6 地球
ヨットの天蓋を端に避け、海の見える大きな窓からひと晩中外を見なが過ごしていたルイは、宙が青くなるのを感じて2人を揺り起こした。
「シオくん、ユージン、おはよ。日の出そろそろだよ」
眠い目を擦りながら、再び海岸へ向かう。
薄い水色の空に横切る白い筋雲、暗く波打つ海原。
刻々と光の金に輝く暁の紫と赤が入り乱れる夜明の空と紺碧の海が色づいていく。
「1日の変化がスゴイね地球って。なんで24時間なのかと思ったことなかったけど、だから1日なんだって感じるよ」
「これに四季の変化もあるんだろ?1年を区切りにするのも実感であるんだろうな」
「宇宙に住みはじめの頃はそういうの意識していたらしいけど・・・ほら、調整大変だから」
「あぁ~」と納得の音が漏れる。
すっかり朝になり、朝の散歩を日課にしている住民が見え始めると3人は宿に戻る。
ちょうど朝食の時間になっていたようで、イングリッシュブレックファーストな朝食を頂く。
「家の朝食は地産地消を目指しているから、野菜も肉も牛乳や卵も新鮮で美味しいわよ」
「「「!」」」
3人が1番衝撃を受けたのは牛乳だった。
加工ミルクで彼らは育っているため、成分無調整でさらに低温殺菌の牛乳は初めてでイメージとの味の違いに驚いている。
そして、帰り支度をはじめ他の宿泊客がチェックアウトを終えた頃にユージンは写真を持って声をかけた。
「伝えたい事があります」
写真を差し出すユージンから、写真を受け取り目を見開く。
「あなた、ユウリの子供なのね!どうりで孫と似ているわけだわ。遠くからよく来てくれたわね、ユウリは元気?」
「えっと・・・」
言葉に詰まったユージンに何かを感じたのか、食堂に家族が集まってくる。
「10年前に、大きな事故で・・・両親は・・・」
しんと静まった。
「宇宙での事故は何も残らないんです。そのまま星になっちゃうから。やっとここに来て伝えるまで10年かかって、ごめんなさい」
太陽系外から地球に通信も手紙も届かない。
宇宙警察を通して許可証を取り、自力で訪問するしか統べは無いのだ。
ユージンが差し出したのはノートに書かれた日記だった。
オトホシでユージンが派出所の自宅から持ち出した物だ。
「手紙みたいに地球の実家に宛てた日記になってました。貰ってください」
「・・・嫁に行くのも急だったが、そうか」
悲しみに沈む空気の中、ルイは思い浮かんだ事をシオに伝えたくなった。
「500光年先の10年前って、地球ではまだ来てない気がするんだけど」
「宇宙・・・パラドックス」
宇宙炉の単語を飲み込んだ、その小声は静かな室内にしっかり伝わり、空気が緩む。
「あの子が星の中にいるのは変わらないってことか。君の名前は?」
「勇仁。仲村渠勇仁です」
「そうか、家の苗字を名乗ってくれているのか」
「折角来たのに、もう帰るなんて」
「滞在が3日だから、もう行かなきゃなんだ」
「・・・元気でね」
また来てねとは言えない距離分かって、見えなくなるまで手を振って別れ、3人は月に戻るため宇宙港に向かう。
「ルイ、よく思いついたな」
「地球から太陽までの距離は天文単位というんだ。光では8分の距離。1年間に光が進むのが1光年で、俺達は1光年を1時間で旅できる」
そこで、息をついた。
「星空を見ながらそんな事を調べてたら陥ってしまっただけだけ。帰りのシャトル寝るかも」
「ついたら起こすよ」
「シオ、ルイ。あれっ!!」
雲の多い西の空に虹が出ていた。
「地球満喫した気分だ」
「いい旅だったね」
こうして地球旅行を終えて月面都市へ戻ったのだった。




