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「力を隠していた第8王子、英雄になる 〜どうせバレたならトコトンやったら経済大国になりました〜」  作者: FUKA


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第18話:鉄の道、開通

真新しい線路が、朝日を受けて鈍く光っていた。ゲルニアとの盟約から二年、王都エルダシアとゲルニアの鉱山地帯を結ぶ、大陸初の「鉄道」がついに完成した。


「殿下、試運転の準備が整いました」


技師長の報告に、ラディウスは静かに頷いた。目の前には、鋼鉄の車輪を備えた巨大な車両――魔石機関を動力源とする「機関車」が、二本のレールの上に据えられている。


「魔石機関の心臓部は、鉱山排水用の設備で培った技術がそのまま活きた。あとは、これをどれだけ安定して走らせられるかだ」


長年の試行錯誤の末に辿り着いた車輪とレールの規格、蒸気圧を一定に保つ調速術式、そして急な勾配にも対応できる牽引機構――魔石機関を発明した当初には想像もしなかった応用の数々が、この一両の機関車に詰め込まれていた。


「出発!」


汽笛に似た甲高い音と共に、機関車がゆっくりと動き出した。荷台には、ゲルニアから運ばれてきた鉄鉱石が満載されている。これまで荷馬車で十日以上かかっていた行程を、この鉄の道はわずか一日半で走り抜けた。


「これまでの、何倍の速さだ……」


沿線に集まった民衆から、驚嘆の声が上がった。試運転の場には、バジルの姿もあった。長年、馬車の遅さに苦労させられてきた彼にとって、目の前を駆け抜けていく機関車は、感慨深いものだったのだろう。


「坊っちゃまが幼い頃、書庫に籠もっておられた頃には、まさかこのような日が来るとは、想像もしておりませんでした」


「僕もだよ、バジル」


ラディウスは静かに笑った。長年の付き合いだからこそ分かる、感慨のこもった一言だった。


「殿下、この成功を受け、アルベリク陛下より新たなご下命がございます」


王城に戻ったラディウスに、宰相ギルバートが一枚の書状を手渡した。開くと、そこにはアルベリク王直筆の言葉が記されていた。


『エルダシアのみならず、同盟諸国全土を結ぶ鉄道網の構築、そなたに一任する』


「……全土を結ぶ鉄道網、か」


ラディウスは地図を広げた。エルダシアを中心に、バルトレイン、ゲルニア、リンデンヴァルド、そして海を隔てたヴァレンシアまで――同盟諸国の地図の上に、これから敷設される鉄路を思い描く。


「エリー、これが完成すれば、大陸の物流そのものが変わる。人も、物も、これまでとは比較にならない速さで行き来できるようになる」


「ラディは、また新しい時代を作ろうとなさっているのですね」


エレインの言葉に、ラディウスは小さく笑った。


「大袈裟だよ。ただ、便利なものを作っているだけだ」


「その『便利なもの』が、この国の形そのものを変えてきたではありませんか」


その言葉に、ラディウスはふと、真剣な顔になった。


(産業が発達すればするほど、この国の在り方も、変わらざるを得なくなる……)


漠然とした予感が、彼の胸の中に、静かに芽生え始めていた。


鉄道網の建設と並行して、ラディウスはもう一つの構想に着手していた。


「物と人が速く動くだけじゃ足りない。情報そのものを、もっと速く届ける仕組みが要る」


「情報を、届ける仕組み、ですか。伝令の数を増やす、ということでしょうか」


技師長が、首を傾げながら尋ねた。


「いや、伝令そのものをなくす。声も文も使わずに、遠く離れた場所へ、瞬時に知らせを届ける」


「瞬時に……? そのようなことが、可能なのですか」


「雷の魔方陣を使う。稲妻という現象は、要は、極めて速く伝わる力の流れだ。あれを、細い金属の線に閉じ込めて、意図的に操ってやればいい」


技師長は、にわかには理解が及ばない様子で、眉間に皺を寄せていた。


「線を伝って、雷が走る……それは、危険ではないのですか」


「制御さえできれば、危険はない。むしろ、これまでのどんな伝令よりも、確実で速い」


彼が目をつけたのは、雷の魔方陣だった。電気を発生させる術式を応用し、離れた二点の間に細い金属線を張り巡らせ、電流の断続によって符号を送る「魔導通信機」を開発したのだ。鉄道の線路に沿って通信線が敷設されると、これまで早馬でも数日かかっていた情報伝達が、瞬時に行えるようになった。


初めて通信機を通して届いた符号を、技師長自ら解読して見せた時、その場に居合わせた一同から、どよめきが起こった。


「殿下……これが、本当に、遠く離れたバルトレインから届いたものなのですか」


「ああ。試しに、向こうの担当者に、今日の天候を尋ねてみた。返事はそこに書いてある」


「バルトレインの収穫状況も、ゲルニアの鉱山の産出量も、その日のうちに把握できる。これで、同盟全体の動きが、格段に見えやすくなる」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


【技術おまけ】電信の歴史

現実世界における電気通信の実用化は、1837年にサミュエル・モールスが発明した「モールス符号」による電信機が始まりとされます。電流のオン・オフを短点(トン)と長点(ツー)の組み合わせに変換し、遠隔地に符号を送るこの技術は、鉄道網の拡大とほぼ同時期に普及しました。


【史実おまけ】鉄道の誕生

現実世界で最初の実用的な蒸気機関車は、1804年にリチャード・トレビシックが試作したものですが、商業的な鉄道として世界に衝撃を与えたのは、1830年に開通したリバプール・アンド・マンチェスター鉄道です。ジョージ・スティーブンソンが設計した機関車「ロケット号」は、それまでの馬車輸送とは比較にならない速度と輸送量を実現しました。


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次回もよろしくお願いいたします。

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