森の深淵、演習という名の「狩り」
村長との対談という名の「証明」を前に、キラとレオ、そして精鋭猫部隊は村外れの原生林へと足を踏み入れていた。この森には、人間たちが普段は近寄らない、飢えた獣魔獣たちが潜んでいる。
「レオ、まずはあの茂みを見てみろ。風の揺らぎが不自然だ。獲物が自身の熱を隠すために、空気の密度を操作しているんだ」
キラが前足で空気を小刻みに叩くと、レオの視界に『獣の気配』が可視化された。潜んでいたのは熊級の獣魔獣。キラが空気の膜で周囲の酸素を遮断し、獣が苦しげに喉を鳴らした瞬間、レオは地面を蹴った。強化された脚力で獣の膝裏を一撃し、重心を崩す。間髪入れず、木の上から猫たちが一斉に舞い降り、神経系への同時攻撃で獣を沈黙させた。
しかし、森に静寂が戻ったのも束の間。地響きと共に、さらに三頭の群れが姿を現した。
「くっ、群れか……! さすがにこいつは……」
レオが身構える横で、キラはあくまで冷静だった。
「レオ、焦らなくていい。今の動き、完璧だったぞ。お前は獲物の確保に集中しろ。あとの連携は俺たちに預けてくれ」
キラの言葉に背中を押され、レオは生活魔法で一頭目の巨獣を即席の荷台へと浮かべた。その隙に、キラは数千の猫たちへ視線を投げた。
「よし、氷陣形!」
第一団隊の猫たちが地面を叩くと、獣たちの足元の土が瞬時に凍りつき、獣たちは見事なまでに転倒した。そこへ第二、第三団隊の猫たちが、それぞれ百匹単位の連携で魔法の奔流を叩き込む。風、炎、電撃――組織的な波状攻撃は、もはや狩りではなく「処刑」の光景だった。
三頭が沈黙するまで、一分とかからなかった。レオは荷台を操りながら、その圧倒的な統制を呆然と見つめる。
(これがキラの……俺たちの力か。ただの支配じゃない、圧倒的な力だ)
キラは毛並みを整えると、レオに歩み寄った。
「よくやったな、レオ。お前の切り崩しのおかげで、スムーズに片付いた。これで今日の狩りは終わりだ」
猫たちが手際よく木を切り出し、即席の大きな荷台が完成する。四頭分の肉を乗せ、レオが魔法で荷台を浮かせると、行列は村へと歩き出した。
「さて、レオ。戻ろうか。帰ってご飯にしよう。特に大したこともやってないし、今日はもうのんびりだ」
キラのあまりに自然な言葉に、レオは少しだけ目を白黒させたあと、小さく吹き出して笑った。
「……ああ、そうだな。帰ろうか、キラ」
レオはキラの背中を見つめ、これ以上ない頼もしさを感じながら、誇らしげに村へと足を進めた。




