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浮気夫に義父の家へ預けられた妻は、そこで本当の愛を知りました  作者: 三ノ宮 みさき


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4 気になる男を追った先で、二人の女が動き始める

 自宅の住所を知ることができた。

 だから、近くまで行ってみるつもりだった。

 一軒家だが、古さが感じられる家だ。

 ここに祐一さんが住んでいる。

 長居をするつもりはない。場所を確認できれば、それでいい。

 そう思って、その場を離れようとしたときだった。

 足音が聞こえた。


 恵梨香が振り返ると、一人の男性の姿が目に飛び込んできた。

 白髪交じりの髪に眼鏡。長身で、姿勢もいい。

 ちらりと見ただけのつもりだった。

 凝視したつもりはない。なのに、なぜか目が離れなかった。

 男性と目が合った気がして、恵梨香はわずかに胸を高鳴らせた。


「正志さん」

 背後から、若い女性の声がした。

「ただいま」

 男性が女性に声をかける。

 二人は、そのまま家の中へ入っていった。

 恵梨香は二人の後ろ姿を見つめた。

 もしかして、あの人が祐一さんのお父さん?

 でも……あの女性は、まさか、あの男性の奥さん?

 あの女性は若い。自分と、あまり変わらない年齢ではないかと思った。

 祐一さんの兄弟?

 でも、それなら正志さんと、あんなふうに呼ぶのはおかしくない?

 あの女性は誰なのだろう。

 恵梨香は、もう一度、二人が入っていった家を見る。

 祐一さんが父親の家で暮らしていることは知っている。

 だから、あの男性が祐一さんのお父さんだとすれば、ここまではおかしくない。

 問題は、あの女性だ。

「……誰なんだろう」

 気になった。

 ほんの少し前まで、ここが祐一さんの家だと確認できれば、それでよかった。

 それなのに今は、あの女性のことが気になって仕方がない。

 だが、それだけではない。

 さっき見た男性の顔まで、なぜか頭に残っている。

「……私、何をしてるんだろう」

 祐一さんのことを知りたくて、ここまで来たはずなのに。

 どうして父親らしい男性と、一緒にいた女性のことが気になっているのだろう。

 恵梨香は、もう一度だけ家を振り返った。

「……まさか」

 あの女性……祐一さんの奥さん?

 そう考えると、妙に胸がざわついた。


 あの人は結婚しているだろうか。

 そう思うと、知りたくなった。

 だが、ネットで調べても情報が分からない。

 結婚していたら、名字が変わっているかもしれない。

 正志という名前は、特別なものではない。

 普通に探せば、同じ名前はいくらでも見つかる。

 以前、住んでいたところは確かアパートだったはずだ。

 だが、調べてみると、随分と前に取り壊されていた。

 今は、どこに住んでいるのだろう。

 気になってしまう。

 会いたいという気持ちが、少しずつ強くなっていった。

 仕事帰り、彼女は駅前の書店に立ち寄った。

 何か読みたいわけではない。

 ただ、部屋にすぐ帰る気にはなれなかった。


 新刊の棚を眺めていると、少し離れたところに長身の男性がいた。

 手にしているのは文芸誌だ。

 横顔を見た瞬間、彼女の足が止まった。

 眼鏡、髪は白髪交じりだ。

 けれど、その顔を見れば見るほど、昔の記憶にある男性の顔と重なっていく。

 似ていると思った。

「……まさか」

 気づかれないように視線を向ける。

 男性は文芸誌をめくっている、横顔だけでは、まだ分からない。

 声をかけてみようかと思ったが、人違いだったらどうしよう。

 それでも、気になって仕方がない。

 男性が店の出口へ向かった。

 女も、少し遅れて歩き出した。

 本人なのか、確かめたかった、ただ、それだけだ。


 書店から、そう離れた場所ではなかった。

 男性が一軒の家の前で足を止める。

 門に出ている表札を女は見た。

 吉川、間違いないと思った、吉川正志。

 女はしばらく、表札と家を見つめていた。


 アパートに戻ってからも、気持ちは落ち着かなかった。

 自分の住んでいる場所から、そう遠くない。

 こんな近くに住んでいたなんて、知らなかった。

 表札に書かれているのは「吉川」という名字だけだ。

 家族の名前までは分からない。

 結婚しているの?以前、大学時代は恋人がいたという話は聞いたことがない。

 今はどうなのだろう。

 妻がいるのか、それとも、一人で暮らしているのか。

 気になってしまった。



 スマホのメモアプリに登録した祐一の住所を見ながら、恵梨香は考えていた。

 部署の責任者である女性が、海外へ出張するという話には驚いた。

 内心、良かった、いや、ほっとしたというほうが近い。

 上司ではあるが、自分に対して少し厳しすぎるのではないかと思っていた。

 女性だから、同性には厳しいのだろうか。そんなふうに考えたこともある。

 だが、ふと別のことが頭に浮かんだ。

 あの人は、祐一さんのところへ行く。

 そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。

 仕事ができる、容姿も悪くない。

 祐一さんとも仕事で接する機会が多い。

「……まさか」

 恵梨香は思わず呟いた。

 もしかして、あの人も祐一さんのことを……。

 いや、それだけではない。

 祐一さんの愛人なのではないか。

 そう考えると、今までのことまで違って見えてくる。

 自分に対して厳しかったのも、もしかしたら……。

「そんなわけないか」

 恵梨香は首を振った、さすがに考えすぎだと思った。

 だが、それでも気になった。

 誰か知っているかもしれない。


 夜、恵梨香は何人かの女性社員に、連絡し、それとなく尋ねてみた。

「あの人、吉川さんと仕事でよく一緒になるよね?」

「そうね。海外の仕事もあるみたい」

「……それだけ?」

「え?」

 相手が一瞬、無言になり、恵梨香は慌てて、なんでもないと答えた。

 一度スマホを切り、今度は別の人間に尋ねてみた。

 だが、自分の想像、二人が付き合っているという話は出てこない。

 噂になっている様子もない、だとしたら、自分の考えすぎなのかもしれない。

 上司が海外へ行く、祐一さんのそばへ行く。

 それが、どうしてこんなに気になるのだろう。

「……私、嫉妬してる?」

 口に出してみて、恵梨香はすぐに否定した。

「そんなわけない」

 けれど、自分に言い聞かせるような言葉になっていた。

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