第7話:広がる同盟
刈り入れを終えた畑には、これまでにない量の麦束が積み上げられていた。エルダシアとバルトレインの盟約は、当初こそ両国だけの静かな取り決めのはずだった。だが、農業機械によってバルトレインの収穫量が目に見えて向上し、両国の民の暮らし向きが上向いていく様子は、隠しようもなく周辺へと伝わっていった。
半年もしないうちに、エルダシアの王城には、周辺の弱小国からの使者が次々と訪れるようになっていた。ラディウスは一国一国、丁寧に会談を重ね、バルトレインの時と同様に「技術・食料・軍事協力」を対価とする協定を、一つ、また一つと結んでいった。各国を渡り歩く長旅には常にダグラスが同行し、バジルは王城に残って、増え続ける協定書や来客の対応を、寸分の乱れもなく取り仕切っていた。
「一国だけを富ませても、いずれ大国に潰される。だが、五カ国、十カ国が緩やかに結びつけば……それは、一つの経済圏になる」
半年後、エルダシアを中心とした緩やかな経済・軍事協力網――後に「エルダシア同盟」と呼ばれることになる枠組みが、静かにその輪郭を現し始めていた。
産業や外交の華々しい成果の陰で、ラディウスがもう一つ、あえて目立たぬように進めていた取り組みがあった。医療の分野だった。
「この国の医療は、あまりに未熟すぎる。ちょっとした傷の化膿や、風邪をこじらせただけで、命を落とす者が後を絶たない」
彼は、王立研究院の片隅に、小さな薬研究室を設けさせていた。とはいえ、彼が持ち込んだのは、この世界の医療水準を根底から覆すような、大それた技術ではなかった。傷口を清潔に保つことの重要性、煮沸による消毒、そして――カビの中には、他の菌の増殖を抑える性質を持つものがある、という、断片的な知識。
「一足飛びに全てを変えようとすれば、かえって混乱を招く。まずは、この程度から」
ラディウスは、自らにそう言い聞かせながら、青カビをはじめとする幾つかの菌類を、地道に培養・選別する研究を、人知れず進めさせていた。まだ、安定した薬として完成するには至っていなかったが、着実に、一つの成果へと近づきつつあった。
「エルダシアを中心に、周辺の弱小国が次々と結びついている、と?」
ガルディア帝国の円卓の間、ゼルギウスからの報告に、マクシミリアン皇帝の表情が初めて明確な苛立ちを見せた。
「単純な軍事力の話ではございません。もし彼らが経済的に自立し、独自の技術と資源網を確立してしまえば……我が帝国がこれまで行使してきた『圧力』そのものが、通用しなくなります」
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