この人」
「……今のもいい」
「もう喋らないでください」
「それもいい」
駄目だ。
何を言っても喜ぶ。
俺は無視して画面へ戻った。
三分後。
「悠人」
「……」
「悠人」
「……」
「肩が凝った」
「うるさいですよ!」
「さっきから言っているだろう」
「分かりましたよ!」
根負けした。
ソファの後ろへ回る。
「五分だけですからね」
「うん」
「それ以上はやりませんよ」
「分かった」
翠先輩は素直に背中を向けた。
濡れ残った髪を前へ寄せる。
首輪の後ろ側が見えた。
指一本以上は余裕がある。きつく締めているわけではない。それでも長時間つけていれば、気になることくらいはあるのだろう。
両肩へ手を置く。
軽く押す。
「ここです?」
「もう少し内側」
移動する。
「そこそこ。……いや、もう少し右」
「注文多いですね」
「そこは少し強い」
弱める。
「今度は弱い」
「翠先輩」
「うん?」
「うるさいです」
「ちゃんと揉まないからだろう」
「じゃあやめます」
「待ちたまえ。今のは非常に良かった」
「どっちなんですか」
「そこだ。そこを重点的に」
「自分でやってくださいよ」
「この角度は難しい」
「本当に注文だけは一人前ですね」
「ボクは客だぞ」
俺の手が止まった。
「もう客扱いしてませんよ」
「そうか」
「そうですよ」
「うん」
何となく妙な返事だった。
翠先輩はそれ以上何も言わず、俺が肩を揉むのに任せている。
結局、五分のつもりが七分くらいになった。
「終わりです」
「もう少し」
「終わりです」
「あと二分」
「駄目です」
「一分」
「外せばいいでしょう」
首輪を指で示す。
翠先輩は両手で首元を押さえた。
「これは外さない」
「じゃあ肩凝っても知りませんよ」
「むぅ」
不満そうな顔をしながら、それでも外す気はないらしい。
「長時間用が必要かもしれないな」
「何ですか、長時間用って」
「軽いやつだ」
「増やす気ですか?」
「普段用と長時間用」
「何の普段なんですか」
「ここにいる時」
「設定を増やさないでください」
翠先輩は楽しそうに笑った。
俺は自分のグラスへ麦茶を注いだ。
その横で、翠先輩も自分のグラスを差し出してくる。
「ついでに」
「自分で入れてください」
「今、持っているじゃないか」
「はい」
「ボトルも持っている」
「はい」
「ボクのグラスもここにある」
「ありますね」
「あと注ぐだけだぞ」
「そこまで分かってるなら自分でやってください」
「小さい男だなあ」
「ここ俺の家ですよ」
「麦茶くらい」
「さっき肩まで揉んだでしょう」
「それは肩揉みだ」
「何で別会計なんですか」
結局、自分で注いだ。
九時半を過ぎても、翠先輩は帰らなかった。
俺も風呂へ入ることにした。
「風呂入ってきます」
「うん」
「勝手に冷蔵庫漁らないでくださいね」
「信用がないな」
「あると思います?」
「ないかもしれない」
「自覚あるんですね」
着替えを持って洗面所へ向かう。
扉を閉める直前、リビングを見る。
翠先輩は俺のTシャツ姿でソファに横になり、スマホを眺めていた。
俺が風呂に入っている間、この部屋には翠先輩一人になる。
少し前なら、たぶん変な感じがした。
今は冷蔵庫のプリンを勝手に食べられないかの方が心配だった。
風呂から上がったのは十時過ぎ。
プリンは無事だった。
翠先輩はソファの上で横向きになっている。
「寝てませんよね?」
「起きている」
「ならいいですけど」
「悠人」
「何です?」
「このクッション、少し潰れてきたな」
「翠先輩が使うからですよ」
「新しいのを買った方がいい」
「自分の家に買ってください」
「あと、シャンプー」
「はい?」
