胃袋の『調律』と完璧なスープ(a×bの進化)にゃ!
見習い騎士レオの部屋での生活は、キラにとって極上の研究環境でもあった。
ただ与えられたスープを飲むだけでは、前世の一人の父親としてのプライドが許さない。キラは、レオが買ってくる安い食材や、駐屯地から持ち帰る端切れの肉を、猫の鋭い嗅覚と前世の栄養学で「調律」し始めていた。
「シロ、今日も市場で安かった干し肉と、余り物の固いカブを持ってきたぞ」
レオがテーブルに食材を並べる。異世界の一般的な調理法は、これらをただ水で煮込むだけだ。だが、それでは素材の持つ栄養価が破壊され、吸収率も著しく低い。
キラはトコトコと机に上り、小さな肉球で特定のハーブの束をポンポンと叩いた。
「ん? これも一緒に煮込めってことか?」
(そうだ少年。そのハーブに含まれる有機酸が、固い肉の繊維を分解し、タンパク質をアミノ酸へと最速で変化させる。さらに、お前が持っているその安い油脂を少量加えるんだ)
キラの鳴き声と肉球の指示に従い、レオがスープを煮込んでいく。
肉のタンパク質(a)と、適切な油脂およびビタミン(b)。これらが熱によって正しく結合した瞬間、スープの匂いが劇的に変化した。ただの貧乏スープから、濃厚で、五臓六腑に染み渡るような至高の香りが立ち上る。
「うわ……なんだこれ、めちゃくちゃ美味そうだ!」
驚くレオの横で、キラも自分の器に注がれた特製スープを口にする。
(完璧だ。小腸の絨毛が、余すことなく栄養を完全に解明し、吸収しているのが分かる)
『a × b』の乗算栄養学によって、子猫の脆かった生体回路の耐性ランクは、急速に引き上げられていく。スープを飲み干したキラは、深い満足感に包まれながら、ゴロゴロと喉を鳴らしてお腹を上に向け、ベッドの上をごろりと転がった。
毛並みは今や、シルクを凌ぐほどの純白とフワフワ感を放っている。レオはその最高峰のもふもふな体におでこを押し付け、「シロ、お前は最高の幸運の猫だなぁ」と涙ぐんでいた。




