第31話:誰も取り残さない国へ
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秋の冷たい風が、王都の裏路地に佇む子どもたちの肩をすくませていた。婚礼から間もなく、ラディウスとエレインは、共同である施設の設立に取り組み始めた。
「戦や、産業の変化の中で、親を失う子どもたちが、まだ多くいます」
エレインが、静かに切り出した。
「学舎は、既に多くの子どもたちに学びの機会を与えてきました。ですが、家すら失った子どもたちには、その前段階――安心して眠れる場所と、日々の食事が必要です」
ラディウスは深く頷いた。
「王都だけでなく、同盟諸国それぞれに、孤児院を設立しよう。魔石機関による暖房と給湯、学舎への通学、そして手に職をつけるための徒弟制度――ただ保護するだけでなく、将来、自立していける仕組みを組み込みたい」
この話を耳にしたバジルは、珍しく自ら申し出た。
「坊っちゃま。もしお許しいただけるなら、慈恵院の運営に、私も一枚噛ませていただけないでしょうか」
「バジルが?」
「私自身、身寄りのない子ども時代を過ごしました。学ぶ機会をいただけたからこそ、今の私がございます。同じ境遇の子どもたちのために、この経験を役立てたいのです」
初めて明かされた、執事の生い立ちだった。ラディウスは静かに頷いた。
「もちろんだ。バジルほど、適任な相談役はいない」
かくして、「エルダシア慈恵院」と名付けられた孤児院が、王都を皮切りに、同盟諸国各地へと広がっていった。エレイン自身も、定期的に慈恵院を訪れ、子どもたちと直接言葉を交わす姿が、多くの民に親しまれるようになっていった。バジルもまた、公務の合間を縫っては慈恵院に足を運び、子どもたちに読み書きを教える姿が、いつしか日常の光景となっていた。
初等教育を担う学舎が定着したことを受け、ラディウスは次の段階――高等教育機関の設立に着手した。
「これまでの学舎は、読み書きと計算という、基礎の土台を作るためのものだった。だが、これから先、この国の産業をさらに発展させていくには、もっと高度な知識を持つ人材が必要になる」
王都に「エルダシア高等学院」が設立され、続いて、かつて商会設立時に構想されていた「エルダシア工科学院」も、正式に開設された。工科学院では、魔方陣理論、機関工学、建築、そして商業実務に至るまで、幅広い分野の専門教育が行われた。
「これまで学舎で学んだ子どもたちの中から、特に優秀な者たちが、さらに上の学びへと進めるようになる。彼らが、次の時代のこの国を支える人材になっていくはずだ」
数年後、工科学院の第一期卒業生たちが、それぞれ商会や工房、あるいは新たな発明の現場で活躍し始める様子を見て、ラディウスは静かな手応えを感じていた。




