5 黄昏
海が見える坂の上に赤い屋根屋根とクリームの壁のそのペンションは立っていた。
通された部屋は白い部屋にエメラルドグリーンがアクセントで使われた、海の見える大きな窓が特徴だ。
2人部屋が中扉で隣とつながって、もう片方はヨットモチーフのコンセプトルームである。
ヨット型のベッドに帆のような天蓋が付いて、海を模した壁紙、絨毯、シェル風ソファ
にはイルカのぬいぐるみ。
「かわいい。子どもの頃ならこっちを選んだけど」
「シオとユージンがそっちで寝て、俺がこっちだね」
睡眠時間の関係の話だ。
「・・・亡くなったとか、無理に伝えなくてもいいんじゃない?」
「言うにしても、オレが説明してもいいんだぞ」
「うん。もう少し待って」
部屋で少ない旅行の荷物を片付けて、やや深刻な話をしていると、窓の外が赤く染まっているのに気が付き、外を見た。
青空に漂う白い雲が、空の半分と海の波を金に輝くオレンジの光りで染められていく。
沈む太陽に、細い月が追従しているようだ。
茜色の夕映えがだんだん影に飲まれ、濃紺の青さを残した空が見慣れた宙に変化する。
まだ仄かに青さの残る東の空に仄かに赤く煌めく星が1つ。
刻々と変化する景色に思わず見惚れていた。
コンコンと、ノック音が部屋に響くまで魅入っていた3人は部屋が大分暗くなっていることに驚いた。
「皆さんお食事が出来てますよ」
「ありがとうございます。今行きます」
食事はちょっとした食堂くらいのダイニングで行った時には始まっていた。
「ずいぶん遅かったわね」
「すみません。夕焼けがこんなにきれいだとは思って無くて・・・」
「社会人になるとのんびり空の変化も感じられなくなるものね。夜は星空もきれいよ」
(その星の彼方から来てます)
出掛かった言葉は、食事と一緒に飲み込んだ。
食事を終えた頃時刻は8時近くをさしていた。
星を見てくる旨を伝えると、海辺が光がなくて見やすいと教えてもらい、懐中電灯を借りて昼間に来た
浜へ向かう。
外に出ると、宙とは違う夜が広がっていた。
生き物や波や風の音の全てがざわめき、惑星の息吹が強く主張してくるようだ。
見上げる夜空は満天の星。
「地球で星は神様のお話なんだよね。ここからなんで外に向かう必要あったんだろうね?」
「確か、度重なる戦争や人口増加で環境が悪化して、宇宙炉出来るまでが地獄みたいな世界だってテキストにあったな」
「再生したい地球が人類追い出したってどうかな」
海岸に着くと、空の星の煌めきがよく見えた。
「地球からはこう見えるんだな」
「これを立体図として星間航路してるんだからすごいよね」
見上げた空に流星がひとすじ。
「・・・何か大気圏突入したね」
風情が無いユージンだった。
「我が君は 千代にましませ
さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」
「シオくんなにそれ」
「大切なあなた長生きしてくださいって詩だ。長寿の祝の言葉なんじゃないかな。古代日本の詩で和歌というらしい。今読んでる先祖が手習いで作った『自選古今和歌集』なる冊子にあった」
「・・・それ、誰かの黒歴史だったりしない」
真実は闇の中。
そうだとしたら闇の中で発狂しているだろう。




