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「力を隠していた第8王子、英雄になる 〜どうせバレたならトコトンやったら経済大国になりました〜」  作者: FUKA


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第6話:隣国との盟約

机の上に広がる羊皮紙の地図には、既に幾つもの書き込みと修正の跡が重なっていた。エルダシア商会が軌道に乗り始めたある日、ラディウスは執務室の地図を前に、一人思案していた。


「魔石機関の量産が進めば進むほど、いずれ壁にぶつかる……」


地図の上、ラディウスの指が止まったのは、エルダシア王国の南に隣接する小国――「バルトレイン王国」だった。国土は狭く、これといった産業も持たない、エルダシア以上に貧しい弱小国。だがその地下には、質・量ともに大陸有数と噂される魔石鉱脈が眠っている。


前世、彼はIT企業の経営者として、直接に資源国との取引に携わった経験こそなかった。だが、歴史や経済のニュースを通じて、幾つもの資源国・新興国の栄枯盛衰を見聞きしてきた。資源を持ちながら技術や資本を持たぬ国が、大国に買い叩かれ、あるいは搾取的な条件を飲まされていく構図。逆に、資源国同士が連携し、加工技術や販路を内製化することで、対等な立場を勝ち取っていった事例。そうした知識の断片が、今、彼の中で一つの直感として繋がっていた。


「資源そのものよりも、それを価値に変える技術と仕組みを持つ側が、交渉の主導権を握る……か」


「バルトレインと、手を組む」


ひび割れた石柱と色褪せた壁掛けが、この国の財政の厳しさを物語っていた。バルトレイン王国の謁見の間には、グレアム王、財務卿アルバン、将軍レイフが控えていた。白髪の薄くなった頭、痩せた体躯に質素な衣を纏った老齢のグレアム王の額と目元には、長年の苦労を物語る深い皺が刻まれている。小柄で神経質そうな顔つきのアルバンは細い縁の眼鏡をかけ、対照的にレイフはがっしりとした体格に無精髭を蓄えた、生真面目な武人だった。


ラディウスの背後には、護衛としてダグラスが控えていた。武人であるレイフの視線が、値踏みするように一瞬、ダグラスへと向けられる。互いに戦う者としての気配を読み合ったのか、二人の間には、言葉を交わさぬままの、静かな緊張感が漂っていた。


「エルダシアの英雄王子殿が、このような小国に何用でしょうか」


グレアム王が、警戒を滲ませた声で切り出した。


「単刀直入に申し上げます。バルトレインの魔石鉱山、その産出量の大半を、我が国に独占的に輸出していただきたい」


ラディウスは、前置きなくそう告げた。


「な……独占、ですと。それは我が国に、資源を根こそぎ差し出せと仰っているに等しい」とアルバン。


「ですから、一方的に奪おうというのなら、お断りいただいて構いません。ですが、まずは最後まで聞いていただけますか」


ラディウスは動じることなく続けた。


「見返りは三つ、ご用意します」


「一つ目は、農業機械です」


ラディウスは魔石機関を応用した揚水機、脱穀機、耕耘用の器具の図を示した。懐から小さな折り畳み式の模型を取り出し、机の上で組み立てて見せる。手のひらサイズの魔石機関の縮小模型が、小さな歯車を回し始めた。


「実物は既に、隣国との国境付近まで運搬させております。明日にでも現地でご覧いただけます」


「二つ目は、食料の供給です。両国の間で、余剰の食料を融通し合う協定を結びたい。バルトレインが不作の年は、我が国から食料を融通する。むろん、その逆もまた然り」


「施しは、いずれ関係を歪めます。対等な融通であってこそ、長く続く同盟になる」


ラディウスは、そう付け加えた。


「そして、三つ目は――軍事的な同盟です。バルトレインが他国から侵略の危機に晒された時、僕自身が、この身をもって参ります」


将軍レイフが身を乗り出した。


「一国の王子が、これほどまでの約束を、こうも容易く」


「容易く、ではありません。僕はこの半年、この国のために、魔石機関の開発に全てを注いできました。そして今、その技術と力を、隣国のために差し出そうとしている。決して、軽い決断ではありません」


ラディウスは、レイフの目をまっすぐに見返しながら、そう答えた。


アルバンが慎重に尋ねた。


「殿下、なぜここまでの条件を? エルダシアにとって、我が国はただの資源の供給元で構わないはずです」


「資源だけを吸い上げて、後は知らぬ存ぜぬという関係は、いずれ綻びます。バルトレインが貧しいままでは、いつか他国――たとえば北の帝国のような大国に、付け入る隙を与えることになる。僕は、バルトレインを豊かにしたい。豊かになったバルトレインが、僕らの――エルダシアの、確かな味方になってくれることを願っている。それだけです」


グレアム王は、しばし目を閉じた。長い沈黙の後、静かに瞼を開く。


「……正直に申し上げれば、我が国はこれまで、大国の顔色をうかがうだけの、弱小国でした。資源があっても、それを守る力がなく、いずれどこかの国に食い物にされるだろうと、覚悟すらしていた。その提案、お受けいたしましょう。エルダシアと、バルトレインの盟約を」


数日にわたる細部の詰めの後、両国の主だった重臣たちが立ち会う中、ラディウスとグレアム王が、それぞれ盟約の書に署名した。


「奪うだけの関係は、いつか綻ぶ。それに、弱小国同士が手を組めば、案外馬鹿にできない力になる」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


【技術おまけ】灌漑設備の歴史

農地に水を引く灌漑技術は、人類最古の技術の一つで、古代メソポタミアやエジプトでは、ナイル川やチグリス・ユーフラテス川の水を水路で導く大規模な灌漑網が既に築かれていました。近代に入ると、水車や風車を使った揚水ポンプが普及し、蒸気機関の登場によって、川の流れや風の有無に左右されない、安定した揚水が可能になりました。


【史実おまけ】資源と安全保障を交換した同盟関係

「資源の優先アクセス権」と「軍事的な保護・技術支援」を交換する関係は、現実の歴史にも例があります。1945年、米国とサウジアラビアの間で結ばれた関係(通称キンケード協定)では、サウジアラビアが石油の優先的な供給・開発権を米国に与える代わりに、米国が王家の安全保障を約束しました。また、第二次世界大戦後の米国と西欧諸国の関係では、経済・技術支援(マーシャル・プラン)、食料援助、集団防衛の軍事同盟(NATO)という三本柱が提供されました。


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次回もよろしくお願いいたします。

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