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「力を隠していた第8王子、英雄になる 〜どうせバレたならトコトンやったら経済大国になりました〜」  作者: FUKA


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第10話:国造りの礎

雨上がりのぬかるんだ道に、荷馬車の車輪が深く沈み込んでいた。紙幣の流通が軌道に乗り、エルダシア商会の発展と同盟諸国の拡大が進む中、ラディウスは新たな壁に直面していた。


「殿下、工房の増設を計画しておりますが、職人の数が足りません。それに、道が悪く、雨が降ればぬかるんで物資の運搬もままなりません」


ラディウスがまず着手したのは、道路網の整備だった。


「これまでの道具は、全部、人の腕力が頼りだった。だったら、魔石機関でその腕力そのものを置き換えればいい」


ラディウスは、工兵たちの手による従来の土木作業を分析し、幾つかの専用機械を新たに設計した。まず組み上げたのは、地面を突き固める「転圧機」だった。魔石機関の回転運動を利用し、巨大な鉄輪を軌道の上で往復させることで、これまで人足たちが何十人がかりで石突棒を打ち下ろしていた作業を、ほんの数人の操作だけで済ませられるようにした。


次に、切り出した石材や砂利を現場まで大量に運ぶための「牽引車」を仕立てた。魔石機関を荷車に組み込み、これまで馬に頼っていた牽引力を大幅に底上げすることで、一度に運べる資材の量を、従来の数倍にまで引き上げた。


さらに、山間部からの砕石作業には、岩盤に振動を与えて割れ目を作る「破砕機」も投入された。手作業での石割りに比べ、遥かに短い時間で、均一な大きさの砕石を大量に生産できるようになった。


「まず、路盤に大きめの砕石を敷き詰める。次に、細かい砂利と石灰を混ぜたものを、その上に重ねる。最後に、転圧機で徹底的に締め固める――これを繰り返せば、雨が降ってもぬかるまない、頑丈な道になるはずだ」


ラディウスの指示のもと、これまで人力に頼っていた道路整備の工程は、次々と機械化されていった。工事現場が各地に広がるにつれ、資材の盗難や労務トラブルも増え始めたため、ダグラスは護衛隊の一部を割いて、現場の治安維持にもあたらせた。


道路と並行して、ラディウスは王都の水回りにも手をつけた。魔石機関を用いた揚水設備で清流から水を汲み上げ、市街地に配水する上水路と、生活排水を市街の外へと流す下水路を整備させた。工事から一年が過ぎる頃、王都では疫病の発生率が明確に減少し始めていた。


インフラの整備と並行して、ラディウスは「職業紹介所」を設置し、仕事を探す民と人手を求める工房を結びつけた。魔石機関の普及によって重労働の一部が機械に置き換わったことが、女性や高齢者にも新たな雇用の枠を広げていた。


だが、ラディウスが最も力を入れたのは、教育機関の設立だった。この構想の後押しをしたのは、意外にもバジルの一言だった。


「坊っちゃま。私自身、若い頃は文字も碌に読めず、随分と苦労いたしました。学ぶ機会さえあれば、と思う者は、この国に数えきれぬほどおりましょう」


執事としての己の来し方を、バジルが語ることは珍しかった。その一言が、ラディウスの背中を静かに押していた。


「僕が作りたいのは、貴族のためのものじゃない。平民の子どもたちが、読み書きと計算を学べる場所です。これから先、この国が発展を続けるには、一握りの天才ではなく、多くの民が知恵を絞れる土台が要る」


この構想を議会に相談すると、貴族院からは、これまでにない強い反発の声が上がった。


「平民に読み書きを教えるなど、身の程を弁えぬ考えをつけさせるだけではないか」


年配の貴族の一人が、苦々しい顔で言い放った。


「畑を耕し、工房で汗を流す。それが彼らの本分でしょう。学びなど与えれば、己の境遇に不満を持ち、いらぬ野心を抱く者も出てくる。そうなれば、この国の秩序そのものが揺らぎかねません」


「秩序、というのは、平民が今のまま、無知でいてくれることの上に成り立っているものなのでしょうか」


ラディウスは、静かに、しかし鋭く問い返した。


「僕はそうは思いません。魔石機関も、商会も、銀行も――全て、読み書きと計算のできる者がいてこそ、初めて回る仕組みです。この国がこれから先、より豊かになろうとするなら、平民の力を借りずには、決して成し得ません。彼らに学びを与えないことは、この国自身の可能性を、自ら閉ざしているのと同じです」


「理屈では、そうかもしれません。ですが、財源はどうなさるおつもりか。学舎の建設にも、教師の雇用にも、相応の費えがかかりましょう」


別の貴族が、現実的な懸念を口にした。


「エルダシア商会の利益の一部を、学舎の運営に充てます。この国の産業そのものが、いずれ学舎で学んだ者たちによって支えられる。そう考えれば、これは費用ではなく、未来への投資です」


長い議論の末、貴族院はしぶしぶながらも、学舎の設立を承認した。かくして、王都の各地区に「エルダシア学舎」と名付けられた初等教育機関が設立された。数年もすると、学舎で学んだ子どもたちが、商会や工房で重宝されるようになっていく様子が目に見えるようになり、当初反対していた貴族たちの間からも、その価値を認める声が次第に増えていった。


「魔石機関、商会、銀行、紙幣……そして今度は、道と水と学び舎」


「派手さはないけどね。でも、こういう地味な土台があってこそ、この国は本当の意味で『強い国』になれる」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


【史実おまけ】インフラと公教育の歴史

道路整備は古代ローマ帝国が特に有名で、「全ての道はローマに通ず」の言葉通り、帝国全土に張り巡らされた街道網が経済と軍事の両面を支えました。上下水道の分離も、19世紀イギリスでコレラの流行を機に本格化した歴史があり、疫学者ジョン・スノウが汚染された水源を突き止めたことで、公衆衛生の考え方が大きく進みました。また、身分に関わらず全ての子どもが学べる公教育制度は、19世紀プロイセン(現ドイツ)の義務教育制度が近代的なモデルの先駆けとされています。


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次回もよろしくお願いいたします。

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