「もう少しいいやつでもいいと思う」
「俺が使うんだからいいでしょう」
「ボクも使う」
「今日初めて使った人が何言ってるんですか」
「今後も使う可能性がある」
「勝手に今後を作らないでください」
「それから冷房が少し寒い」
「上げます?」
「いや、このままでいい」
「じゃあ何だったんですか」
「報告だ」
「いちいちうるさいですね!」
翠先輩は笑った。
「長くいると気づくことが増えるな」
「気づかなくていいんですよ」
「住環境の改善は大切だぞ」
「翠先輩の住環境じゃないです」
「ボクの物も増えてきた」
「だからって部屋の権利まで増えませんよ」
「そうなのか」
「そうです」
十時四十七分。
翠先輩はまだソファにいた。
風呂も入った。
髪も乾かした。
麦茶も飲んだ。
肩まで揉ませた。
俺のTシャツを着て、ブランケットを膝へ掛けている。
あとは寝るだけにしか見えない。
「翠先輩」
「うん?」
「いつ帰るんですか」
「もう少し」
「もう十一時ですよ」
「まだ十時四十七分だ」
「細かい」
「十三分もある」
「何の十三分ですか」
「十一時まで」
「十一時になったら帰るんですね?」
翠先輩が黙った。
「帰るんですね?」
「……善処する」
「今帰ってください」
「風呂にも入ったぞ」
「だから帰ったら寝るだけでしょう」
「確かに」
珍しく納得した。
それでも立ち上がるまでに三分かかった。
翠先輩はブランケットを畳み、グラスをキッチンへ持っていく。
洗って水切り籠へ置いた。
それから自分の服を持って洗面所へ向かう。
「このままでは駄目か?」
「駄目です」
「十二秒だぞ」
「十二秒でも外です」
「誰にも会わないかもしれない」
「会うかもしれないでしょう」
「面倒だなあ」
「着替えてください」
「せっかく風呂に入ったのに、また外へ出ることになる」
「十二秒です」
「十二秒も外だ」
「秋ですよ」
「髪が冷える」
「乾かしたでしょう」
「肩も凝っている」
「揉んだでしょう!」
洗面所の扉が閉まった。
少しして、元の服に戻った翠先輩が出てくる。
俺のTシャツを手に持っていた。
「これ」
「洗濯籠入れといてください」
「ボクが洗わなくていいのか?」
「どうせ明日洗濯するので」
「では頼む」
翠先輩は素直に洗濯籠へ入れた。
玄関まで歩く。
靴を履き、バッグを肩へ掛ける。
首輪はまだついたままだった。
「今日は長かったな」
「昼からいましたからね」
「風呂もよかった」
「次は自分の家で入ってください」
「検討する」
「入る気ですね」
「肩揉みも悪くなかった」
「もうやりませんよ」
「また凝ったら頼む」
「首輪外してください」
「それは嫌だ」
玄関の扉を開ける。
夜の空気が細く入り込んだ。
翠先輩は一歩外へ出て、それから振り返る。
「では、おやすみ、悠人」
「おやすみなさい、翠先輩」
「また明日」
「明日も来るんですか?」
「予定は未定だ」
「来る人の言い方ですね」
翠先輩は笑って、道路の向こうへ歩いていった。
本当に近い。
マンションの入口へ着くまで十数秒。
姿が見えなくなってから扉を閉める。
部屋へ戻った。
ソファのクッションは少し潰れていた。
水切り籠には俺のグラスと翠先輩のグラスが並び、洗面所の洗濯籠には、さっきまで翠先輩が着ていた俺のTシャツが入っている。
浴室にはまだ湿気が残っていた。
昼から飯を食って、寝て、買い物へ行って、また戻ってきて、夕飯を食って、風呂に入って、肩を揉ませて、風呂上がりまでくつろいで。
それでも最後には十二秒先へ帰っていった。
俺はソファのクッションを元の位置へ戻した。
明日は来ないといいな、と思った。
たぶん来る。




